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行政と住宅市場関係者がアライアンスを組んで住宅政策のPDCAを回すドイツ

 2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の「第3章 ドイツ 公民連携で空き家対策からエリア再生へ」から、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州の住宅監視法と住宅ローカルアライアンスについてまとめます。著者は東京都市大学環境情報学部教授の室田昌子さんです。以下、黒字強調は筆者によります。

住宅監視法に基づき住宅所有者へ強制力ある働きかけ

 ドイツでは州や市が住宅監視法を制定し住宅の最低限の設備要件が規定しています。住宅所有者に対し、適切な状態を維持し改修することを義務付けています。必要な設備を備えておらず、その状態が改善されない場合は最高で5万ユーロ(約650万円)もの罰金が課されることもあります。
 自然の日あたりや通風、天候や湿気からの保護、エネルギー・水の供給など、住宅の最低限の設備を細かく定めています。こういった設備を備えることを義務付けることで住宅の質を確保し、居住者の生活を保障するとともに、放棄不動産化を予防しています。
 ノルトライン・ヴェストファーレン州では2014年5月から2016年末までの間に、住宅監視法による介入が計6200回も実施されています。これは、毎月200件近い介入が行われていることになります。州や市が法令に基づき、住宅の質を確保するために強制力ある働きかけを頻繁に行なっていることがわかります。

≪4 ノルトライン・ヴェストファーレン州の住宅監視法とローカルアライアンス>1  放棄不動産対策と住宅監視法≫

  • 連邦国家であるドイツでは州や特別市でも法律が制定されている
  • 放棄不動産対策に関する法制度を制定するのは州や特別市の役割でもある
  • 州ごとに定められる住宅監視法は、住宅の最低限の水準を確保するための法律であり、放棄不動産対策の観点からも重要な法律
  • 現在、ノルトライン・ヴェストファーレン州、ヘッセン州、ベルリン市、ブレーメン市などで制定されている
  • この法律は、状態の悪い住宅に住むことを余儀なくされている貧困層の人々や移民の健康被害などを防止することと同時に、放棄不動産から地域環境を守ることを目的としている
  • 特に適切な住宅を確保することが困難な移民が放棄不動産に数多く居住しており、放棄不動産が改善されない状況を引き起こす要因にもなっている
  • そこで、本法律では住宅の最低限の設備要件が規定され、適切な状態を維持し改修することが義務化されている
  • また、市町村は、必要な設備を備えておらず、その状態が改善されない住宅に対して「居住不適格」を宣言でき、宣言された住宅からは住民は退去しなければならないことが定められている

≪4 ノルトライン・ヴェストファーレン州の住宅監視法とローカルアライアンス>2  住宅監視法による介入≫

  • 放棄不動産が問題化しているノルトライン・ヴェストファーレン州では、産業の衰退により失業者が増加し、職を求めて人々が転出した地域が多い
  • そのような地域では、人口の流出に伴い家賃が下がり、住宅オーナーは改修費用を負担できず、管理不全の建物が放置されることになる
  • それにより周辺の環境やイメージがさらに悪化不動産価格も下落するという悪循環に陥っている
  • 一方で、特に近年は放棄不動産に大家族の移民が移り住んでおり、放棄不動産を商売にするビジネスが出現している
  • 放棄不動産によって生じる環境問題に加えて、不当なビジネスの横行と移民からの搾取、移民の健康や生活問題、地域社会問題が深刻化している
  • このような背景から、 ノルトライン・ヴェストファーレン州の住宅監視法は2014年4月に施行された
  • 制定の目的は、①住民が尊厳を持って暮らせるように最低限の住環境を保護すること、②地域の生活環境を保護し、放棄不動産の負の影響から近隣を守ることとされている
  • 住宅の最低限の設備としては、自然の日あたりや通風、天候や湿気からの保護、エネルギー・水の供給、電気や照明、排水設備、暖房システム、キッチン、衛星設備、エレベーターや階段、バルコニーなどが挙げられており、これらの設備が機能的かつ使用可能でなければならないとする
  • また、規模については、原則として居住者1人あたり9㎡以上、6才以下の子どもは6㎡以上とすることが定められており、規定に満たない場合は居住が禁じられている
  • 前述のように、最低限の設備を備えておらず、その状況が改善されないまま住民に重大な健康被害をもたらす場合、各市町村はその住居に対して居住不適格宣言を出すことができる
  • その際、住民は、適切な居住空間を合理的な条件で別途に利用できることを条件に、自治体が定める期間内に退去しなければならない
  • さらに、住宅監視法で居住不適格を宣言した住宅の所有者に最高で5万ユーロ(約650万円)の罰金が課される
  • この罰金は、市町村からの改善命令に所有者が自主的に従わない場合に課されるため、迅速な対応を促す効果がある
  • この住宅監視法は州内の各地域ですでに積極的に利用されており、2014年5月から2016年末までに合計6200回の介入が実施されている
  • 現場では、各市町村の担当者が住民からの相談に対応し、所有者の放棄不動産の賃貸を監督しつつ、改善の注意や命令を行なっている

行政と住宅市場関係者などが協力して住宅政策の戦略を考える

 子育て世帯や若者が多いエリア、単身または夫婦二人暮らしの高齢者が多いエリア、移民や外国人が多いエリア、など住民の状況や抱える生活課題によって必要な住宅も違ってきます。人口が急増しているエリア、転出が相次いでいるエリアなど、今後どれだけ住宅を供給するべきなのかをエリアごとに考えていく必要があります。
 ノルトライン・ヴェストファーレン州では市町村向けにガイドラインを作成し、住宅ローカルアライアンスを構築することを提唱しています。住宅ローカルアライアンスは行政と住宅市場関係者などが協力して住宅政策を策定し実行し評価するプラットフォームです。人口の増減を踏まえた住宅供給のあり方を行政と事業者、住宅所有者がアライアンスを組み住宅政策のPDCAを回すという方法は日本も大いに参考にすべきです。

≪4 ノルトライン・ヴェストファーレン州の住宅監視法とローカルアライアンス>3  住宅ローカルアライアンス≫

  • ノルトライン・ヴェストファーレン州政府は、市町村向け住宅政策実施に関するガイドライン(2016年)を作成している
  • このガイドラインで重視されているのは、①分野別目標と実現手段を関係者間で調整し設定すること、②住宅政策プロセスを全体で管理すること
  • また、ガイドラインでは、「住宅ローカルアライアンス」を構築することが提唱されている
  • この「ローカルアライアンス」とは、住宅政策を策定するうえで行政と住宅事業者が協力することを指しており、さらに単なる協力にとどまらず共通の目標を認可することを指している
  • 州政府では、住宅ローカルアライアンスの構築を求める理由として、地域によって異なる住宅の供給状況に対応するためとしている
  • 人口が減少している地域では、建物の新築は空き家を増加させるため、対象者別に区分した住宅市場の適切な見通しや、建築行為の調整空き家の分布や立地の継続的な観察といった取り組みが必要
  • また、有効な手段であるアパートの合併や解体、コンバージョンに関しては計画的に進めることが求められる
  • その一方で、移民や難民などにより、住宅が不足している地域もある
  • そのような地域では、適切な住宅を必要な件数で整備しなければならない
  • いずれの場合も、関係事業者と情報や目標を共有することで取り組みを効率的に進めることが可能となると説明している
  • 州のガイドラインではアライアンスを6段階に区分し、行政と住宅事業者とが各段階で情報共有や意見交換を行い、その内容を確認して同意するというプロセスを設定している

「世界の空き家対策」(学芸出版社)98ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)98ページ
  • 戦略づくりから計画の実施、評価にいたる各段階で互いの意思を確認し、協調行動のルールづくりをするプロセスが示されている
  • また、アライアンスの関係者としては、自治体、住宅企業や業界団体・所有者などの住宅市場関係者、その他の関係者(建築家、銀行、社会福祉協会、社会・住宅問題の関連組織)、専門家などが挙げられている 

ドイツ各地で誕生している住宅ローカルアライアンス

 ノルトライン・ヴェストファーレン州だけでなくドイツ各地で住宅ローカルアライアンスは誕生しています。6割のアライアンスで開発や質的・量的目標の調整を行なっています。
 一方でドイツ連邦政府としては、特に大都市部における移民の増加による住宅不足が深刻化しています。中低所得者向けの良質な住宅建設や既存住宅の近代化などに課題を抱えています。

  • なお、 住宅政策に関するローカルアライアンスは、ドイツ各地で誕生している
  • 連邦建築・都市・空間研究機構(BBSR)の報告書(2016年)によると、市町村アライアンスと地域アライアンスに区分して合計86のアライアンスを把握している
  • また、各自治体で最も実施されているアライアンスは、①住宅市場への協力や意見交換(74%)、②社会的支援や市町村住宅プロジェクトの優先順位などの計画や調整(67%)、③開発や質的・量的目標の調整・コンセプト作成(62%)
  • 連邦政府がアライアンスに注目する理由はノルトライン・ヴェストファーレン州政府とは異なっている
  • 近年、住宅の需要が急増し住宅価格が高騰した結果、中低価格の住宅が不足しており、中低所得者向けの良質な住宅建設や既存住宅の近代化が不十分となっている
  • 特に大都市では、移民の増加などにより住宅不足が深刻化している
  • さらに、住宅のエネルギー効率や温室効果ガス削減への対応も必要
  • これらの課題に取り組むために、連邦政府、州政府、自治体、住宅・建設会社、テナント協会、労働組合、社会問題団体が協力することを掲げ、2016年には「アフォーダブル住宅建設アライアンス」を設置した
  • 連邦政府は、公共性の高い住宅政策の実現に向け、その政策策定プロセスに事業者や関係者が加わることにより多様な意見を反映し、政策を実施する事業者との協力関係を構築することを想定している

住宅市場を適切に管理する

 ノルトライン・ヴェストファーレン州の住宅ローカルアライアンスでは住宅市場を適切に管理する、という目的に向かって新築住宅の量的調整も含めて住宅政策に取り組んでいます。 

  • 一方、ノルトライン・ヴェストファーレン州のローカルアライアンスは、住宅市場を適切に管理するという目的を有しており、「参加型経済」の考え方を参考にしている
  • 参加型経済とは、市民参加型の意思決定に基づく経済活動システムであり、分散型の計画経済と生産手段の共有制を伴う社会主義の一形態
  • 中央集権型の計画経済とも市場主義経済とも異なるもので、市場機能に基づく自由な経済活動の限界や矛盾に対する代替案として提示された考え方
  • 同州では、必要なタイプの住宅を必要な量で必要な地域に整備するために、行政と住宅事業者や関係者間で住宅政策の戦略ターゲット別の供給目標や手段を共有し、企業の経済活動である新築住宅の量的調整を行うことを想定している

  

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世界の空き家対策: 公民連携による不動産活用とエリア再生

世界の空き家対策: 公民連携による不動産活用とエリア再生

  • 作者:米山 秀隆,小林 正典,室田 昌子,小柳 春一郎,倉橋 透,周藤 利一
  • 出版社:学芸出版社
  • 発売日: 2018-08-31