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たかまつなな単独ライブを観て教員多忙化の問題について考えた

 2019年2月8日(金)から10日(日)の3日間、松竹芸能新宿角座にて開催された第11回たかまつなな単独ライブ「お笑いジャーナリスト宣言」を観てきました。前半は社会風刺ネタ、後半はゲストを招いてシンポジウムという流れでした。筆者が参加したのは塙さんと宇野さんの回でした。特に、教員多忙化の問題についてまとめます。

小学校教員の3割、中学校教員の6割が月80時間以上時間外勤務

 厚労省が公表している「過労死等防止対策白書」には、過労死が多い職業として教員が挙げられています。実際に、文科省が小中学校の教員を対象とした平成28年度勤務実態調査結果(速報値)によれば、小学校教員の3割、中学校教員の6割が「過労死ライン*1」である月80時間以上の時間外勤務を行っている実態が明らかになっています(参考記事)。

時間外勤務の対価が支払われていない

  これだけの時間外勤務の実態にもかかわらず、公立の小中学校教員へ時間外勤務に見合った対価が支払われていません。その理由として、月額給与の4%に相当する額を基準として教職調整額を支給する代わりに、時間外勤務手当や休日勤務手当の支給を行わないことを定めた「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」の存在があります。つまり、一月分の給与の4%分が上乗せされる代わりに、たとえ際限なく時間外勤務をしたとしても対価は支払われません。
 給特法が施行されたのは昭和47年(1972年)。50年近く前に作られた法律の規定が未だに運用されています。この法律が作られた頃は4%*2で十分だったかもしれませんが、月80時間以上を超える時間外勤務をしている教員が6割もいる現状と激しくミスマッチしていることは誰が見ても明らかです。
 名古屋大学准教授の内田良さんは、給特法改廃の議論が難しい最大の理由は「お金がないから」だと指摘されています。給特法によって教員に支払われていない残業代は年間9千億円という驚きの額です*3

給特法ができて以降、半世紀にわたって教員の時間外労働が増えてきた。本来、労働時間をタイムカードで記録したり、労務管理をしっかりしたりしていれば、時間外労働時間の増加を抑制できたかもしれない。それが「タダ働き」によって、いつしか9千億円分の「未払い残業代」にまで膨れ上がってしまった。

給特法=定額働かせ放題? 内田良名古屋大学准教授×斉藤ひでみ公立高教諭インタビュー | 教育新聞 電子版

「変形労働時間制」を導入しても総労働時間は変わらない

 そんな中、文科省は2018年10月、「変形労働時間制」の導入を軸とした働き方改革のたたき台となる案を中央教育審議会の部会に示しました。教員は8月は忙しくなくなるから、その分、他の月に労働時間を振り分けようというもので、年間の総労働時間は変わりません。

「#先生死ぬかも」トレンド入り

 おはよう日本ディレクターとしても活躍するたかまつななさんの記事には、疲弊する教員たちの異常な実態が書かれています。たかまつさんが投げかけたTwitterのハッシュタグ「#先生死ぬかも」はトレンド入りし、多くの議論を呼んでいます。

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まずは何が問題なのかを把握することが重要

 忙しすぎて、何が問題なのか余裕を持って考えられていない状況にあります。未来を担う子どもたちを導く存在である教員がこのような状態で良いはずがありません。業務量をスリム化する、外部人材を活用する、ICTやテクノロジーを使って仕事のやり方を見直す、人員を増やす、など考えられる方策は色々あります。できることはしつつも、限りある予算を教育へ配分することが最大の方策です。しかしこれは政治が絡んでくることなので一朝一夕には前に進みません。まずは、何が問題なのかを把握すること、数字をちゃんと捉えること、そこから始めていきたいです。

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*1:「過労死ライン」とは何かについてはこちらの記事がわかりやすいです。『いわゆる「過労死ライン」とは、労災保険において、「脳卒中」や「心臓病」が仕事に関連して発症したものかどうかを判断する目安』『発症前の残業(時間外労働)が、1か月100時間もしくは2~6か月にわたって80時間を超えていると「業務と発症との関連性が強い」と評価される』

*2:なぜ4%かというと、1966年当時の1週間の時間外労働の合計が小中学校で平均1時間48分と算定されたことに対応しているそうです(中学校教員の6割が「過労死ライン」の残業をしている 『教師のブラック残業』 | J-CAST BOOKウォッチ)。

*3:「荻上チキ・Session-22」2018.12.17放送で給特法の問題についてふれています。