空き家対策法により自治体の空き家対策が強化
自治体による空き家対策というと、これまでは近隣から苦情があっても、所有者に対して”お願い”ベースでの対応がメインでした。しかし、今年5月に完全施行された空き家対策特別措置法により、これまでの”お願い”から”指導”という権限の強化が行われました。
倒壊などの危険がある空き家を「特定空き家」と判定
そして、建物が傾いている、屋根や外壁が落下するおそれがある、ごみが放置され衛生上有害となるおそれがある…などの空き家は自治体が「特定空き家」と判定します。
(「特定空き家」についての詳細は、国土交通省が発行する『「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)』をごらんください)
空き家対策特別措置法施行後、初めて「特定空き家」の解体がスタート
そんな「特定空き家」の解体が横須賀で始まっています。空き家対策特別措置法が施行されてから初めてのことです。このことはニュースで多数報道されています。
約2万9000戸の空き家を抱える神奈川県横須賀市は26日、所有者不明で倒壊の恐れがある同市東浦賀の木造平屋住宅(床面積約60平方メートル)について、5月に全面施行された「空家対策特別措置法」に基づき、行政代執行による撤去を始めた。
費用150万円は市が負担する。市によると、特措法での空き家撤去は全国初。
(画像引用元:倒壊しそうな空き家 特措法で全国初の取り壊し(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース)
そもそも発端は近隣住民からの苦情
今回の解体に至った発端はというと、近隣住民からの苦情が横須賀市に寄せられたことです。空き家対策特別措置法以前は、所有者を特定できない空き家の解体はハードルが高く、解体などの実効的な措置は見送られてきました。しかし、空き家対策特別措置法が出来たことによって「特定空き家の指定」や「固定資産税の納税者情報の活用による空き家所有者の把握」、「行政代執行による特定空き家の解体という自治体による強制措置」といった権限が自治体に付与されました。
今回撤去対象の住宅は、住民から市に12年秋、「屋根や外壁が通学路に落下する可能性がある」と苦情が寄せられ、建築基準法に基づく行政代執行を検討したが、所有者が特定できず断念していた。
特措法により、市はこの住宅を、所有者に解体や修繕などを勧告・命令できる「特定空家」に指定。利用可能となった固定資産税の納税者情報により7月に所有者不明を確認し、市が代わりに取り壊すことになった。午前9時、市職員が行政代執行宣言を読み上げ、業者が取り壊しに着手。11月中旬までに解体、整地を終える。
横須賀市内の特定空き家は61件(2015年9月現在)
今回初めての特定空き家の解体がスタートしていますが、横須賀市には他にも特定空き家が61件もあります。所有者が見つからなかったり、指導・勧告・命令に従わない場合は今回のような強制撤去もこれからどんどんありうるでしょう。
倒壊の恐れや衛生、景観面で著しく問題がある空き家は特措法で「特定空き家」とされる。市内には9月現在で61件。解体を指導・検討している物件も3戸ある。市建築指導課は「建物と土地の所有者が違ったり、権利が複雑に入り組んでいたりと課題も多い」と、現場レベルで運用を検証する必要性を指摘する。
所有者不明の場合、解体費用は結局自治体負担か
今回のように所有者不明の特定空き家の場合、解体費用(150万円)は横須賀市が負担するそうです。原則、解体費用は所有者に求償するわけですが、今回のように崩落しそうな危険空き家の場合は緊急を要します。緊急を要する場合は止むを得ず自治体負担でも構わないので強制的に解体するということは必要なときもあります。しかし、自治体財政にも限界があります。ここらへん、線引きというか、なんでもかんでも税金を使って解決という空き家対策はナンセンスなので、空き家を活用できる限り活用したり、解体するにしても例えば近隣住民が共同で解体費用を負担する仕組みをつくる、とか新しいアイデアや発想が必要かなと思います。
空き家対策特別措置法による強制撤去の事例はこれから増えていくだろうが、大半のケースでは解体工事費用を回収することが難しいものと考えられるため、市町村の対応には限界がある。かなり危険性が高まった老朽空き家から、その優先度に応じて少しずつ解体に着手していくことになるだろう。
近隣の気になる空き家は自治体にご一報を
なにはともあれ空き家対策特別措置法により、危険だったり不衛生な空き家の解体が可能になったため、危険な空き家の近くにお住まいの方は迷わず自治体の空き家対策相談窓口にお問い合わせください。自治体としてはこのような危険かつ不衛生な空き家の情報に加え、活用可能な空き家の情報も集めています。法律ができて自治体としても動きやすくなっているはずです。気軽に問い合わせてみましょう。