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空き家を活用して新しい価値をつくる

旧東ドイツの都市ライプツィヒの空き家仲介NPO「ハウスハルテン」と空き家再生プロジェクト「日本の家」に学ぶ(空き家活用海外事例紹介)後編

ドイツの50万人都市ライプツィヒの空き家活用事例を見ていきます。「ハウスハルテン」という空き家仲介NPOが様々な空き家再生プロジェクトのプラットフォームの役割を担い、各地で空き家を「場」とした事業の立ち上げ・運営をバックアップしています。

前回の記事はこちらです。

旧東ドイツの都市ライプツィヒの空き家仲介NPO「ハウスハルテン」と空き家再生プロジェクト「日本の家」に学ぶ(空き家活用海外事例紹介)前編 - 空き家の活用で社会的課題を解決するブログ

 

今回もライプツィヒで空き家を活用して文化交流拠点「日本の家」を立ち上げた大谷悠さんの書いた記事から空き家活用の促進に必要なことは何かを考えていきたいと思います。

 

若者や芸術家のセルフリノベーションを強力にサポート

 

ハウスハルテンの設立目的は”100年以上前に建てられた歴史的価値のある空き家を破壊や劣化から守ること”でした。しかし、”安価で自由に使用・活動できる空き空間を斡旋してくれる”と認知されてきたことで若者や芸術家を中心に活用の担い手が集まってきているようです。

 

「アイデアはあるけど場所がない」若者や芸術家にとってハウスハルテンが提供する空き家再生プログラムは魅力です。京都で空き家(京町家)を活用して芸術家のための居住・制作・発表の場づくりをしている「HAPS」の取組と似ています。

 

ハウスハルテンの「家守の家」というプログラムは、通常5年の期限付きで空き家を使用希望者に格安で貸し出すという仕組みです。賃貸借契約ではありません。そのため現状復帰義務はなく、空き家利用者が自分たちの好きなように間取りや内装をカスタマイズする自由があることがこのプログラムの売りです。

 

通常の賃貸物件では現状復帰義務があり、使い手が自分たちの好きなように改装する自由は限られています。しかし「ハウスハルテン」が仲介する物件は、自分たちで必要な空間をつくるセルフリノベーションが原則で、現状復帰義務もありません。

サポートによって空き家に新たな価値が生まれる | 小さな組織の未来学 

 

さらにハウスハルテンでは改装な必要な様々な工具を無償で貸し出してくれて、水道や電気工事関係なんかもその道の職人さんが一緒に教えてくれたりするなど至れり尽くせりな感じです。

 

しかも空間づくりに必要な電動ノコギリ、インパクト、脚立、電源ドラムなどあらゆる工具を無償で貸し出していて、水道や電気工事のノウハウもハウスハルテンのメンバーである元職人から伝授してもらえます。

ハウスハルテンは新たな活動を始めたい人々に、家賃が殆どかからず自由に使える空間と工具を提供し、活動のスタートアップを強力にサポートしているのです。

サポートによって空き家に新たな価値が生まれる | 小さな組織の未来学

 

空き家を再生して文化交流の場「日本の家」を立ち上げ

 

ハウスハルテンの物件を手がかりに様々な事業がスタートしました。「日本の家」もその一つです。

 

ライプツィヒ大学博士課程の大谷悠さんと建築家のミンクス典子さんらが中心となり結成されました。空き家を単に使用するだけでなく、文化交流の場として有効活用する「日本の家」の企画は、「ハウスハルテン」の空き家利用審査をすぐに通過。

しかし「空間」を所有する許可はすぐにでたものの、そこを人が集う場にするまでには、時間や労力ももちろんかかったのだそうです。当初その「空間」は全くの手つかずの状態で、廃墟そのもの。しかし、「ハウスハルテン」からリノベーションの道具やノウハウのサポートを受けながら、試行錯誤しつつもやりたいことをできる場へと作り上げていったのです。

都市の”間”で遊びをつくる。DIYで再生させた空き家で、日独の文化交流をおこなう「ハウスハルテン日本の家」 | greenz.jp グリーンズ

 

様々な文化や食のワークショップやアート展、震災支援イベント、都市問題や日本に関するシンポジウムや映画の上映会などを行ってきたそうです。空き家を活用することで地域再生へとつなげ、様々なイベントを通してドイツと日本との文化交流を行っています。

 

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画像引用元)「日本の家」は立ち上げから1年で市や地元住民と地域の芸術祭を行うまでに地域での存在感を上げています。

 

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画像引用元)「日本の家」での日本食イベント。日独の草の根で文化交流が行われています。

 

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画像引用元)日本のサブカルイベント「オタクの日」アート展を開催。

 

ちなみにドイツの人が持っている日本へのイメージは、「食」「技術」「サブカル」だそうです。

 

もちろん人によってざまざまですが、日本のイメージは「食」「技術」「サブカル」の3つは大きいと思います。特に若い世代への日本のサブカルの浸透はすごいですね。

RENOVATE in Germany - ドイツでリノベーション 2/2|Biotope Journal

 

「日本の家」の他にも、「肉を使わないハンバーガー屋」や「30代の兄弟が立ち上げた映画館」、「子どもが放課後に絵本作る拠点」など想像力豊かな面白そうな空間が生まれています。

 

誰も住まなくなった空き家は”誰かのアイデアを具現化する場”として活用できるのですね!住む以外の用途に使えばアイデア次第でいくらでも活用の余地はあるのだと思います。そのアイデアを持った人たちと空き家オーナーさんとをつなげるのがハウスハルテンの役割です。

 

空き家再生プロジェクトの成功のその先に

 

空き家仲介NPOである「ハウスハルテン」が「日本の家」などの様々な空き家再生プロジェクトの立ち上げと事業運営をサポートすることで住環境の改善や若者文化の育ちつつあるなど、街の活性化につながっているそうです。その結果、地価が上昇し空き家オーナーからすれば無償で物件をハウスハルテンに提供するインセンティブが薄らいでいます。

 

一方、「ハウスハルテン」は新たな課題を抱えています。2000年を境にライプツィヒは人口が増加し始めました。住環境が改善され、若者文化が育ちつつあることが要因となって、若者や子育て世代が増えていて、ちょっとしたベビーブームが起こっています。

これは歓迎するべき事態ではありますが、いくつかの地区では不動産投機が始まり家賃が上昇しつつあります。「ハウスハルテン」の取り組みは、いわば不動産市場が破綻していたからこそ建物の「使用価値」によって所有者と使用者のwin-winの関係を築くことが出来ていました。

しかし「普通の不動産市場」が育ちつつある現在、空き家の所有者が利益の見込めない「ハウスハルテン」に物件を預けるインセンティブが働きづらくなっています。

サポートによって空き家に新たな価値が生まれる | 小さな組織の未来学

 

つまりハウスハルテンの空き家再生プログラム「家守の家」は不動産市場が成立しない地域の空き家を「使用貸借」というスタイルで第三者に活用してもらうことで貸主と借主双方にとってメリットがありました。しかし、人口が増え地価が上がってくると不動産市場が機能するようになってくるので、わざわざ無償で物件をハウスハルテンに提供しなくても不動産市場に出すことで、家賃収入を得るチャンスが出てきたということです。

 

これは空き家オーナーとすれば自然な考えです。そこで考えだされた試みが「改築ハウス」プログラムです。これはいわば「借主負担DIY型賃貸借」といえます。つまり、空き家オーナーが住民にセルフリノベーションを委託するかわりに建物を格安の家賃で貸し出すという仕組みです。

 

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画像引用元)通常の賃貸借契約なので借り手は長期的に自由な空間を手に入れることができる。

 

まとめ

 

空き家活用をしたい人と空き家オーナーとを”つなぐ”「ハウスハルテン」の存在意義がよくわかりました。ハウスハルテンは空き家を通して新たな文化事業やビジネスを立ち上げるサポーターの役割を担っています。そしてそういったクリエイティブの人たちを空き家に呼び込むことで都市・地域・街の経済や文化の持続可能性に貢献しています。こういったハウスハルテンのようなNPOは日本にもいくつかあります。

 

日本でも空き家のリノベーションに対する関心は非常に高いです。ハウスハルテンに一番近いのは尾道の「空き家バンク」でしょうか。空き家をどうにかしたい大家と、尾道の歴史ある家に住みたいという人を仲介するNPOです。金沢でも「町家研究会」という、空き家となった町家を修復・仲介・活用していく事を目的としたNPOが立ち上げられました。ハウスハルテンにも共通しますが、大家との交渉、経済的サポート、都市計画的位置づけに関して、行政のバックアップがあることがポイントです。一方民間からのアプローチも多数あります。不動産の専門家と建築家が組み、空き家となった物件を対象に「大家との交渉」「リノベーション」「使用者の募集・空間の貸出し」「メンテナンス」といった複数の業務を行なっている事例があります。「R不動産」や「北九州家守舎」の活動が挙げられるでしょう。 

RENOVATE in Germany - ドイツでリノベーション 2/2|Biotope Journal

 

日本にもハウスハルテンのような「空き家活用プラットフォーム」はたくさんあります。次回はここらへんのことを書いていきます。

 

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