新宿・紀伊国屋書店で開かれた「図書館トークイベント」に行ってきた
紀伊国屋書店新宿本店で開催された「”図書館のこれからを語る”猪谷千香さん×鎌倉幸子さんトークイベント」に行ってきました。最近、佐賀県の「武雄市図書館」や東京都の「武蔵野プレイス」などこれまでにない図書館がどんどん生まれているので興味が沸いています。インターネット、スマートフォンの普及、電子書籍というサービスも出て来ている中、紙媒体を軸とする図書館の役割は今後どのように変化していく必要があるんでしょうか。
(画像引用元)
このトークイベントはお二人の新刊図書を引き合いに話が進みました。まず元産経新聞の記者で現在はハフィントンポスト日本版のレポーターとして公共図書館や地方自治について取材している猪谷千香さんのお話の要点としては、
- 少子高齢化で今後、自治体ではますます財政難に陥る。その結果真っ先に予算削減されるのが公立図書館
- 「武蔵野プレイス」のように青少年育成やNPO支援、大学と連携した生涯学習の実施などこれまでに無い新しいサービスを付加したり、駅前の立地条件の良い場所にして来客数を増やすなど”外(地域社会)”に目を向けざるをえなくなる(複合的な機能を果たすことに)
- ”にぎやかな図書館”が特色の「武蔵野プレイス」が持つ”つながる機能”の中の青少年活動支援機能は「ティーンズスタジオ」、生涯学習支援機能は「ワークテラス」と呼ぶ→キャッチーな言葉だからこそ親しまれる
- 商店街の空き店舗やマンションの空き室などを活用した民間図書館の「NPO法人情報ステーション」(千葉県船橋市)が実績を挙げているように”コミュニティスペース”としての図書館はニーズが高い
- 今年5月に民間の有識者会議から「消滅可能性都市」(2040年にまでに若年女性(20─39歳)の人口が50%以上減少し、消滅する可能性がある市区町村は全国に896ある)の予測が公表され、今後ますます自治体の生存戦略が激しくなる
- 盛岡市紫波町図書館は駅前の大規模再開発で建った複合施設の中に新しく開館した。隣の棟にはマルシェがあり、地元の素材を使ったレシピ本などを紹介したり、農薬講座を実施したり、”農業支援という切り口”で戦略的にサービスを提供している
著書では日本全国の「つながる図書館」が紹介されています。この”つながる”の意味は地域社会や異分野(青少年育成、NPO支援、生涯学習支援など)と図書館をつなげ利用者の多様なニーズに応えていこうということです。
つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)
- 作者: 猪谷千香
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/01/07
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次に、アジアの子どもたちの教育・文化支援に取り組んでいるシャンティ国際ボランティア会に所属していて東日本大震災後は岩手県で「移動図書館プロジェクト」を立ち上げた鎌倉幸子さんのお話の要点としては、
- 震災後、支援物資(食べ物や飲み物)のおかげで体は元気だが心が乾いていた
- 2011年7月から「移動図書館プロジェクト」を開始
- 1500~2000冊の本や雑誌を積んだ移動図書館車で、ひとつの仮設団地を2週間に一度のペースで訪問
- 10月に大型台風の日があったが「2週間に一度必ず訪問する」という約束を守り台風の中でも訪問した。それまでは住民も「本なんて読んでられるか」という反応の人もいたが、段々と信頼関係を作り上げていった
- 「移動図書館」は被災地で”居場所”をつくった(立ち読み、お茶飲み、お楽しみ)
- 被災地にたくさんの物資が送られてきたがそれを仕分けするコーディネート力が必要、つなげる人の存在が重要、最後はやはり人の力
- 記録と記憶を残すアーカイブとしての機能が図書館にはある(震災前の町の写真など)
走れ!移動図書館: 本でよりそう復興支援 (ちくまプリマー新書)
- 作者: 鎌倉幸子
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これからの図書館は地域社会に開かれ外部とつながり複合的な機能を発揮する”知的集客施設”へ
千葉市の熊谷市長も武雄市の図書館を絶賛しています。図書館の利用者はそこの地域に住んでいる人たちが大半なので(交通網が発達した都内なら電車で行く事もあると思いますが)地域の子どもや若者、子育て世代、高齢者などのニーズを引き出し、複合的な機能を果たしていくことが鍵なのかなと思いました。
昨夜、武雄市の図書館に初めて行きました。結論としてこれは図書館ではないですね。武雄市初のスタバがあり、本格的な書店やレンタル店が入っている、ちょっとオシャレな知的集客施設です。デートで来る人たちが多いことからも特異な存在であることが理解できます。新しい概念の施設で刺激を受けました
— 熊谷俊人(千葉市長) (@kumagai_chiba) 2013, 8月 13
堀江貴文さんの「ホリエモンチャンネル」で大人も子どもも楽しめる次世代図書館が紹介されています。7/1から渋谷で深夜まで営業して飲食も出来る「森の図書室」がオープンします。”本と人がつながる場所”になってほしいというオーナーの思いから誕生しました。
「NPO法人情報ステーション」千葉県船橋市で広がる民間図書館
図書館事業の運営には当然”場所”が必要です。ここからは空き家などを活用した図書館・図書室の事例を3つ紹介します。
まずは猪谷さんのお話で知った事例です。千葉県船橋市を中心に民間図書館事業に取り組む「NPO法人情報ステーション」。現在、25館もの民間図書館をオープンさせています。
(画像引用元)図書館がこんなにたくさん!
商店街の空き店舗やマンションや団地の空き室のほかにもパン屋や酒屋、老人ホームなどの”空きスペース”を活用しています。本当にバリエーション豊かです。
資金調達の課題は大きいです。クラウドファンディングで資金を募っています。
「西国図書室」東京都西国分寺の”街の図書室”
以前のブログでも少し紹介しました。元洋裁店兼住居だった空き家に引っ越した夫婦が1階スペースを日曜日限定の「図書室」として運営しています。夫婦とも結婚前はシェアハウスに住んでいて”家をまちに開く”という「住み開き」の発想をお持ちだったことから生まれた取組です。
SUUMOの「家を開く」というコーナーにも掲載されています。
(画像引用元)地域に開かれた図書室。
そして昨年からは西国分寺駅前の人気カフェ「クルミドコーヒー」内に新たなに本棚を設置し「分室」がオープンしています。地元のイベントにも積極的に参加するなど利用者同士のみならず、地域とのつながりも生まれつつあります。
「こすみ図書」墨田区鳩の街商店街の図書室
墨田区鳩の街商店街の元々お茶屋さんで約15年間空き家状態だった物件を持ち主との交渉の末、図書室に改修しました。1階は図書館とギャラリーを併せたパブリックスペース、2階の2部屋は図書館のオーナーが自宅として使っているそうです。西国図書室と同じ「住み開き」ですね。同じようにSUUMOの記事にもなっています。
(画像引用元)かなり老朽化していたので安く借りられて、改造OKの許可ももらえたようです。
今年の5月に同じ鳩の街商店街で同じように元々薬屋で空き家状態だった物件を「古民家カフェ」として改修している「こぐまカフェ」へ行ってきたときに見に行ったのですが、開いていなかったので写真だけ撮らせていただきました。
元々は「お茶屋」さん。
手作り感が出てました。
第三の居場所(サードプレイス)としての図書館
既存の図書館っていうと静かで落ち着いて本読めたりしますが、なんとなく物足りない感がありました。でも武蔵野プレイスや日比谷図書館とかって新刊図書の紹介コーナーがあったり、カフェや飲食スペースがあったり、夜遅くまでやっていたりちょっと気軽に行ってみたくなる場所です。地域のあちこちにある空き家を使ってそんな居心地の良い場所や空間を作ることが出来たらと思うと、なんだかワクワクしてきます。
関連ウェブサイトはこちら。
いがやちか「つながる図書館」四刷目 (sisiodoc) on Twitter
鎌倉幸子『走れ!移動図書館』 (1192_sachiko) on Twitter
西国図書室 - 東京都国分寺市 - ローカルビジネス - 基本データ | Facebook
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