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空き家活用において重要な人間関係とDIY賃貸と共同相続のリスク、そして相談先の不足!「解決!空き家問題 中川寛子著」読書メモ(8)

今回は中川寛子さんの「解決!空き家問題(ちくま新書)」の読書メモの第8回目です。過去記事はこちら。第1章は、空き家の現状と発生のメカニズムがテーマでした。第2章は、空き家の活用を阻む、「立地」「建物」「所有者」「相談先」の4つの障壁を解説されています。今回は4つのテーマのうち「所有者」「相談先」の2テーマについて書かれているp.91-102をまとめます。 

やっぱり大事な人間関係

前回記事で見てきたような借主募集中及び賃貸意向者が貸すにあたる不安を解消するために大事なのは、まず人間関係です。地域の空き家を借りるためには、地域のキーパーソンと繋がることで信頼を得るたり、実績を積むなど、そういった方法があります。本の中では、実例を紹介しています。

(1)高齢者宅の空いている部屋に学生が同居する「ひとつ屋根の下プロジェクト」

東京都文京区のNPO法人街ingが将来の空き家対策として、地域の高齢者宅の空いている部屋に学生を同居させることで将来の空き家発生を防ごうという「ひとつ屋根の下プロジェクト」。初年度は思ったほど人が集まらなかったそうで、2015年度は高齢者と学生が顔を合わせるイベントを始め、ここで顔を覚えてもらい、人間関係を築くことからステップアップしていきました。

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(画像引用元:ひとつ釜の飯プロジェクト実施 | NPO法人 街ing本郷)学生が作った食事で高齢者と一緒に食卓を囲み、お互い顔を覚えることからスタートします。

(2)宿場町の空き家を借りてコミュニティスペースにした「うなぎのねどこ」

東京都品川区の旧東海道の宿場町「品川宿」の空き家を借りてコミュニティスペースにした「うなぎのねどこ」は、地域のキーパーソンの一言がなければ大家さんは動かなかったと言います。地元の街づくり協議会の人に口添えをしてもらったことが大きかったようです。

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(画像引用元:うなぎのねどこ | 北品川商店街)地元のキーパーソンに相談してみることが空き家活用の近道かもしれません。

(3)築100年の古民家空き家を2ヶ月かけて改修し民間図書館にした「高田みんなの学校」

2015年9月に島根県奥出雲町高田地区で、築100年の古民家空き家を活用した民間図書館「高田みんなの学校」オープンしましたクラウドファンディングを活用し、図書の購入や改築、設備費用を調達されました。

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(画像引用元:図書館 - 高田みんなの学校

そしてこちらの民間図書館のモデルは、同じ島根県の松江市に10年以上前から開かれていた曽田文庫です。本を大切にしていた妻の遺志を受け継いだ米田孟弘氏が妻の実家を改装し、2013年3月に自費で開設された図書館で、現在は週5日開館し、年間4,000人が利用しています。その周辺にある島根県雲南市、奥出雲町、邑南町では小学校が廃校になるなど人口減少が進み、公立図書館はおろか、書店も無い状態でした。そんな中で地域の人たちが曽田文庫を知り、あの古民家空き家を図書館にしようという機運が高まったことが発端でした。曽田文庫の実績を知っていた古民家空き家の所有者は、「ああいう施設ならいいよ」ということで活用に至ったわけです。

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(画像引用元:曽田篤一郎文庫ギャラリー)高田みんなの学校のモデルになった曽田文庫。

DIY賃貸という新しい賃貸契約スタイル

愛着の問題も重要ですが、実際にどうやって貸すかを考えている段階まできている空き家所有者を後押しする新しい仕組みを、国土交通省は整備しています。それは2014年に国土交通省が提示した「借主負担DIY型」という新しい貸し方です。従来の賃貸契約は大家さんが支出して修繕などをしてから貸す、というやり方でしたが、そこまでコストをかけられないというニーズに合わせた仕組みになっています。借主側から見ても、大家さんが費用負担しない分、賃料は安く設定されていますし、DIYで模様替えや改装などを行っても退去時に原状回復義務は負いません。

貸す側は手間をかけずに貸せる、借りる側は安く借りれて、自分でDIY改装もできて住まいに愛着を持てる、そんなメリットがあります。ただ、賃料はどのくらいが妥当なのかや、大規模な改修の場合には大家さんも一部負担すべきではないかなどといった問題もあり、今後の整備状況が重要です。

そもそも貸家として作られていない持ち家を貸す場合、またしばらく使われていなかった場合には改修その他が必要になることも多いが、たいていの所有者は資金不足である。自分でお金を出してまで貸すなら面倒、それなら貸さなくても良いと考えている人もいる。それに、住宅を貸したことがないため、何をどうして良いか分からないという人も少なくないだろう。

国土交通省ではそうした人たちが持ち家を貸しやすい状況を作ることで個人住宅の賃貸流通を促進したい考えだ。それが借主が自己負担でDIYをするという方法である。

「解決!空き家問題(ちくま新書)」p.93 

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(画像引用元:DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックの作成について〜個人住宅の賃貸流通の促進に向けて〜『ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」』p.3)

共同相続すると親の実家空き家の活用は多大なコストがかかりがち

空き家所有者の問題でもう一つ大きいのが、共同相続の問題です。親が亡くなり、子供2人で相続する場合、2人の意見が合わないと家は動かせません。2人ならまだ易しいほうで、権利を持っている人が何人も何十人も出てくると、連絡するのが大変、連絡がついても意見調整に多大な手間と時間がかかるでしょう。

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空き家問題と相続とは密接な関係、親が子どもたちに持ち家をどうしてほしいか事前に話し合うことが大事:ざっくり分かる!NPO法人空家・空地管理センター事務局長が語る、空き家問題の現状 - 空き家グッド

空き家所有者が相談しようと思っても相談先がほとんど無い問題

ちょっと「所有者」の問題のボリュームが大きかったです。最後に空き家活用を阻む障壁4つのうち最後は「相談先」です。これはある意味単純な話で、空き家所有者が活用なり、どうしようか相談したくても、相談先が少ないという問題です。全国には12万社余の不動産会社がありますが(コンビニは全国で5万軒)、なかなか空き家問題に対して充実したサービスを提供できる不動産屋は少ないのではないでしょうか。それもそのはず、建築や法律、最近のインテリアの流行なども知っていて、しかも地元地域の信頼を得る努力もしていなくてはいけないとなると、既存の不動産屋像とは全く別物の事業者なりサービスが必要になります。

例えば物件価値の向上だけでなく、エリア価値の向上にも取り組む、といった不動産事業者の存在は、これからの新しい不動産業のあるべき姿の一端を表しています。

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(画像引用元:【随時更新】物件価値だけでなくエリア価値も上げていく!エリアをつくる新しい不動産屋まとめ5選 | MAD City:松戸よりDIYと暮らし、物件情報を発信

 

以上、「解決!空き家問題(ちくま新書)」の第2章までをまとめてきました。次回からはいよいよ空き家活用の実例に入っていきます。

(次回につづく)