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空き家を活用して新しい価値をつくる

”空き家活用で学生や子育て世代に住んでもらう街に”坂の街・横須賀市谷戸地域のまちづくり(空き家活用事例紹介)

坂の街”谷戸地域”で空き家が増加

 

横須賀市では、市内に点在してる”谷戸地域”の空き家増加が問題になっています。”谷戸地域”とは平地が少なく細い路地や階段が入り組む横須賀特有の地形です。明治初期からの軍港の関係者らが居住する際、市街地に近い山地や丘陵地が宅地として利用されたことから市内には今も49の谷戸地域があるそうです。

 

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画像引用元)細い路地と階段、急な坂が特徴の谷戸地域。

 

谷戸地域では高齢化に伴って平地への住み替えや亡くなるケースが増えるなど空き家が増加しています。そして、ほとんどが車の横付けができない階段道路に面している地形。不動産業者も平地と比べ管理に手間がかかるなどの理由で売却・賃貸には消極的のようです。その結果、新たな入居希望者も少ないという悪循環が起きています。5軒に1軒が空き家という状態です。

 

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 (画像引用元)横須賀市内で空き家率が最も高い汐入5丁目地区。住民の3人に1人が65歳以上。日用品の買い物も大変です。

 

”谷戸”のデメリットをメリットに変えて子育て世帯や大学生の居住を促す

 

確かに高齢者にとっては出歩くたびに急な階段を登り降りしなければならないのは大変です。しかし、横須賀港が見渡せる絶景や自然豊かで完成な住環境といった魅力もあります。そして購入・借りやすい低価格な物件が多いなどは大きなメリットです。横須賀市としてもこの点をアピールして子育て世帯や大学生などに居住を促しています。

 

市はこれらの特徴を活かし、静かな環境下でゆったり子育てをしたい世帯や、体力があって階段を苦にしない若い大学生などにお買い得物件としてPR、居住を促すネットワークを整備。先月末(2014年3月末)からモデル地区に対象を絞り、「空き家バンク」を立ち上げた。横須賀特有の谷戸居住をブランド化することで急激な空き家増加の抑制、地域の活性化を図りたい考え。谷戸地域に空き物件を有する地元不動産会社からも歓迎の声が上がっている。 

空き家居住の促進図る | 横須賀 | タウンニュース

 

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画像引用元)この眺望はなかなかですよね。

 

横須賀市の「空き家バンク」とは?

 

空き家バンクとは「地方自治体などが地元の空き家情報や移住に関する情報をインターネット上などで公開することによって、全国から入居者や購入者を募り、地域に住民を呼び込むことによって地域活性化を図ろうとする取り組み」のことです。

 

その空き家バンクを谷戸地域で最も空き家率の高い汐入5丁目2区をモデル地区に今年4月に立ち上げました。ホームページ上で不動産取引が困難な土地・建物を紹介、所有者と利用希望者のマッチングを支援します。市内の相場と比べると3割ほど安価とのことです。

 

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 (画像引用元)こんな感じでウェブ上で物件が紹介されています。今の所5つだけの掲載。今後たくさんの空き家オーナーさんに空き家バンクへ登録してもらえるようにすることが課題です。

 

地域活動を手伝うことを条件に格安賃貸物件を提供

 

汐入5丁目地区の近くにある神奈川県立保健福祉大の学生が町内会事業を手伝うことなどを条件に家賃を割り引くといったユニークな事事業もあります。横須賀市が家賃を補助して学生に空き家を提供し、地域を活性化しようという試みです。

 

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画像引用元) 空き家に引っ越した大学生が地域活動(資源ゴミの回収)を手伝っています。階段の下のトラックまでゴミを持って往復。若者の力が重宝されるわけですね。

 

学生にとっては通学時間の短縮、安い家賃が魅力です。大型商業施設も近くにあり、3駅が利用できます。さらに地域活動への参加も、普段あまり関わりが薄い学生にとっては新鮮なことかもしれません。

 

地域や高齢者にとっては若者が町に住むことで町に活気が出て治安の悪化を防いだり、コミュニケーション取ったりして刺激になったり、そして空き家の活用につながったりと双方WIN-WINの関係がつくれています。

 

空き家バンクの課題、登録・成約件数の低調

 

前述のとおり横須賀市汐入5丁目地区(谷戸モデル地区)の空き家バンクの登録件数はいまの所5件。同地区では全部で50軒以上の空き家があるということなので登録率は10%にも届いていません。さらに言うと成約件数はもっと少ない・・・。

 

同地の空き家数は50を超えており、市都市計画課は所有者に対して空き家バンクへの登録、制度活用を促していく。今後は効果を検証しながら順次、地域を広げていく方針。

空き家居住の促進図る | 横須賀 | タウンニュース

 

こういったことは横須賀市の空き家バンクだけではありません。全国各地の市町村が開設した空き家バンクの約7割は累計成約件数が0〜10件にとどまっています。

 

市町村が開設した空き家バンクでは、開設以来の累計成約件数が 0~10 件にとどまるものが66%に達する(地域活性化センター(2010))。空き家バンクを設置したものの、開店休業状態のものが多いことを示している。

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空き家バンク成功の鍵は積極的な物件収集と地域の不動産業者やNPOとの連携

 

空き家オーナーさんからの登録を待っているだけではダメで、地元の不動産業者と連携して地元の不動産情報を活用したり、実際に町に出てみたり、空き家オーナーさんに問い合わせたりといった積極的な行動が必須です。

 

実績が出ている空き家バンクは、所有者による自発的な登録を待つだけではなく、不動産業者や NPO、地域の協力員などと連携して、積極的に物件情報を収集しているものである。

 

そして物件案内はもとより、生活や仕事などの相談にも対応することが求められます。こういったきめ細かいサービスはもはや行政というよりはNPOの領域でしょう。

 

さらに、空き家バンクを見て問い合わせがあった場合、物件案内はもちろんのこと、生活面や仕事面など様々な相談にも応じたり、先に移住した人と引き合わせたりするなどきめ細かな対応が必要になる。

 

広島県尾道市では「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」が空き家バンク事業を担当することで積極的かつきめ細かな空き家活用に取り組んでいます。2014年3月時点で登録物件数は100軒以上、そのうち70軒以上で成約しているそうです。すごい実績ですね。横須賀市では”空き家NPO”はいまの所なさそうですが、尾道の取組も参考にして横須賀の空き家問題の解決へつなげてほしいです。

 

 

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