マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家が増加しているにもかかわらず新築住宅建設に税金を投入して空き家をさらに増やし「空き家対策」のためにまた税金を使う

不動産業界の”常識”は社会の非常識

 

不動産コンサルタントの長嶋修さん(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)を読んでいます。長嶋さんは不動産仲介部門の現場で働く中で「不動産価格査定のいい加減さ」「物件情報の囲い込み」といった改善されるべき不動産業界の”常識”不明朗な取引慣行を目の当たりにされてきて疑問や憤りを感じていたそうです。しかし、転職して間もなくの頃は自分の仕事を覚えること、成績をあげることに精一杯でしたが5年後、改めて業界を構成する仕組みや慣行に疑問を感じ、このまま仕事を続けることに限界を感じ始めたとのこと。そこで欧米など先進国の不動産の仕組みや慣行について調べていったそうです。

 

その結果、

  • 「中古だからといって建物価値が一律に落ちることはないこと」
  • 「不動産売買の現場ではホームインスペクター(住宅診断士)とよばれる建物の専門家が主に買い主の依頼で建物を診断すること」
  • 「金融機関が住宅ローンを審査する際には日本のように机上の空論ではなく非常に厳しいインスペクションが行われること」
  • 「様々な情報が一元化された住宅データベースが完備していること」

など日本よりはるかに市場の仕組みが整備されていることがわかりました。

 

そして新規事業構想を練り、社内ベンチャー立ち上げの提案をしたそうですがあえなく却下。ならば自分でやるしかないと創業した「さくら事務所」で人と不動産の関係をより良くするために日々の活動を行っていらっしゃいます。

 

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)

 

 

空き家が増え続けるのはなぜか?

 

この本の第2章「『空き家』が増え続けるのはなぜか?」では空き家問題について詳しく書かれています。

 

2008年総務省「住宅・土地統計調査」によれば全国の空き家数は約760万戸、空き家率13.1%、7〜8軒に1軒が空き家という状況です。そして過去45年間の中で住宅数の伸びの3倍ほど空き家数は膨れ上がっています。

 

空き家が増えている。ならば人に貸したり、売りに出したり、オーナーが何らかのアクションを起こせば良いのではないかと思います。しかし、

 

株式会社価値総合研究所が実施した「消費者(空き家所有者、空き家利用意向者)アンケート」によれば、空き家のうち、売却や賃貸などを検討しているのは24.0%に過ぎず、71%の人は特に何もせず、ただ所有しているだけということがわかっています。

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)p47〜p48

 

7割の一戸建て空き家のオーナーは「ただ所有しているだけ」なので空き家のままになるということです。これは本ブログでも以前書きました。

空き家の8割は活用可能な状態だけど空き家オーナーの7割は空き家を放置 - 空き家の活用で社会的課題を解決するブログ

空き家・空き室・空き部屋オーナーの考えは十人十色・千差万別 - 空き家の活用で社会的課題を解決するブログ

 

さらに、

 

新築住宅がどのくらい造られているかといえば、ここ最近は毎年80〜90万戸くらいです。1980年代のバブルの頃は170万戸、崩壊後は120万戸程度でしたから、かつてよりは減少しているものの、まだまだ多すぎるのです。

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)p50

 

長嶋さんによると適正な着工戸数は40〜50万戸だそうです。現状は適正な新築住宅着工戸数の2倍ですので必然的に空き家が増加するわけですね。

 

つまり、そもそも空き家を活用する考えを持つオーナーさんは少数であること新築住宅を適正な数よりも多く作りすぎていることが合わさって空き家の増加を招いているということです。

 

なぜ空き家はそのまま放置されるのか?

 

これはずばり、いくら老朽化した空き家でも解体して更地にするよりも(土地だけにするよりも)固定資産税が安いからです。

 

住宅を取り壊さずそのままにしておくと、その土地は「宅地」の扱いとなり、更地(空き地)よりも固定資産税が軽減されています。

<中略>

この制度があるために、わざわざ解体費用をかけて建物を取り壊し、さらに高い税金を払おうという人はいないのです。

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)p53

 

このような社会の非効率を生み出す制度はそもそもまだ高度成長期で住宅数が足りていなかった頃に市街地の空き地に住宅を建ててもらうための「新築住宅建設の促進」を目的として作られました。現状は言わずもがな住宅数は増え過ぎ、人口・世帯数も中長期的に減少トレンドの中、空き家の存在が社会的課題にまで問題視される時代になりました。

時代遅れの税制(住宅用地の特例措置)と新築住宅を作り続ける住宅業界が空き家を生む〜空き家は社会悪〜 - 空き家の活用で社会的課題を解決するブログ

 

そして中古住宅市場も成熟していないため空き家の放置が進みます。

 

なぜ必要以上に新築住宅を作りすぎるのか?

 

これは一言でいえば「日本の新築住宅建設は、景気対策の道具だから」とのことです。つまり、

 

日本経済は「失われた○○年」とのフレーズの通りバブル崩壊からなかなか回復しなかったのですが、少し景気がおかしくなるたびに、新築住宅建設が景気回復の頼みの綱とされてきた経緯があります。というのも「新築住宅建設は経済波及効果が高い」とされているからです。

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)p58

 

生活する場所としての性質のほかに「金融商品」としての側面が住宅にはあるということです。

 

住宅は「金融商品」であり「経済」に深く関与しています。同時に「生活の場」であり「文化」を担うもの。

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)p13

 

誰かが住むためだけではなく、景気を上向かせるために住宅をつくるという発想があります。

 

新築住宅建設による生産誘発効果(経済波及効果)は、経済産業省の「産業連関表」によれば、約2倍とされています。たとえば3,000万円の新築住宅がひとつ建てられると、コンクリートや、材木などの資材やキッチン・ユニットバスなどの設備機器が売れ、職人さんに給料が行き、その先にはまた消費があり、とお金がグルグル回転して、全体として6,000万円分の経済波及効果があるということです。

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)p58〜p59

 

日本ってずっと基本デフレなので本当に効果があったのか検証はちゃんとなされているんでしょうかと疑問に思います。

 

ちょっと景気が悪くなったりするとすぐに「国民に新築住宅を買ってもらおう」ということで、税金を投入し、税制優遇や住宅ローンの金利や融資額を緩和するなどして新築住宅建設と購入を促してきました

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)p59

 

つまり、税金を使ってまでして新築住宅建設を後押ししてきたわけです。 

 

そして「空き家対策」のためにさらに税金投入

 

東京都足立区では老朽化した空き家の解体を促すために木造で50万円、非木造で100万円を上限とした解体工事費用に助成金を出しています。

 

条例では、特に周囲に危険を及ぼしていると同区の老朽家屋等審議会が認定した建物の解体工事費用を木造50万円、非木造100万円を限度として2分の1を助成するとした。その後、13年1月から16年3月までは木造の場合、上限100万円で9割助成に拡充した。同区によると、11~13年で33件の申請があり31件の解体工事に助成したという。

増え続ける空き家 防災、環境面で深刻な問題に 自治体の対策支援へ秋にも特措法制定[特集] | 毎日フォーラム~毎日新聞社 | 現代ビジネス [講談社]

 

空き家が増加しているにもかかわらず新築住宅建設に税金を投入して空き家をさらに増やし「空き家対策」のためにまた税金を使う、という構図が現状なのです。

 

今年5月、大田区で危険な空き家を強制撤去(都内初)

 

倒壊のおそれがあるなど近隣に危害を及ぼす可能性がある空き家の強制撤去(行政代執行)が今年5月、大田区で実施されました

 

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画像引用元

 

東京都大田区も13年4月に施行した「空き家適正管理条例」に行政代執行の条項を盛り込み、今年5月、同区内の築46年の木造2階建て延べ187平方メートルのアパートの解体を強制執行した。06年ごろからトタン材が飛びそうになるなどして、苦情が絶えなかった。同区は調査の上、説得・指導を続け、勧告もしたが応じてもらえず、2月に除却命令、3月末には戒告を出した。それでも必要な措置がなされなかったために行政代執行に踏み切った。解体費は約500万円と見られるが、確定次第、所有者に請求するという。

増え続ける空き家 防災、環境面で深刻な問題に 自治体の対策支援へ秋にも特措法制定[特集] | 毎日フォーラム~毎日新聞社 | 現代ビジネス [講談社]

 

解体費用は約500万円。大田区はオーナーに請求するとしていますが確実に回収できるかは不透明です。なぜなら、2012年3月に全国の自治体で初めて強制撤去に踏み切った秋田県大山市では解体工事費用約200万円を未だに回収できていません。

 

行政代執行による解体はその3カ月後の12年3月に、小学校隣にあった元建設会社の木造、鉄骨造り事務所兼倉庫5棟に対して行われた。子供たちが入り込み学校からも解体の要望が強かったが、会社は倒産しており、市側の指導、勧告に対しても所有者は「資金がなく、解体できない」との回答を繰り返したため強制執行に踏み切ったという。解体工事費の178万5000円はまだ所有者から支払われていない。

同市ではその後、13年2月に民家1棟、同年6月に元建設会社の事務所など7棟を行政代執行による解体をした。それぞれの解体費89万2500円、354万9000円は所有者からは支払われておらず、同市はいずれの場合も土地を差し押さえ、競売などで回収する方針だという。

増え続ける空き家 防災、環境面で深刻な問題に 自治体の対策支援へ秋にも特措法制定[特集] | 毎日フォーラム~毎日新聞社 | 現代ビジネス [講談社]

 

まとめ

 

以上見てきたように、空き家が増加している現代においても高度成長期の新築住宅建設を中心とする不動産業界とそれを後押しする行政という流れが出来てしまっていることが問題です。そして老朽した空き家の解体や撤去の費用を税金で賄うという悪循環になっています。

 

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