マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

令和元年空き家所有者実態調査から見えてきたこと

 2020年12月に公開された令和元年空き家所有者実態調査*1のポイントをまとめます。

不動産登記の状況の把握などの設問が新設

 調査の目的、対象、方法・時期、沿革はこちらのとおりです。最近の空き家を取り巻く事情や環境変化を踏まえて新しい設問が追加されました。

  • 登記簿による空き家所有者の特定が困難との指摘があることから、空き家の不動産登記の状況を把握する設問を新設
  • 空家等対策の推進に関する特別措置法が所有者の行動や意向に影響しているか把握するため設問を新設
  • 近年見受けられるようになった空き家の譲渡意向の程度を把握するため設問を新設
  • 解体費用を用意できないため空き家が除却されない状態が見受けられることから、解体費用の確保方法を把握するため設問を新設

令和元年空き家所有者実態調査 結果のポイント (2/2)(出典:住宅:令和元年空き家所有者実態調査 - 国土交通省

最も大きい割合の回答結果

 以下、調査結果のポイントです。最も大きい割合の回答結果を一旦見ることで、調査結果の傾向を掴むことができます。

空き家の利用状況などについて

  • その他(物置、長期不在、取り壊し予定の空き家等)が52.8%と最も大きい
  • 人が住まなくなってからの期間は「20年以上」が最も大きい

所有している空き家について

  • 一戸建てが89.6%と最も大きい
  • 建築時期は昭和55年以前建築のものが合わせて69.1%と最も大きい
  • 状態としては腐朽・破損があるものは合わせて54.8%と最も大きい
  • 最寄りの鉄道駅からの距離は「2,000m以上」が39.9%と最も大きい

空き家の取得経緯などについて

  • 「相続」が54.6%と最も大きい
  • 空き家を取得した際に登記の「名義変更を行った」または「新たに登記を行なった」は合わせて76.7%と最も大きい
  • 登記または名義変更のいずれも行わない理由は「登記や名義変更しなくても困らない」が49.6%と最も大きい 

空き家の管理について

  • 空き家の主な管理者は所有者やその親族が合わせて88.1%と最も大きい
  • 管理面での心配事については「住宅の腐朽・破損の進行」が58.0%と最も大きい
  • 管理をする上での課題については「課題はない」が30.2%と最も大きい

今後の空き家の利用などについて

  • 今後5年程度のうちの利用意向については「空き家にしておく(物置を含む)」が28.0%と最も大きい
  • 今後の利用意向が「賃貸」「売却」のものについて賃貸・売却する上での課題を聞いたところ「買い手・借り手の少なさ」が42.3%と最も大きい
  • 今後の利用意向が「寄付・贈与」のものについて寄付・贈与のために支払っても良い費用を聞いたところ「費用がかかるなら寄付・贈与しない」が42.3%と最も大きい
  • 今後の利用意向が「取り壊す」のものについて取り壊すための費用はどのように用意するかを聞いたところ「貯蓄から」が55.3%と最も大きい
  • 今後の利用意向が「空き家にしておく(物置を含む)」のものについて売却・賃貸しないまたは取り壊さない理由を聞いたところ「物置として必要」が60.3%と最も大きい

空き家の所有世帯について

  • 所有世帯の家計を主に支える者の年齢は高齢者(65歳以上)が合わせて61.5%と最も大きい
  • 所有世帯が居住する住宅は持家が91.5%と最も大きい
  • 所有世帯の居住地から秋山での所要時間は「徒歩圏内」と「車・電車などで1時間以内」がともに35.6%と最も大きい
  • 所有世帯の年間収入は「300〜400万円未満」が17.2%と最も大きい

考察

 空き家の利用状況は「その他」つまり個人住宅が半数以上。使われなくなった期間も20年以上の長期に渡っているケースが多い。建て方はほとんどが戸建て、建築時期も築40年以上が多く、腐朽・破損のある空き家も半数以上。空き家の取得経緯は相続が半数以上、不動産登記または名義変更も約2割はやっていない、やらない理由として「特に困らない」が半数近く。空き家の管理についてはほとんどが所有者や親族。腐朽・破損の進行が心配事の上位。今後の利用意向は現状維持が最多…。
 不動産はまちや地域に開かれている存在であるため、厳密な意味での私的財産とは言えない。戦前は賃貸世帯がメインだったが、戦後の住宅不足や高度経済成長を背景に新規住宅建設と持家世帯がメインとなった。しかし、子世代は進学や就職、結婚や出産、子育てにより住まいを移す。残された住宅には高齢の夫婦が住む。夫婦のどちらかが亡くなったり、高齢者施設に入居するなどして高齢単身世帯となる。
 人口減少や少子化は加速化し住宅は余剰となり、遊休住宅や遊休部屋、遊休スペースなどが増えてくる。しかし、住宅双六よろしくエンドユーザー、不動産業界、政治行政においても「新築・持家信仰」はいまだ根強く、現在の社会状況や未来を見据えた中古・賃貸中心の不動産市場への転換はまだまだ道なかばだ。
 結論を言うと、住宅という人の思いが多分に入ったアナログな物を再び魅力や価値に変える動きは全国各地でゲリラ的に生まれている。思いの詰まった空き家をインターネット上のプラットフォームに掲載することで、柔軟に直接売買ができる仕組み「家いちば」などだ。こちらの書籍はまだ途中までしか読んでいないがとても面白い。

空き家幸福論 問題解決のカギは「心」と「新しい経済」にあった

補足

 今回取り上げた空き家所有者実態調査以外にも似ている調査として、総務省が実施している住宅・土地統計調査、市町村が実施する空家実態調査があります。それぞれ微妙に調査目的が異なります。ですので、結果も自ずと違ってきます。

<住宅・土地統計調査>
空き家に関する基本的な項目 (所在地、建て方、取得方法、建築の時期、居住世帯のない期間)を把握するため。

<市町村が実施する空家実態調査>
当該市町村の区域内にある空家等の所在及び当該空家等の所有者等を把握するため。

<令和元年空き家所有者実態調査>
全国の空き家について利用状況、管理状況、所有者の意識・意向等を把握するため。

*1:国土交通省では、昭和55年度よりほぼ5年ごとに、調査目的に応じて調査対象・方法の見直しを図りつつ調査を実施している。本調査は9回目にあたる。(前回までは「空家実態調査」として実施。)