マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家が増える構造を改めて考える<1>新築作り過ぎ

空き家や土地の所有者不明化に関するニュース、レポート、SNSでの発信などたくさんの情報が出てくるようになりました。特定空き家の代執行や空き家への放火といったバッドニュース、賃貸住宅への入居拒否を受けている高齢者や低所得者に対する空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度の運用開始、空き家等対策計画を策定するなど地域特性に合わせた空き家対策に取り組む自治体、空き家を改修してカフェやコワーキングスペース、地域の交流拠点として活用しているというグッドニュースなど、様々です。しかしそもそも空き家はなぜ増えているのか、空き家はなぜ減らないのか、解決されづらい構造は一体何か、何が問題なのかを数回に分けて可視化(文章化)します。

未だに新築作り過ぎな住宅市場

大前提として空き家が全国に約820万戸あって、空き家率13.5%は過去最悪であることなどはこちらの記事に譲って、この記事では空き家が増える構造について書きます。終戦直後は確かに住宅不足でした。420万戸の住宅不足を背景に戦後の住宅政策は量的確保の推進に力点がおかれました。1950年に長期金利の住宅資金融資を行う住宅金融公庫が設立されるなど着々と住宅難の解消が進みます。1968年の時点で全国の総住宅数(3,106万戸)が総世帯数(2,965世帯)を超え、形の上では住宅が全世帯に行き渡るようになりました。しかしその後、空き家数は増え続けていきます。

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(画像引用元:統計局ホームページ/平成25年住宅・土地統計調査 特別集計(速報)

にもかかわらず新設住宅着工戸数は未だに毎年100万戸となっています。平成27年国勢調査で初めて日本の総人口が減少しました。これからジェットコースターが下るように人口減少が進むのは必至です。このペースで新築を作り続けていては空き家が増え、管理の行き届いていない老朽空き家が近隣に悪影響を及ぼしたり、空き家の新陳代謝がなされないことによる機会損失が生じるなど、様々な社会的損失につながります。

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(画像引用元:平成28年度住宅経済関連データ><2>住宅建設の動向>1.新設住宅着工戸数の推移>(1)新設住宅着工戸数の推移(総戸数、持家系・借家系別))

「新築」「持ち家」を手厚く支援してきた昭和の住宅政策

ではなぜ新築は作られ続けるのか。それは住宅建設を行うことで住宅関連産業への生産誘発効果がある、と考えられていることが大きいです。つまり住宅を作れば電気・ガスなどインフラ設備の他、様々な消費がなされるため経済効果があるんだというシナリオですが、不動産コンサルタントの長嶋修さんがかねてからおっしゃるように、特定空き家の行政代執行や空き家の解体費用に補助金が出されている時代に、必ずしも期待している経済効果は得られないのではないかと思います。他にも関連する問題として、空き家や空き地がまちのあちこちでランダムに生まれるいわゆる「都市のスポンジ化」や相続登記がスムーズになされずに生じる「土地の所有者不明化」といった現象も起きており、どれも共通しているのはかつてよりも不動産価値の低下が著しいことが挙げられます。

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(画像引用元:平成28年度住宅経済関連データ><5>国民経済と住宅投資>3.住宅建設の経済効果>(1)住宅関連産業への生産誘発効果)

また、持ち家に対する手厚い支援が行われ続けていることも挙げられます。1970年代以降、住宅金融公庫の融資供給の増大、銀行の住宅ローン販売も増えていきました。神戸大学大学院の平山洋介教授は、持ち家の増大は政策的に作られた価値観だと指摘しています。 そして政府が持ち家建設を重視した理由として経済刺激、政治的理由、社会保障などを挙げています。

持ち家で生活が安定した世帯は多いですが、ほかの選択肢がほとんどないのは非合理です。中間層が減り、低所得の高齢者や非正規労働者が増えました。公的な低家賃住宅は欧州諸国では2~3割を占めるのに、日本では3・8%。公的な家賃補助制度がないのは、先進国では日本くらいです。私物の住宅ばかり積み上がり、住宅困窮者が増え、社会や経済が停滞する状況から、抜け出さないといけません。

(ニッポンの宿題)やはり新築・持ち家? 平山洋介さん、山本久美子さん:朝日新聞デジタル

無秩序かつ無計画な居住地拡大を許した都市計画

住宅政策だけではなく都市計画にも新築が増え続けた要因があります。富士通総研の米山秀隆さんは「戦後の住宅市場は使い捨て型の構造になっていた」と指摘しています。

つまり戦後は、市街地を無秩序に広げ、そこに再利用が難しい住宅が大量に建てられたが、一転して人口減少時代に入ると、条件の悪い住宅から引き継ぎ手がなく、放置されるようになった。都心部でも東京の木造住宅密集地域などでは、建てられた時点では適法でも現在の法令では違法状態で再建築できない土地の場合、空き家がそのまま放置されている。

空き家率の将来展望と空家対策特措法の効果 ~20年後の全国、東京都の空き家率~ : 富士通総研

また、東洋大学の野澤千絵教授は都市計画の規制緩和を引き合いに、とにかく人口を増やしたい基礎自治体が市街化調整区域での宅地開発を許容している実情に対し「焼畑的都市計画」と問題提起しています。これはつまり、農地エリアで虫食い的に宅地開発が進められた結果、基礎自治体間で人口の奪い合いが起きているだけで広域的自治体の視点から見えると新規転入者は増えていないという近視眼的かつ部分最適に陥っているということです。

2000年の都市計画法改正で、開発許可権限のある自治体が、開発許可基準に関する規制緩和の条例(都市計画法第34条11号等)を定めれば、市街化調整区域でも宅地開発が可能とされたのである。

こうした開発許可の規制緩和は、開発許可権限を持つ自治体全体の約3割で行われているが、自治体はとにかく人口を増やしたいがために、農地関係等の他の法令が許せば、「ほぼどこでも開発可能」という過度な規制緩和を行っている場合も多い。

「住宅過剰社会」の末路 〜不動産業界の不都合な真実を明かす(野澤 千絵) | 現代ビジネス | 講談社(2/4)

まとめ

新築、持ち家建設を後押しする住宅政策が政策的(意図的)に行われ、その結果、高度成長期には一定の合理性があった(住宅不足、景気対策、まだそこまで空き家は増えていなかった)と思いますが、もはや平成も終わろうとしている現代においてこのやり方は限界を迎えています。中古住宅流通促進、既存住宅・リフォーム市場活性化に向けて動きがありますが、一方で新築に対する優遇とか住宅ローン減税はまだ残っていて、非常に中途半端かつどっちつかずな住宅政策となっており、ドイツのように新築優先から既存建築の改修優先へとガラッとシフトさせていく必要があります。

また、都市計画の方もコンパクトシティ・プラス・ネットワークの掛け声のもと立地適正化計画が全国の自治体で策定されてきていますが、無秩序な居住地拡大を防ぐことはもちろんのこと、人口減少する将来予測に沿った形でどう都市をダウンサイジングしていくか、政策をアップデートしていくことが重要です。