マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

東郊住宅社の管理物件入居者のための食堂「トーコーキッチン」に行ってきた in 淵野辺【前編】

昨日は首都大学東京・福祉コミュニティ研究会のフィールドワークのため、淵野辺駅からバスで桜美林ガーデンヒルズ(4/20にオープンしたての大学連携型のサービス付き高齢者住宅)で開かれたランチ付見学会に参加してきました。その帰り、せっかく淵野辺まで来たので以前から中川寛子さんの記事などを読んで気になっていた「トーコーキッチン」に寄ってみました。

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JR横浜線・淵野辺駅北口の様子。この日は一日中雨。

トーコーキッチンの前でウロウロ

トーコーキッチンは淵野辺で41年、不動産業を営んでいる東郊住宅社という賃貸管理会社が直営で運営する入居者専用の食堂ということは知っていた(専用の鍵がないと中に入れない)ので、外観の写真だけでも撮れればと軽い気持ちで行ってきました。現地に着いてみると、外から中が丸見えな大きな窓からは打ちっ放しのインダストリアルな壁しかり、暖色系の照明しかり、おしゃれな店内の様子がよくわかりました。写真を撮ったり入り口付近をウロウロしていると…

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5階建てのRC造の賃貸マンション「デュオスタジオ」の1階にトーコーキッチンはあります。

栄養バランスのとれた定食が安い

なんとスタッフさんが扉を開けてくれ中に入れてくださいました。清潔でおしゃれな店内を見渡すと、今日の定食500円。安い!朝ごはんにいたっては100円!安すぎる。しかも野菜が豊富でご飯も白米と雑穀米が選べて栄養も満点。

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本日の朝ごはんや定食メニューが日替わりなので飽きがこない感じです。トーコーキッチンのツイッターフェイスブックで日々のメニューが紹介されています。

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お茶をごちそうになりました。

トーコーキッチンの仕掛け人、取締役の池田峰さんにお話を伺う

ひとしきりお茶を飲んでいると、トーコーキッチンの仕掛け人、取締役の池田峰さんがタイミング良く来られてトーコーキッチンの成り立ちや目的などお話を伺えました。なんでも東郊住宅社では淵野辺駅周辺の賃貸住宅1600室を管理されていて、3000人の入居者がいるとのこと。入居者とその家族や知人、物件オーナー、そして東郊住宅社の社員と協力関係業者が利用できる食堂がトーコーキッチンというわけです。

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専用のカードキーで食堂の入り口の扉を開けることができます。池田さんご本人に見せていただきました。

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カードキーを持っていないと入り口の扉は当然開かないわけです。でもカードキーを持っていなくても、初めの一回目は利用できるそうですよ。(その場合はドアのレバーが壊れない程度にガチャガチャしてみるか、入り口の前で中のスタッフさんに視線を送りましょう)

日常の賃貸管理業務の中で”食”へのニーズを感じていた

淵野辺って横浜や都心へ通勤する人々が多く居住するベットタウンですが、桜美林大学や青山学院大学、麻布大学などが密集している学生街でもあります。それもそのはず東郊住宅社の賃貸住宅の入居者の約6割は学生だそうです。ということで学生本人もそうですが、親御さんからの賃貸住宅に対するこうであったらいいのにという声がよく寄せられていたのです。つまり、女子学生の場合はセキュリティが優先するので、食事付きの例えば学生会館などの学生物件は管理人が常駐しているので魅力に映る。

学生に部屋を紹介すると、特に女子学生では一般物件か、管理人常駐で食事も提供される学生物件(学生会館)かで悩む人が多かった。「家族と離れて初めての一人暮らし、食事については、本人はもちろん、親御さんも心配するのは当然で、食事が提供される学生物件の安心感は強力です。」(池田氏)。

“不動産会社と入居者”の関係を変えるステージ | 最新不動産ニュースサイト「R.E.port」

一方で男子学生の場合、ちゃんと栄養のある食事をとっているかっていう側面からの心配が強い。ここまでだと毎月定額で食事代を払っている学生物件こそがベストとなるのですが、ここから一歩前へ進みます。

食べたい時に食べられるというメリット

二十歳前後の若者ですから、いくら栄養バランスの良い食事が食べられるといっても、友達と外食したりだとかそこらへんはランダムなわけです。そうなると毎月定額で食事代を月何千円とか払うのももったいない。そこで、食べたい時に食べられる食堂があればいいのではないか、という発想につながります。

それが2013年頃から、男子学生でもその選択で悩む人が増えてきたという。さらに経済環境の変化で、家庭の可処分所得が低下。そのため家賃+食事の費用上限が確定するという点でも、学生物件を評価・選択する人が増えた。
「その状況は脅威でしたが、一方で、入学後に友人ができ、学生物件で食事をとらない機会が増えると、固定で食費を払っている学生物件ではその費用が“無駄”となる点も気になった。それだったら、一般物件で美味しくて安い食事が提供できればおもしろいことになるのではないか。そう考えたのです」(同氏)。 

“不動産会社と入居者”の関係を変えるステージ | 最新不動産ニュースサイト「R.E.port」

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食堂内の様子。WiFiも飛んでいるので、ここで勉強や仕事もできちゃうと思います。

物件オーナーの力に依存せず、全ての管理物件の資産価値を上げる

学生の食というニーズ以外にも、トーコーキッチン誕生に至った理由があります。それは、物件オーナーの力に依存せず全ての管理物件の資産価値を上げるためにどうすればいいかとう問題意識です。これまでにも24時間緊急対応サービスで入居者に対して積極的に関わり続けて来たり、10年ほど前から礼金・敷金ゼロ、退出時の修繕義務なしで実績を残されるなどされてきました。しかし近年は、同様の取り組みをする競合他社が増えつつあったり、青山学院大学の文系学部が青山キャンパスに移転したことで学生数が大幅に減少したり、さらなる他社との差別化や企業努力が必要となったのです。

二つ目はすべての管理物件の資産価値を一気にアップさせる裏ワザがないかを考えた結果だという。賃貸物件の多くは個人の大家さんが所有しており、立地も違えば、大家さんの資金力、考え方も異なる。大家さんの努力に期待しても、すべての大家さんに同じことができるわけではない。だとしたら、管理をする会社の新しい試みが必要なのではないか。

安心な食をお手頃に。不動産会社が作った入居者専用食堂を見てきた | 住まいの「本当」と「今」を伝える情報サイト【LIFULL HOME'S PRESS】

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トーコーキッチンも賃貸住宅の入居者サービスの一つ、という位置づけ。

”食”は大切な生活要素だけじゃなく、有能なコミュニケーションツール

”食”って毎日のことで、生きる上で必要不可欠ですが、それに加えて他者とのコミュニケーションを促すツールにもなるんですよね。美味しいご飯を食べていると自然とリラックスするし。とはいってもファシリテーターは必要で、そこは池田さんがちょくちょく食堂に顔を出して「最近どう?」「味どう?」みたいな感じでフランクに話しかけてくれるわけです(この日も一人でふらっと定食を食べに来た男子学生と話していました)。そうすると入居者である学生のほうも自然と色々話すようになって、何気ない会話が生まれる。そうやって関係性が出来れば、いざ鍵を失くしてしまったときとか、困った時とかに相談しやすくなる。「入居者から連絡がないことを良しとする賃貸業界」において、むしろ入居者と関わることで入居者の満足や円滑な事業展開につなげている姿は、不動産業も捨てたもんじゃないと思わせてくれます(何様!)。

「おいしいものは人を幸せにする、一緒に食べれば知らない人とも仲良くなれる、そんな食を媒介としたアナログ的なコミュニケーションの場をデザインしたかった。1日に3回はここに来てお客さんに『味どう?』と声をかけます。日本で一番『味どう?』って聞く不動産屋です」と笑顔で話す。

トーコーキッチン 不動産会社が「入居者専用食堂」を開いた理由 | 月刊「事業構想」2017年5月号

トーコーキッチンの中身のことや、池田さんが不動産業をどう捉えているかなど、まだまだ書きたいことはあるので後編に続きます。

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入居者の東郊による入居者のための食堂!

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