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空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家をみなし仮設住宅として活用する

札幌市でみなし仮設住宅の受付始まる

2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震から3週間が経ちましたが、未だ600人以上が避難生活を余儀なくされています。 札幌市では9月27日から今回の地震で自宅が全壊するなどの被害を受けた人を対象に、民間賃貸住宅を借り上げて提供する「みなし仮設住宅」の受付が始まりました。不動産仲介会社などに相談の上、自ら希望する賃貸住宅を選び、家賃や共益費、仲介手数料などの費用を市が負担します*1

札幌市は、住宅が全壊した人や、半壊であっても液状化などで住めなくなった人などを対象に民間の賃貸住宅を借り上げるいわゆる「みなし仮設住宅」を提供することにし、27日から市内3か所で受け付けを始めました。

「みなし仮設住宅」の受け付け開始 札幌市 | NHKニュース

f:id:cbwinwin123:20180929141415p:plain(出典:「みなし仮設住宅」の受け付け開始 札幌市 | NHKニュース

厚真町などでは民間賃貸住宅が少ない 

一方で札幌市と違って厚真町や安平町、むかわ町は民間賃貸住宅が少ないです。プレハブ型仮設住宅の建設が9月25日から始まっていますが、完成は早くて10月末とのことですので避難所生活が長引くおそれが出ています。

札幌など2市は賃貸住宅が多く、今月末にも提供が始まる。一方、厚真など3町は賃貸住宅が少なく、仮設住宅の完成は早くても10月末で、避難所生活が長引くおそれが出ている。

厚真など3町の避難生活、長引くおそれ 賃貸住宅が不足:朝日新聞デジタル

そもそも仮設住宅とは?

そもそも仮設住宅とは何でしょうか。正確には応急仮設住宅と言い、地震や水害、土砂災害などにより自宅に住めなくなり、自己資金で新たに住まいを確保できなくなった人へ国や自治体が提供する住宅です。災害救助法が根拠法となっていて、被災地近くに建設する「応急建設住宅」と自治体が民間賃貸住宅や公営住宅、空き家などを借り上げて被災者に提供する「みなし仮設住宅」の2種類があります。応急建設住宅は被災地近くで建設するので今までの生活スタイルやコミュニティを維持しやすい一方で、建設や維持、管理、撤去のコストがかかるとともに建設に時間がかかります。みなし仮設住宅は既存の住宅を活用するので比較的短期間に住み替えが可能である、応急建設住宅と比較して居住性のレベルが高い一方で、被災地の近くで見つかる可能性が低い、または見つかっても改修が必要な箇所があるなど、それぞれ特徴と課題があります

空き家をみなし仮設住宅として活用する

東日本大震災では、みなし仮設住宅の入居者が約68,000戸で、応急建設住宅の入居者の約53,000戸を上回りました。民間賃貸住宅や公営住宅に加え、個人住宅の空き家も活用することができれば良いです。ここで、空き家をみなし仮設住宅として活用する可能性を考えたいと思います。論点としては費用と時間です*2

費用:応急建設住宅の供給よりも安い

東日本大震災の際の応急仮設住宅建設にかかる戸当たり単価は約700万円です*3。空き家をみなし仮設として活用する場合の費用は、行政から家主に支払う家賃負担と空き家を居住できる状態にするための改修費の2つに大別されます。仮に家賃を10万円と設定した場合、年間で120万円かかります。応急仮設住宅の供与期間は2年以内ですので、2年間空き家を借り上げると家賃は240万円かかります。不動産市場に出ていない個人住宅の場合、居室や水回りの改修が必要な状態であることもよくあることなので、プラス改修費がかかることが考えられます。その場合、水回りなどの改修にたとえ300万〜400万円かかったとしても応急仮設住宅建設より安いです。

時間:応急建設住宅の供給よりも早い

過去の災害事例を見ると、避難所での生活を余儀なくされた被災者全員の仮設住宅等の住まいへの移行が完了するまでに要した時間は阪神・淡路大震災で約6ヶ月、東日本大震災で約9ヶ月となっています*4。一方で個人住宅の空き家をみなし仮設住宅として被災者に提供するまでには、

  1. 空き家の所有者との合意形成
  2. 空き家を貸出可能な状態にするための改修
  3. 入居者との合意形成

の3つのステップを経る必要があります。中でも2、つまり空き家の改修期間がどれだけかかるかがここでは大きな問題となってきます。リフォーム工事の工期の目安を調べると、水回りの全体工期は最長で2週間前後です。もちろん巨大地震の発生により工期は想定よりも延びると考えられますが、どちらかといえば応急建設住宅建設よりも早く入居可能です。

まとめ

賃貸住宅以外の空き家をみなし仮設住宅として活用する費用、時間のメリットは大いにあります。しかし、災害直後の混乱やリフォーム業者の人手不足、空き家の所有者との連絡及び合意形成が取れないといったリスクもあります。が、まずはみなし仮設住宅として活用可能な空き家がどこにどれだけあるのか情報を集約し整理しておくが前提として重要です。その上で空き家所有者の理解を得ること、空き家の構造や位置情報を把握することなどが必要になってきます。不動産協会や宅建協会などの不動産業界団体と行政との協定も必要でしょう。みなし仮設住宅への入居は住みなれた地域を離れる場合もあります。特に単身高齢者の場合は行政の見守りなどの支援が届きにくくなった結果、最悪孤立死につながってしまったケースもあります。必ずしも万能ではありませんが、活用可能な空き家をみなし仮設住宅として活用するための体制整備が今求められています。

*1:ただし、費用負担の上限額が設定されています。月額上限額は世帯人数1人の場合70,000円、2〜4人の場合93,000円、5人以上の場合111,000円。詳しくは札幌市のウェブサイトをご覧ください。

*2:こちらの論文から多くの示唆を得ました。

*3:内閣府>被災者の住まいの確保策検討ワーキンググループ(第1回)平成25年12月16日>資料4 応急仮設住宅の概要

*4:内閣府>避難所の生活環境対策>避難所関係>避難所運営ガイドライン(平成28年4月)