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”固定資産税の住宅用地特例の扱い”自治体レベルではどうなっているのか

そもそも固定資産税は地方税

 

高度成長期の1970年代に新築住宅建設促進のために創設された税制優遇措置である「固定資産税の住宅用地特例」ですが、人口減少や経済の低成長などを背景に「空き家の増加」を助長している時代錯誤な制度になってしまっていることはこのブログでも再三書いてきました。

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国の動きとしては、空き家対策特別措置法案を秋の臨時国会に提出予定ということですが「固定資産税の住宅用地特例」の扱いについてははっきりしていません。

 

「もうひとつは固定資産税のいびつな優遇の見直しだ。現行制度では、ボロボロでも家が建っていれば土地の固定資産税が6分の1に抑えられる。これが空き家の撤去を阻んでいるといわれる。たとえば更地にしても3年間は優遇を続けるとか、逆に空き家になれば優遇をやめてしまうとかいろんなアイデアがある。法案には『必要な税制上の措置を講ずる』としか書いていない。制度設計は税制改正プロセスで議論すればいい」

空き家把握、自治体に権限を いびつな税制が撤去阻む :日本経済新聞

 

しかし、そもそも固定資産税は地方税です。地方分権がトレンドの現代、地方自治体がかける税である地方税であれば国の動きを待たず自治体レベルで独自に創意工夫することが理論上は出来ます。

 

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画像引用元)「固定資産税の住宅用地特例」とは?

 

富士通総研の米山秀隆さん(上席主任研究員)の研究レポート

空き家対策の最新事例と残された課題 : 富士通総研に「固定資産税の住宅用地特例」の扱いについて自治体レベルでは3つの方向性が出ていることについて記述されています。

 

あくまでも「課税の適正化」が目的

 

一つ目は、

 

老朽化して危険な状態になるなど明らかに住むことができず、「居住の用に供する」状態でなくなっている場合には、住宅用地特例を適用をするのはおかしいため、特例をはずすという対応である。

空き家対策の最新事例と残された課題 : 富士通総研p7

 

固定資産税は”人の居住の用に供する家屋”に対して課税されるものですが、居住目的のために使われなくなった住宅に税制優遇(土地の上に住宅地を建てることを促進)するのは、課税の本来の目的・趣旨から逸れているため、居住目的として使われていない空き家は税制優遇をはずしましょう、という対応です。これは税制優遇の本来の目的からすれば全うな考え方です。

 

富山市では2012年度から空き家調査の結果、住宅として使われていないと判断した場合は税制優遇措置の適用を解除しています。こうした措置をとれば、税制優遇を受け続けようと考える空き家オーナーが改修するインセンティブを与えられます。しかし、解体費用の負担が大きかったり、売ろうにも売れない、貸そうにも貸せない空き家の場合は放置されているケースが多いそうです。

 

富山市が2012年度から、空き家を調査し、住宅と認められなくなった場合は特例の適用を外している。ただ、目的は課税の適正化のため、撤去 を促すような減免措置はしていない。13年度課税分で12軒が対象となった。富山市は 「副次的に空き家の撤去が進めばよいが、放置のままのケースが多い」(資産税課)としている。

北國・富山新聞ホームページ - 富山のニュース

 

税制優遇の適用を解除した上で撤去を促すために猶予期間を与える

 

二つ目は、

 

老朽化して危険な状態になった住宅は、特例は解除するが、撤去を促すため、一定期間の猶予を与えるというものである。

空き家対策の最新事例と残された課題 : 富士通総研

 

新潟県見附市では老朽空き家の撤去を促すために「老朽危険家屋」と認定された空き家で、緊急時に市が行う危険回避措置(建物の解体撤去または補強補修工事などの措置)に対する同意書を提出している場合は、税制優遇措置の適用解除を2年間猶予しています。

 

地方税法で規定される住宅用家屋についての固定資産税の低減措置が「住宅の管理放棄を助長しているのではないか」という問題が国レベルで提起されています。周囲への危険回避として廃屋を解体し更地にすることで、土地固定資産税の負担が急激に増額することは、家計維持の側面から一定の配慮すべき事項であろうと考え、市では『見附市老朽危険空き家等の所在地に係る固定資産税の減免に関する要綱』を新たに制定し、2年間に限り固定資産税の一部を減免します。 
空き家等の適正管理において、このような支援策を講ずる自治体は『全国でも初めての試み』です。

見附 空き家管理条例運用のポイントを公表 - MITSUKECITY ECO-PORTAL

 

2013年1月に第1号として、すでに撤去を行った家主から税制優遇の適用解除の猶予の申請があったそう。また、富山県立山町でも同様の措置を実施しています。

 

立山町は、老朽化し倒壊の危険性がある空き家を減らすため、所有者が空き家を取り壊しても住宅用地の特例を最大2年間継続し、固定資産税の負担を軽減する方針を固めた。 空き家が放置されるのは、更地にすると特例が適用されず、固定資産税の負担が膨らむことが一因とされている。町によると、県内の自治体で初の試み。国や県が打ち出している 税制の軽減措置を一足早く実施することになり、その効果が注目される。
計画では、町は老朽化して人が住めないと判断した家屋を独自に「老朽住宅」に認定。老朽住宅は住宅用地の特例が適用されないため、本来なら固定資産税は増税となるが、認定から1年以内に所有者が空き家を撤去すれば、救済措置として増税分を最大2年間に限って減免する。 

北國・富山新聞ホームページ - 富山のニュース

 

空き家を撤去後、更地を公共スペースとして活用する

 

三つ目は、

 

空き家のあったスペースを公園など公共スペースとして活用する場合に限り、固定資産税を減免するというもので、これによって空き家の撤去を促すことを意図している。

空き家対策の最新事例と残された課題 : 富士通総研

 

東京都文京区などでは、区の負担で空き家を撤去した上で、空き家をオーナーから無償貸与を受け、公共スペースとして活用するということに取り組んでいます。

文京区 空き家等対策事業

 

維持管理がされず危険な状態となっている空き家について、所有者の同意を得て無償で取り壊し、跡地を区が無償で借り受ける。所有者にとっては区が借りることで固定資産税がかからなくなるため、区は解体が進みやすくなるとみている。こうした制度は全国的にも珍しい。

2014年2月4日付記事日本経済新聞

 

まとめ

 

この3つの中では2つ目の施策が一番実現可能性が高いということで理解されています。そして、空き家対策議員連盟でもこの方向性で議論が進んでいきそうです。しかし、そもそも固定資産税は地方税なので、国の対応を待たずとも、独自に制度の見直しを行うことはできるはずです。

 

住宅用地特例の問題ですぐにできそうな施策は、新潟県見附市タイプの施策であり、空き家対策議員連盟でもそうした方向の施策を主張したのは、施策の実現可能性という点で理解できる。

空き家対策の最新事例と残された課題 : 富士通総研

 

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