マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家を活用したセーフティネット住宅は根付くのか?

先週、札幌にある生活困窮者らの自立支援住宅「そしあるハイム」が全焼し、入居者16人中11人が亡くなりました。入居者の大半は高齢者で身寄りがなく介護を必要とした人もいたそうです。2018年2月5日放送のラジオ「荻上チキ・Session-22」で特集されていました(「札幌の火災から考える、低所得者・高齢者の住宅の課題」)。今回の火災の背景にある構造的な問題について解説されています。

自立支援「施設」ではなく「住宅」のメリット

今回火災になってしまった「そしあるハイム」は生活保護受給者が多く暮らす自立支援住宅です。自立支援「施設」ではなく自立支援「住宅」なので、個室で利用料も低額という入居者側にとってのメリットがあります。しかしこうした公的住宅は不足しており、資金力に限りがある民間が受け皿となっているのが実情です。

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防火対策や避難態勢の充実が必要でも資金力に限界が

なぜ火事が起こってしまったかというと、1階の居室窓にある防犯用の格子や中廊下の構造などにより入居者が外へ逃げる際の障害になっていたことがこちらの記事では指摘されています。一方で、防火対策や避難態勢の不備などでの消防法違反は確認されていません。法令の基準は満たしていたとしてもより万全の安全を期すならばスプリンクラーなどの高額な設備を設置することも考えられますが、資金力に限界のある民間事業者の場合、それはなかなか難しいです。仮にそういった設備を設置すれば、利用料を上げざるをえなくなります。

築50年以上の木造住宅

「そしあるハイム」は木造一部3階立てで、生活困窮者を支援する合同会社「なんもさサポート」が旅館だった建物を借りて2004年から運営してきました。この木造住宅が築50年以上とも言われ、鉄筋コンクリートの建物に比べて火災に対する安全性が相対的に弱かったということです。 

国が進める「セーフティネット住宅」は根付くのか

そこで対策はどんなものがあるのかですが、国では2017年10月下旬から高齢者、低額所得者、子育て世帯等の住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度など、民間賃貸住宅や空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度をスタートさせています。ただしこの制度の広がりは賃貸住宅しかり空き家の所有者の理解だったり、メリットがあるかどうかが焦点になるため、どれだけ所有者にこの制度の利用を促すのかが課題になります。

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ではどのくらいの数の物件をセーフティネット住宅として登録してもらうのかというと、国土交通省によると2020年度末までに年間5万戸、合計17.5万戸の空き家・空き室を登録してもらうことを目指しています。しかしラジオ放送でもふれられていましたがセーフティネット住宅のウェブサイトを見ると、制度が始まって3ヶ月半経って171戸ほどしか登録がありません(2018年2月8日現在では186戸)。東京都にいたってはなんと0件です。年間5万戸の目標達成に向けて、これからどれだけ空き家所有者に訴求していくのでしょうか。なお、東京都では「東京都住宅確保要配慮者賃貸住宅供給促進計画(案)」がとりまとまりました

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(画像引用元:セーフティネット住宅情報提供システム

空き家の福祉施設転用しやすく規制緩和へ

空き家を福祉施設などに用途変更する場合、それこそ耐火基準をクリアするために設備を増設したり諸々改修が必要だったりするわけですが、規制緩和の動きがあり、建築基準法の改正法案が今国会に提出されます。空き家を住宅として活用するのではなく、福祉施設といった地域の課題解決のために活用するという実践が今後増えていくでしょうか。

全国に100万戸超ある3階建て戸建て住宅は都市部などの住宅密集地に多く、高齢化などで空き家になるケースも多い。そこで国交省は、3階建て戸建て住宅を転用する場合、延べ面積が200平方メートル未満であれば厳しい耐火対策を求めず、警報設備やスプリンクラーの新設だけでよくする。現状と比べ費用は10分の1程度で済む見通しだ。 

空き家の福祉施設転用、規制緩和で後押し 国交省が方針:朝日新聞デジタル