マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家の発生は”市場の失敗”なのか!?いや、いつまでも”昭和な住宅政策”の結果なんじゃない

空き家の発生は”市場の失敗”なのか?

 

空き家の多くは「賃貸用の住宅」(約55%)と長期不在や取り壊す予定の「その他の住宅」(約35%)です。そして住宅市場のプレーヤーは不動産業者や建築業者が主です。空き家の半分以上は住宅市場(賃貸市場)に出ているにもかかわらず買い手や借り手が発見つかりません。これは経済学的に言えば”需要と供給のミスマッチ”が生じているという状態にあたります。

 

”需要と供給のミスマッチ”が生じるということは教科書的に言えば「市場の失敗」(需要と供給が均衡した効率性が達成されていない状態)です。しかし単純に「市場の失敗」とも言い切れない事情があります。それは政府が経済対策として新築住宅着工を政策的に後押ししてきたからです。

 

新築住宅がひとつ売れると、生産誘発効果が約2倍あるとされ、これほど経済波及効果がある政策は他にはなかなか見当たらないためです。少しでも景気が悪くなると、国家予算を使って住宅ローン金利を低くしたり、住宅ローン減税を行う、その他固定資産税や不動産取得税などの優遇をすることで、新築住宅が売れるようにしてきたわけです。

住宅市場はもはや持続不可能 長嶋修さんの不動産投資コラム75話【健美家】

 

1968年に住宅数が世帯数を上回り、とっくに住宅数は足りているのに経済波及効果が高いという理由で新築住宅を作り続けてきた経緯があります。次の図は2011年に出された野村総研による2023年度までの新設住宅着工戸数の予測です。耐震偽造問題による建築確認の厳格化の影響(2007年度)やリーマンショックの影響(2010年度)により新築着工戸数は減少しましたが、そもそも作り過ぎです。

 

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国内の新設住宅着工戸数は、2020年頃まで年80万戸台で推移~世帯数減少等の影響で減少へ~ | 野村総合研究所(NRI)

 

新築住宅着工を後押しする住宅政策も人口が増加する社会ならば成立します。しかし、言わずもがな人口も世帯も中長期的に減少します。新築住宅を作っては壊す「スクラップアンドビルド」はいいかげん卒業すべきです。 

 

 

「新築住宅建設の経済波及効果は高い」は疑問

 

新築住宅建設の経済波及効果が高いという資料(産業連関表)は1990年代後半に作られたものです。15年位前です。インターネットが出始めて携帯電話もまだまだそこまで普及していなかった頃に作られた資料がいまだに使われているのです。

 

そもそも今となっては、新築住宅が売れることで本当に経済波及効果が2倍もあるのかということについて疑問視されています。当時、この数字をつくった麗澤大学の清水千弘先生が、Twitterで以下のように述べられています。

住宅市場はもはや持続不可能 長嶋修さんの不動産投資コラム75話【健美家】

 

出典は「新築住宅建設は高い経済波及効果」のウソ :マイホーム選び ここがツボ:貯蓄・ローン :マネー :日本経済新聞です。じきにリンク切れしてしまうので全文掲載させていただきます。

 

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「新築住宅建設は高い経済波及効果」のウソ
不動産コンサルタント・長嶋修 2014/4/16 7:00

 

もし日本国民がいま、プラス500兆円の資産を持っていたら――。

 アメリカをはじめ他の先進国のように、価値が落ちない中古住宅市場を創ることができていれば、家計資産に約500兆円の資産が計上されていたはずである。そのことは以前「中古住宅を再生・再評価 500兆円の富が生まれる(2013年11月2日)」でお伝えした。保有資産の価値が上昇していれば、それに応じた資産効果で消費はより活発になっていたであろうし、担保価値の上昇によって融資枠が生まれ、投資も相当程度増大していたはずである。他の先進国と違って日本の中古住宅市場は唯一、逆資産効果が働く市場のままだ。

■住宅購入者の多くが「債務超過」

 実際、住宅ローンを借りてマイホームを買った世帯の多くが、住宅ローン残債額が住宅の価値を上回る「家計内債務超過」を抱えている。総務省の家計調査によれば、住宅ローン返済がある世帯は、ローン返済がない世帯よりも平均消費性向が低いことがわかっている。

 グラフを見ると明らかなように、住宅資産は年数の経過とともに大幅に減価していき、50歳以上では世帯当たり平均約2000万円の減価になっている。冒頭の仮定は、以下のように置き換えてもよい。「50歳以上の2人以上世帯で、1世帯あたり2000万円の資産を持っていたら」――。

■手つかずの新築抑制策

 建物に対する投資額が20~25年で価値がゼロになるといった中古住宅市場は先進国では珍しい。したがって、新築住宅建設を抑制しながら、中古住宅市場・リフォーム市場を活性化させるといった政策が必要だ。中古住宅・リフォーム市場については現在、着々と整備が進んでいるが、新築住宅抑制についてはまだ何ら手が打たれていない。

 「新築住宅建設は経済波及効果が高い。新築住宅を抑制したら経済はどうなるのだ。景気が悪化してもいいのか?」という反論が強いためである。特に昨今は消費増税に伴う景気の腰折れ懸念もあり、もっともな意見に聞こえる。

 とはいえ、このまま新築住宅建設を続けるのは、人口・世帯数が長期的に大きく減少するなかで、どのみち持続可能ではない。もし続けるのなら、少子化対策や移民受け入れなど、日本の人口トレンドを根本的に変える何らかの施策を早急に検討、実行に移さなければならないだろう。

■2倍の生産誘発効果?

 新築住宅建設は経済波及効果が高いとされ、これまで主に景気対策として用いられてきた。産業連関表(経済産業省)によれば、新築住宅建設による生産誘発効果(経済波及効果)は約2倍とされる。これほどまでに波及効果の高い産業はほかには見あたらず、だからこそ、これまで景気回復・雇用対策といえば常に新築住宅建設促進策がとられてきた。

 だがこの経済波及効果、本当に2倍もあるのか。今や自治体が補助金を出して空き家を解体してもらう時代だが、こうしたコストはもちろん産業連関表には含まれていない。人口密度がまばらになり、行政効率が悪化したり、地価が下落したりする影響などもしかりだ。

■長期的にはマイナスの可能性も

 またこの経済波及効果について、当時この数字を出すのに携わった清水千弘氏(ブリティッシュコロンビア大学経済学部客員教授)がTwitterで以下のような発言をしている。

 「住宅投資の投資乗数は、1990年代後半に、私が旧経済企画庁で計算したものが、いまだに利用されている。一生懸命積み上げて大きくした数字です。猛省しています」

 新築住宅建設による景気対策は基本的に業界に対するもので、ごく短期的な効果しかないかもしれないどころか、長期的には大きなマイナスを生んでいる可能性が高い。

 次回コラムでは、中古住宅の資産化について更に言及していきたい。

 

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結論

 

結論。空き家の発生は市場の失敗ではなく、政府が意図的に新築住宅を優遇してきた結果です。経済波及効果高いと言っている割に経済低成長の「失われた20年」だし、そもそも疑問視されているし、調べれば調べる分だけ矛盾が見つかります。持続可能な住宅政策へと軌道修正していくことは必要ですが、政治行政へ政策提言するという二項対立の関係では時間もかかります。「出来る事を出来る人たちでやっていくしかない」と思っています。そこでキーになるのは「NPO」だと思います。次回はNPOを取り巻く状況やNPOの生み出している価値などについて書きます。