2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の「第6章 韓国 スピード感のある空き家整備事業」から、韓国の住宅市場と空き家の現状についてまとめます。著者は明海大学不動産学部教授の周藤利一さんです。以下、黒字強調は筆者によります。
2種類ある民営の借家、チョンセとウォルセ
韓国の民間賃貸住宅で特徴的なのはチョンセとウォルセという、保証金または家賃に関する契約のやり方の違いです。チョンセは入居者が予め保証金として、家主にお金を支払う。ウォルセはチョンセよりは少額の保証金と毎月の家賃を、家主に支払う。
現状としては、相対的に所得水準の低い若年世帯の増加により、多額の一時金が必要となるチョンセ住宅は忌避される傾向にあります。
≪1 住宅市場と空き家の現状>1 住宅の区分と統計>(1) 持ち家と借家≫
- 韓国においても、住宅を論じる際には所有関係に基づいて「持ち家」と「借家」とに分けるのが通例
- 持ち家は韓国語では「自家」と表記するが、その概念は日本と異なるところはない
- 一方、得意なのは借家
- 民営の借家には「チョンセ(伝貰) 」と「ウォルセ(月貰)」の二つがある
- チョンセは、入居者が予め家主にチョンセ金を支払って入居し、入居期間中は家賃を支払わないものを言う
- チョンセ金は日本で言う保証金であり、その水準は住宅市場の動向に左右されるが、概ね所有権価格の5〜8割を支払う
- 契約期間が終了する際には、チョンセ金が利子を付けずに返還される
- それに対してウォルセは、チョンセよりは少額の保証金と毎月の家賃を支払って、チョンセと同様、一定期間の契約により居住するもの
- 近年、保証金なしで月払いのみのウォルセも見られるようになっているが、保証金付きよりは低水準の借家であるのが一般的
- チョンセが圧倒的に多かったかつての状況は変化しており、2001年頃からチョンセ住宅の「ウォルセ化」が進んでいる
- これは、ベビーブームの若年世帯が増えて、相対的に所得水準の低い彼らが多額の一時金であるチョンセ金を必要とするチョンセ住宅を忌避していることなどがその要因とされている
≪1 住宅市場と空き家の現状>1 住宅の区分と統計>(2) 住宅の用途区分≫
- 日本の建築基準法に当たる建築法では、「住宅」という用語の定義はなされていないが、建築物の用途の区分として「単独住宅」と「共同住宅」が規定されている
≪1 住宅市場と空き家の現状>1 住宅の区分と統計>(3) 住宅統計≫
- 日本の住宅・土地統計調査に当たるのが、統計庁調査管理局人口総調査課が実施している住宅総調査
- 実務上は人口総調査と合わせて実施されるので、調査票には人口住宅総調査と表示される
戸建て住宅よりもマンションの方が床面積が広い
韓国の住宅事情の特徴として、戸建て住宅よりもマンションの方が床面積が広いということが挙げられます。背景には、戸建て住宅の中に狭小な老朽不良住宅が多く含まれていることが指摘されています。
≪1 住宅市場と空き家の現状>2 住宅ストックおよび空き家の状況>(1) 住宅ストックの状況≫
- ソウル特別市、仁川広域市、京畿道が韓国の首都圏であるが、日本の首都圏以上に人口や住宅が集中している
- そのうちソウルのシェア(構成比)を見ると、人口より世帯数の数値が高い一方で、住宅数の数値が低い
- 韓国では戸建て住宅よりもマンションの床面積が広い点が特徴*1
- これは、戸建て住宅の中に狭小な老朽不良住宅が多く含まれており、これらが密集する地域がソウルをはじめとする人口の多い都市に存在することを反映したもの
「引っ越し」が頻繁に行われる
2010年〜2016年にかけて空き家率が5.4%〜6.7%へ上昇しています。韓国では借家契約に更新がないため頻繁に引っ越しが行われます。そのため、空き家の理由の1位が「引っ越し」となっています。これはある意味、賃貸住宅が流通していることの証左なのかもしれません。
≪1 住宅市場と空き家の現状>2 住宅ストックおよび空き家の状況>(2) 空き家の状況≫
- 全国的に空き家数が着実に増加しており、しかも2010年から2016年にかけて、つまり近年に急激に増加していることがわかる
- 韓国の借家契約では更新がないため、頻繁に引っ越しが行われる
- このため、空き家となっている最大の理由が引っ越しである点が、日本と比較した場合の特徴
- 全住宅の合計で見ると、1年以上空き家になっている割合は全国で3割程度、住宅需要がタイトなソウルでは1割強であり、長期の空き家は相対的に少ないことがわかる
- 一部破損+半分以上破損の割合を全国ベースで見ると、戸建て住宅が30%に達するのに対してマンションは2%強に過ぎない
1995年〜2016年の間に空き家戸数は3倍近くに増加
1995年に36万戸だった空き家戸数が10年間で3倍近くまで増加しています。韓国でも空き家の問題点としては、犯罪や火災の温床など地域の安全が脅かされることが挙げられています。
一方で再開発などの大規模整備事業に押されて、空き家問題に対する社会の関心を集めることができていない状況があります。
有識者によれば、空き家は都市衰退の結果として発生することもあれば、都市衰退を引き起こす原因としても作用する、と分析されています。
≪1 住宅市場と空き家の現状>3 空き家問題の現状>(1) 空き家問題の背景≫
- 2016年の全国の空き家戸数は112万戸で、空き家率は6.7%に達している
- 日本よりも低水準ではあるものの、1995年に36万戸だった空き家戸数は少子化と高齢化を背景に10年間で3倍近くにまで増加し、地方圏を中心に深刻化している
- 韓国で認識されている空き家の問題点としては、犯罪者や非行青少年の隠れ場所になったり、長期間放置されることにより火災の危険性が高まるなど地域の安全が脅かされることが挙げられる
- こうした現象の進展に伴い、個々の空き家を整備する必要性が大きくなったが、住宅を大量供給することを目的とした再開発や建替えなどの大規模整備事業に押されて社会の関心を集めることができなかった
≪1 住宅市場と空き家の現状>3 空き家問題の現状>(2) 空き家問題と都市の衰退≫
- チョン・ヨンミ、キム・セフン(2016)によれば、韓国では空き家問題が都市の衰退と結びつけて論じられている
- すなわち、空き家は都市衰退の結果として発生することもあれば(フロー①)、その逆にさらなる都市衰退を引き起こす原因としても作用するものでもあり(フロー②)、反復・累積する悪循環のループを形成することとなる
*1:日本の首都圏における2016年度新築分譲住宅の平均床面積は、戸建てが99.3㎡、マンションが69.1㎡