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空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家増加時代に追いついていない相続税・登記制度「解決!空き家問題 中川寛子著」読書メモ(4)

今回は中川寛子さんの「解決!空き家問題(ちくま新書)」の読書メモの第4回目です。過去記事はこちら。「第1章 いずれは3軒に1軒が空き家?ー現状と発生のメカニズム」(p.36-47)をまとめます。

賃貸アパートは事業としてではなく、税制による誘導で建てられる

本来、賃貸住宅の経営は事業として積極的に地域の需要を見て建てられるはずです。しかし、国土交通省の2007年の調査によると、大家が賃貸住宅の経営に携わった動機のうち、相続対策は34.7%、節税対策は24.3%だったそうです。

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画像引用元:民間賃貸住宅に係る実態調査(家主)PDFp.3)

その結果、ニーズに合わない物件も多く、賃貸住宅の空き家は全国で429万2300戸と、空き家全体(820万戸)の半分以上を占めています。これはつまり、事業として本腰を入れて賃貸住宅を経営している大家さんが少ないという結論ということでしょう。

2013年度、賃貸物件は前年よりも15%以上増えている

空き家の半分以上は賃貸住宅なのに、賃貸住宅はまだまだ建てられ続けています。2013年度の新設住宅着工戸数を見ると、賃貸住宅は前年よりも15%以上増えていています。下の図を見ても分かるように、ここ数年は賃貸住宅の新築が一番増えていることがわかります。

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画像引用元

なぜ賃貸住宅の新築が増えたかというと、2015年の相続税法改正により増税になり、少しでも相続のときに払う税金が安くならないかと対策を考えた人が多かったからです(参考記事:相続税や消費税対策が将来の空き家問題を加速させる - 浅野千晴 税理士

。空き家が増えているのに賃貸住宅をさらに作るという悪循環が起きているのです。

2015年1月から相続税の基礎控除が引き下げられることをにらみ、土地で持っているより賃貸住宅を建てて相続税の評価額を下げ、建設のために借金をすることでマイナスの財産を増やし、結果として相続税を減らしたいという意図の結果である。

「解決!空き家問題(ちくま新書)」p.38

賃貸住宅の経営は事業であるため、大家さんが経営者という意識を持って対処する必要がありますが、経営意識も情報収集能力も欠けていることが多いわけです。

50代、60代で空き家を相続しても住まない

寿命が延び、相続の時期が高齢化していることも空き家増加に影響していると指摘しています。親が80歳くらいに亡くなって、50代、60代の子供が相続するわけですが、その年代になるとすでに家を購入している場合も多く、今まで培ってきた土地での暮らしを捨ててまで実家に戻るというのはなかなか無いです。ましてや賃貸住宅の相続となると、二代目大家として腹を据えて経営をしっかりしてしていくならまだしも、空室がたくさんの状態で引き継いで、いきなり賃貸住宅の経営を立て直すというところからスタートするというのも厳しい話です。 

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(画像引用元:使い道のない相続空き家 みんなどうしてる?

所有者がわからない

不動産登記は土地、建物別で、一筆の土地あるいは一個の建物ごとに表題部と権利部に区分して登記されます。そのうち、建物の表題部は建物の物理的な現況を明らかにするもの(建物表題登記)ということで、税務上、必ず登記しなくてはいけません。しかし、権利部に関してはおかしなことに、登記の義務はありません。つまり行政としては、実際の所有者(権利者)が誰であるかよりも固定資産税などの税金を徴収することができれば、それで構わないということなのです。

また、所有権の移転登記には費用がかかり、それが結構な額なので、義務も無いのにわざわざ登記するというのはハードルが高くなっています。

長く日本の土地制度の問題点を指摘してきた東京財団の報告書「国土の不明化・死蔵化の危機〜失われる国土III」は親から子への所有権移転の登記には20万円前後かかると試算する。これが祖父母から孫へのケースになると50万円以上に跳ね上がるとされている。土地の価値が30万円以下なのに、50万円以上をかけて登記をしようとする人がいるだろうか。個人のレベルで考えれば、相続未登記は理にかなっているのである。

 「解決!空き家問題(ちくま新書)」p.44

空き家対策特別措置法により、所有者確定のために固定資産税の納税情報が利用できることになりましたが、納税者=所有者ではない可能性もあるということです。

 

(次回へつづく)