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空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家を活用して住宅確保要配慮者の住まいを確保する!改正住宅セーフティネット法が施行

空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度がスタート

2017年10月25日に空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度がスタートしました。具体的には、住宅確保要配慮者(高齢者、子育て世帯、低額所得者、障害者、被災者など住宅の確保に特に配慮を要する方)の入居を拒まない賃貸住宅として空き家を登録してもらう制度の創設と住宅確保要配慮者の入居円滑化に関する措置の実施です。

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第193回国会において、民間の空き家、空き室を活用して、高齢者、低額所得者、子育て世帯等の住宅確保要配慮者※の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度の創設、独立行政法人住宅金融支援機構(以下、「機構」という。)による支援措置の追加など、住宅セーフティネット機能を強化するための「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成29年法律第24号。以下「改正法」という。)が成立し、平成29年4月26日に公布されました。

※高齢者、低額所得者、子育て世帯、障害者、被災者等の住宅の確保に特に配慮を要する者

報道発表資料:新しい住宅セーフティネット法が10月25日から施行されます - 国土交通省

簡単に賃貸住宅に入居できない問題

ではなぜこのような新制度が生まれたのか。背景には、住宅確保要配慮者が簡単に賃貸住宅に入居できないという問題があります。単身高齢者や生活保護受給者、一人親世帯などは大家の入居拒否感が高いのです。

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(画像引用元:報道発表資料:新しい住宅セーフティネット法が10月25日から施行されます - 国土交通省>【参考】改正SN法概要PDF形式

(1)単身高齢者の増加

65歳以上の単身高齢者の増加が男女とも顕著です。2015年は、男性約192万人、女性約400万人、高齢者人口に占める割合は男性13.3%、女性21.1%で、今後10年で100万人も増えると予測されています。

f:id:cbwinwin123:20171029110238p:plain(画像引用元:1 高齢者の家族と世帯|平成29年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

(2)若年層の収入の低下

若年層の収入はピーク時から1割も減っています。例えば30歳代給与は平成9年は474万円でしたが、平成27年は416万円まで下がっています。

(3)家が狭い

子どもを増やせない子育て世帯にとってその理由として、家が狭いからと答えている世帯は16.0%。

(4)一人親世帯の貧困

一人親世帯の収入は夫婦子世帯の43%にまで下がります。(平成26年:一人親世帯296万円、夫婦子世帯688万円)。(参考:子育て世帯、平均収入は683.2万円…ひとり親世帯の貧困率43% | リセマム

大家さんからすれば、家賃滞納、孤独死、子どもの事故や騒音などへの不安から入居拒否へとつながっている現状があります。では公営住宅でなんとかカバーと考えつつも、人口減少が進む日本において、公営住宅を新設するだけの財政的余裕もない。そこで増加している空き家・空き室を活用しようという流れです。

「2020年度末までに17.5万戸を登録」は弱気?

国土交通省では2020年度末までに年間5万戸相当で、合計17.5万戸の空き家・空き室を登録してもらうことを目標にしています。平成25年住宅・土地統計調査によると全国に賃貸用の住宅の空き家は429万戸(その内、耐震性等があり駅から1以内は137万戸)、その他の住宅の空き家は318万戸(その内、耐震性等があり駅から1km以内は48万戸)ですので17.5万戸はだいぶ少ない気がしますが、賃貸住宅のオーナーや個人住宅の所有者が登録してくれないことには始まらないので、まずはこれくらいの数値目標なのでしょう。

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(画像引用元:報道発表資料:新しい住宅セーフティネット法が10月25日から施行されます - 国土交通省>【参考】改正SN法概要PDF形式

経済的メリット

賃貸住宅のオーナーにせよ、個人住宅の所有者にせよ、上記のような面倒は被りたくないと考えるのは当然です(社会貢献の志高いオーナー、所有者もいらっしゃると思いますが)。では、賃貸住宅のオーナー、個人住宅の所有者にとって登録のメリットは何でしょうかというと、経済的メリットになります。具体的には耐震改修やバリアフリー化の工事費用、入居者の家賃に補助金が出ます。

改正住宅セーフティーネット法の狙いの一つは、住宅困窮者と増え続ける空き家のマッチングを円滑に進めること。物件を事前に登録してもらい、自治体が改修費や家賃の一部を補助する制度を始める。

住宅困窮者向け制度 あす施行 空き家活用 効果に疑問も :日本経済新聞

ただしこの補助金に関しては法律の条文には盛り込まれず、予算措置に止まっているので、今後恒久的に補助金が支給されるかは不透明です。この点については一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事・稲葉剛さんが世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」が各政党にロビイングを行い、家賃低廉化について最終的に附帯決議が採択されています。

条文に明記されない事業は、その時々の財政状況によって縮小されたり、停止されたりする可能性が高まります。また、この家賃低廉化以外にも、支援の対象とされる「被災者」が災害発生三年以内に限られるという記述がある等、法案にはいくつか不充分と思える点がありました。

稲葉剛公式サイト » 改正住宅セーフティネット法が成立!まずはハウジングプアの全体像に迫る調査の実施を!

居住支援法人による入居・生活支援

住宅確保要配慮者の入居・生活支援を担当するのは、都道府県が指定する「居住支援法人」です。

都道府県は、入居者の生活を支援する団体を「居住支援法人」に指定します。この法人は、入居を希望する人から連帯保証人などの相談を受けたり、住宅に入居した後、見守りなどの生活を支援したりすることになっていて、活動費として、年間最高1000万円の補助が受けられます。
一人暮らしの高齢者でも、入居した後も見守りをしてもらえれば、孤独死などの心配も減りますから、家主も安心して貸すことができるというわけです。

「住宅セーフティーネット新制度 住まいの確保につながるか?」(くらし☆解説) | くらし☆解説 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス

いわゆる居住支援協議会は2017年9月30日時点で全都道府県と22区市町の69協議会が設立されています。単身高齢者や生活保護受給者、一人親世帯など、福祉的なある種専門的なアプローチが必要となってきます。福祉的な団体、不動産関係団体、自治体の福祉部局と住宅部局など、関係機関が密に連携していくことが重要です。

f:id:cbwinwin123:20171029121433p:plain(画像引用元:住宅:居住支援協議会について - 国土交通省

まとめ

賃貸住宅のオーナー、個人住宅の所有者にとって多少なりとも経済的メリットがあってもやっぱり面倒なことはしたくないという反応が懸念されます。国交省では「大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック」を作成するなど、登録住宅のオーナーの不安を少しでも解消しようという考えが見て取れます。経済的メリット以外にも社会貢献に意欲的な賃貸住宅のオーナー、個人住宅の所有者も結構いらっしゃるのではないかと思います。この新制度がこうした志ある大家さんの掘り起こしにつながると良いです。なお、全国の都道府県では登録受付がスタートしています。東京都もウェブサイトで公開しています。

(参考記事)
新たな住宅セーフティネット制度は何が変わった?増える空き家を活用した賃貸住宅の登録制度も
増える空き家を「高齢者の住宅」に活用 懸念される課題とは? | ZUU online
VOL.101~住宅セーフティネットの強化に向けて【不動産ジャパン】