マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

2013年から5年間で全国の空き家数は本当に26万戸しか増えていないのか問題

平成30年住宅土地・統計調査結果に疑問の声

 不動産コンサルタントの長嶋修さんやLIFULL HOME'S総研所長の島原万丈さんらが口々に疑問を投げかけているのが先日公表された平成30年住宅・土地統計調査*1の結果です。

空き家の増加傾向が鈍化している理由を探る3つの仮説

 全国の空き家数は前回調査である平成25年住宅・土地統計調査では820万戸ですが、今回は846万戸と、26万戸の増加に止まっています。平成20年から25年は63万戸、平成15年から20年は98万戸、平成10年から15年は83万戸の増加ですから、この数字だけを見ると空き家の増加傾向は鈍化しています。すなわち平成25年から30年の間に、【仮説1】新築住宅建設数が減少している、【仮説2】総世帯数が増加している、【仮説3】空き家の解体が進んでいる、ということが一旦は考えられます。 

(1)平成30年10月1日現在
総住宅数6242万戸(179万戸増、3.0%増)
総世帯数<未公表>
空き家数846万戸
空き家率13.6%

(2)平成25年10月1日現在
総住宅数6063万戸(304万戸増、5.3%増)
総世帯数5245万世帯(248万世帯増、5.0%増)
空き家数820万戸
空き家率13.5%

(3)平成20年10月1日現在
総住宅数5759万戸(370万戸増、6.9%増)
総世帯数4997万世帯(272万世帯増、5.8%増)
空き家数757万戸
空き家率13.1%

(4)平成15年10月1日現在
総住宅数5389万戸(364万戸増、7.3%増)
総世帯数4726万世帯(290万世帯増、6.5%増)
空き家数659万戸
空き家率12.2%

(5)平成10年10月1日現在
総住宅数5025万戸(437万戸増、9.5%増)
総世帯数4436万世帯(320万世帯増、7.8%増)
空き家数576万戸
空き家率11.5%

【仮説1】新築住宅建設数が減少している

 新設住宅着工戸数の推移を見てみると、平成20年度までは毎年100万戸を超えていましたが、21年度に77.5万戸まで下がってからはじわじわと盛り返し90万戸前後で推移しています。

f:id:cbwinwin123:20190518222944p:plain(出典:平成29年度住宅経済関連データ>2住宅建設の動向>1新設住宅着工戸数の推移>1新設住宅着工戸数(総戸数、持家系・借家系別))

 この図には載っていない平成30年度の新設住宅着工戸数は95.3万戸です。よって新設住宅着工戸数が減少しているわけではなさそうです。

f:id:cbwinwin123:20190518223628p:plain(出典:平成29年度住宅経済関連データ>2住宅建設の動向>1新設住宅着工戸数の推移>1新設住宅着工戸数(総戸数、持家系・借家系別))

【仮説2】総世帯数が増加している

 総世帯数については確かにずっと増加していますが細かく見ていくと、平成10年から15年は290万世帯増、15年から20年は272万世帯増、20年から25年は248万世帯増、ということで少しずつ増加傾向が緩やかになっています。では最新の30年度の総世帯数は?というと、まだ公表されていないようなので公表を待ちたいと思います。

f:id:cbwinwin123:20190518231412p:plain(出典:平成29年度住宅経済関連データ>1住宅整備の現状>1世帯数、住宅戸数の推移>1世帯数及び住宅戸数の推移)

【仮説3】空き家の解体が進んでいる

 2015年5月に完全施行された空き家対策特別措置法では市町村が老朽化した空き家の所有者に対し、指導・勧告・命令、そして代執行(強制撤去)ができる権限が与えられました。他にも市町村が空き家対策の計画を策定することや空き家の所有者を探すために税務部局で保有・管理している固定資産税情報を活用することができるようになりました。
 平成30年10月1日時点で空き家対策計画を策定した市町村数は848(49%)、老朽化が進んだ特定空き家に対する措置は助言・指導が13,084件、勧告が708件、命令が88件、代執行が29件、略式代執行が89件となっています。
 この5年間で空き家に関するニュースは増えましたし社会的関心は高まっていると感じます。空き家の所有者が高齢化し相続のタイミングで解体するというケースもあるかとは思います。

f:id:cbwinwin123:20190519062347p:plain(出典:空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について(H30.10.1時点)) 

 住宅の滅失戸数の推移を見てみると平成12年以降は20万戸を超えることはなく、近年は11、2万戸前後で推移しています。この表では載っていない29、30年度も同様の傾向だとすると、この5年間で12万戸×5=60万戸ほどしか解体されていないということになります。

f:id:cbwinwin123:20190519063226p:plain(出典:平成29年度住宅経済関連データ>2住宅建設の動向>2建替需要の動向>1住宅の滅失戸数の推移)

 ただし、この住宅滅失戸数については東洋経済オンラインの記事によると「精度が問題」と指摘しています。

最大の原因は、住宅滅失統計調査の精度の問題だろう。法律で建築物除却届の提出は義務付けられているが、届け出数が実際の除却戸数よりも少ない可能性がある。不動産の滅失登記を行わないと、同じ敷地に新築した建物を登記できない可能性があるが、除却届を出さない場合に「土地を売れない」「新築工事ができない」などの不都合が生じるわけではないからだ。

「空き家数」の増加にブレーキがかかった不可解 | 建設・資材 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

 記事の中で全国解体工事業団体連合会の幹部は「全解工連で実際の除却戸数を把握しているわけではないのでわからないが、統計数字の2倍は壊している」と述べるなどしており、解体現場と統計データとで数字にギャップが発生しています。

空き家に関する新規項目が加わった影響もある?

 3つの仮説を見てきましたがどれも微妙な結果です。今回の住宅・土地統計調査で特筆すべきなのは空き家に関する新規項目が加わったことです。これまでは「建物調査票」による外観調査で「空き家」*2を把握してきましたが、今回は現住居以外の住宅で「居住世帯のない住宅」の項目を新たに追加し、空き家の質に関するデータも取得しようとしました*3
 外観調査では空き家と判定していたけれど、より精緻に調査した結果、空き家数が思ったより増えなかったのか。しかし、実際は空き家だけれど所有者の主観では空き家ではないと判断して、現住居以外の住宅を所有していない、と回答しているケースも考えられ、必ずしも今回の空き家に関する新規項目追加が一因して空き家数の増加傾向が緩やかになったとは言い切れません。

「消えた200万戸問題」

 暫定的な結論としては【仮説1】新築住宅建設数が減少している、が怪しいということです。総務省の平成30年住宅・土地統計調査では総住宅数は6242万戸と、平成25年に比べ179万戸の増加ですが、国土交通省の建築着工統計調査(平成30年度分)によると平成26年〜30年の新設住宅着工戸数は467万戸、建築物滅失統計調査によるとここ10年間位は年間11〜12万戸の滅失戸数なので多く見積もって平成26年〜30年の住宅滅失戸数は推定で60万戸、そう考えると467万戸-60万戸で407万戸がこの5年間で増加した総住宅数となるはず。407万戸-179万戸で228万戸のズレについて島原万丈さんは「消えた200万戸問題」として問題提起されています。

統計調査に必要なのは正確性とわかりやすさ

 統計の目的によって調査の対象や手法は異なってきます。しかし、あまりにも細分化しすぎるととてもわかりづらい。総務省の住宅・土地統計調査の総住宅数と国土交通省の建築着工統計調査ないし建築物滅失統計調査で単純計算でこれだけ数字に乖離が出るのは何故でしょうか。
 現状を数値化し根拠立てて政策を組み上げていくために統計調査は正確かつわかりやすいことが求められます。統計不正問題もあり残念ながら行政が作る統計に対する信頼は薄れています。しかし、これだけ社会的にもこの問題が注目されたからこそ、社会的関心の高まりとともに内部改善に向けた動きも加速するはずです。

*1:住宅・土地統計調査(5年ごと)は、我が国の住宅とそこに居住する世帯の居住状況、世帯の保有する土地等の実態を把握し、その現状と推移を明らかにする調査

*2:人が居住できないような廃屋は対象外

*3:平成30年住宅・土地統計調査に関する研究会における議論に詳しい