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韓国の地方自治体の空き家対策(ソウル、釜山、仁川、大邱)

 2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の「第6章 韓国 スピード感のある空き家整備事業」から、ソウル、釜山、仁川、大邱市の空き家対策についてまとめます。著者は明海大学不動産学部教授の周藤利一さんです。以下、黒字強調は筆者によります。

韓国でも自治体から空き家対策はスタートした

 老朽空き家の屋根や壁が倒壊しそうで通学路を通る子どもに危険が及ぶ、など空き家に対する問題意識は日常生活の中から見つかるものです。韓国でも日本と同様、自治体の条例により空き家対策は整備されていきました。
 具体的には空き家を活用して賃貸住宅を供給したり、補助や融資を通して空き家の活用に社会的企業が参加するように誘導する、など撤去だけではなく活用するというアプローチも取っている自治体もあるようです。   

≪3  ソウル、釜山、仁川、大邱市の空き家対策>1 空き家条例の制定

  • 日本と同様、韓国でも空き家法制は国法に先がけて地方自治体の条例により整備されたが、2017年11月時点でその総計は64を数える
  • これらの条例を根拠として、地方自治体は空き家を整備・活用して賃貸住宅を供給したり、住民の共同利用施設を設置する事業を推進し、補助や融資の支援を通じて空き家の活用に社会的企業が参加するよう誘導している
  • ただし、空き家の定義や条例の適用範囲が地方自治体によってまちまちであり、なかには農村地域の空き家のみを対象としたものもある
  • こうした状況が、国法である空き家および小規模住宅の整備に関する特例法が制定された背景の一つとされている

空き家を活用した住宅セーフティネット的な動きも:ソウル

 ソウル特別市では2015年に空き家活用や管理に関する条例を制定して、空き家の定義を明確にし、区に対し空き家の活用および管理に関する計画の策定を義務付けました。そして、空き家を高齢者や障害者など住宅の確保を必要とする人向けの賃貸住宅として活用する、住宅セーフティネット的な規定も設けられています。

≪3  ソウル、釜山、仁川、大邱市の空き家対策>2 ソウル特別市の空き家対策

  • ソウル特別市の空き家対策は、まずは区レベルで始まった
  • 2011年に盧原(ノウォン)区、2013年に冠岳(クァナク)区が空き家条例を制定し、防犯カメラの設置、仮設塀の設置といった防犯・環境改善の観点からの措置が規定されたが、空き家の利活用に関する規定は盛り込まれていなかった
  • その後、2015年にソウル市が制定したソウル特別市空き家活用および管理に関する条例で、6ヵ月以上居住・使用されていない住宅・建築物が空き家と定義され、区に対し空き家の活用および管理に関する計画の策定を義務づけるとともに、所有者、事業者、行政(区)間の協定が締結された空き家を、ソウル市が高齢者、障害者、片親世帯、大学生、青年労働者など住宅の確保を必要とする人向け賃貸住宅として活用する規定が設けられた
  • この住宅では、家賃は市場水準の80%、上昇率は5%以下とし、入居資格については都市労働者の平均所得の50%以下の者を最優先、70%以下の者をその次に優先すると定めた

空き家を活用した賃貸住宅事業に4年間で約6.8億円を支援:釜山

 釜山広域市では空き家をリモデリングして低所得者に市場の半額の家賃で貸し出す事業を2012年に開始し、その後も空き家整備支援条例の施行や空き家情報システムの開設など、積極的に空き家活用事業を進めています。
 賃貸住宅事業に2012年から16年の4年間で約6.8億円を支援し、560名に対する供給が実現しています。 

≪3  ソウル、釜山、仁川、大邱市の空き家対策>3 釜山広域市の空き家対策

  • 釜山広域市では、放置された空き家をリモデリングして低所得者に市場の半額の家賃で貸し出す事業を2012年に開始した
  • この事業を支援するため、2013年には釜山広域市空き家整備支援条例を施行、2015年には空き家情報システムを開設し、廃屋の撤去、賃貸住宅事業、菜園の造成など多様な事業を進めている
  • 賃貸住宅事業については、2012年から16年の間に市は総額68億ウォン(約6.8億円)を支援し、560名に対する供給が実現している
  • これにより、住宅所有者にとっては賃貸収入の確保、入居者にとっては負担の低廉化というメリットが得られ、空き家の発生を予防することで居住環境を改善する効果がもたらされた

空き家を撤去後、駐車場としての活用が多い:仁川

 仁川広域市南区社会調査によると、空き家活用の内訳として一番多いのが、撤去後駐車場として活用、でした。賃貸住宅としての活用事例が見られません。

≪3  ソウル、釜山、仁川、大邱市の空き家対策>4 仁川広域市の空き家対策 

  • 仁川広域市南区では、工業団地の工場や大学が郊外に移転したことに伴い空き家が増加し、2015年に仁川広域市南区空き家管理条例が施行された
  • 2017年の仁川広域市南区社会調査によると、空き家の活用方法の内訳としては、撤去後駐車場として活用(45%)、社会福祉施設(25%)、住民利便施設(16%)、まちづくりに活用(9%)、企業への賃貸(4%)が挙げられているが、賃貸住宅としての活用事例は見られない

空き家を撤去し跡地を公共的な用途に活用する:大邱

 大邱広域市では2013年から、空き家を撤去し跡地を駐車場や菜園、小公園など、公共的な用途に活用する事業をスタートさせました。この土地所有者にとっては、建物撤去費で援助を受けられたり、土地保有税が免除されるなどのインセンティブがあります。

≪3  ソウル、釜山、仁川、大邱市の空き家対策>5 大邱広域市の空き家対策 

  • 大邱広域市では、予算を投入して空き家を撤去し、公共的な用途に活用する事業が推進されている
  • 対象地域は市全体の空き家の2割が集中する旧都心の中(チュン)区で、再開発事業が遅延していたことで空き家の発生速度が加速していた
  • 特に空き家が都市の美観と環境の悪化を促進しており、青少年の非行の温床と化していたため、市は2013年から空き家の撤去に着手し、跡地を駐車場、菜園、小公園として再生する廃空き家整備事業を進めた
  • この事業に協力する土地所有者は、敷地を3年間公共用途に提供する代わりに、建物撤去費で援助を受けることができ、土地保有税が免除されるというインセンティブが受けられる
  • 2013年から15年までの間に17億ウォン(約1.7億円)の市費を投入した成果として、総計17棟の空き家が撤去され、延べ面積1万6000平方メートルの敷地に駐車場66ヵ所、菜園34ヵ所、小公園6ヵ所、運動施設3ヵ所、花壇11箇所が開設されており、空き家を解消するとともに、地域に不足していた公共空間の確保も実現されている

  

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  • 作者:米山 秀隆/小林 正典
  • 出版社:学芸出版社
  • 発売日: 2018年08月31日