マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

新築住宅を作り続け税金で空き家を解体するという矛盾

2018年の新設着工戸数、未だに100万戸近く

 国土交通省の2019年1月31日の報道発表「建築着工統計調査報告(平成30年計分)」によると、2018年の新設住宅着工戸数は94万2,370戸と、未だに100万戸近くの新築住宅が作られ続けていることがわかりました。前年比では2.3%減となり、2年連続の減少ではありますが、空き家が全国に約820万戸*1もあり、ここ4、5年は空き家問題に関するニュースや報道も増えているにもかかわらず、どれだけ新築作れば気が済むんだ!?と。

建築着工統計調査報告(平成30年計)P.2

建築着工統計調査報告(平成30年計)P.2

新築を作り続けて、空き家は増え続ける

 ここ15年くらいの新設住宅着工戸数の推移を見ると、新築を作り続けている現状がよくわかります。リーマンショックの影響で一旦落ち込みますが、その後持ち直しています。

建築着工統計調査報告(平成30年計)P.7

建築着工統計調査報告(平成30年計)P.7

 一方、全国の空き家数は増え、空き家率も上昇し続けています。人口減少することがはっきりしているのに新築を作り続けているので、これからもますます空き家が増えていくことは目に見えています。空き家の増加は地域住民に対しての具体的な危険、衛生面の不安、治安の悪化、ひいては街の価値の低下へつながります。さらに活用可能な空き家が使われないことによりその場所で生まれる可能性があった住む、働く、遊ぶ、学ぶ、交流するなどの価値を殺してしまうことにつながります。

平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約

平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約

40〜50万戸が適正か

 「日本以外のOECDに加盟するような国は住宅の総量を管理しているから必要以上に住宅が増えすぎない」と不動産コンサルタントの長嶋修さんはおっしゃいます。住宅の総量管理とは人口や世帯数の将来予測を踏まえて住宅を作るべきエリアを見極めることですね。さらに長嶋さんは新設住宅着工戸数は年間40〜50万戸くらいが適正ではないか、と指摘します。つまり現状では、毎年50万戸近く余分に新築住宅を作り過ぎているということになります。

50年間放置された空き家の解体費約168万円は市と国が負担

  滋賀県高島市では50年前に人が住まなくなり、倉庫、空き家となり老朽化がだいぶ進んだ木造平屋建て住宅は所有者が亡くなり、相続人は相続放棄するなどにより、行政代執行が進められています。解体費約168万円は市と国が分担して負担することになっています。市内にはこういった放置すると危険な空き家が他に17軒もあります。
50年間無人の空き家解体、費用は市と国が分担 : 国内 : 読売新聞オンライン

廃業旅館の撤去費約3億円を市が負担する可能性

  かつては栄えた温泉街で廃業した旅館が放置され老朽化が加速し、地域住民にとって危険な建物と化しているケースもあります。石川県加賀市の山代温泉にある松籟荘という旅館は11階建て。玄関の壁が剥がれ落ちそうな状態で、近くに小学校があるため非常に危険です。市は土地建物を買収して撤去する方針だそうで、約3億円の撤去費を見込んでいます。さらに、山代温泉を含む一帯の加賀温泉郷にはこうした廃業旅館が少なくとも12軒あるといいます。
温泉街、住民悩ます廃業旅館 撤去の地元負担3億円も…:朝日新聞デジタル

危険空き家の撤去に6年間で約1600万円を市が支出

 富山県氷見市では、損傷が著しい物件について所有者から土地を含めて寄付を受けた上で市が撤去を行なう危険老朽空き家対策事業を2012年度に開始し、2017年度までの6年間で1587万円を支出、今年度は570万円程度になる見込みです。建物取り壊し後の土地は自治会が管理し、駐車場やごみステーションとして活用されているようですが、空き地の使い道、活用法について頭を悩ませることになっています。
危険な空き家、公費で解体 氷見市、土地寄付を条件に - 富山県のニュース | 北國新聞社

空き家の解体工事の費用の一部を補助する制度の創設

 北海道苫小牧市では2019年度から、空き家の解体工事の費用の一部を補助する制度を創設します。年間数件の補助件数を見込んでいるそうです。2017年度に市が行なった調査によると、市内の空き家は1082件、特定空き家候補211件、特定空き家108件ということで、管理不全の空き家が319件もあるのが実態です。空き家所有者に資力が無い場合、最終的に行政代執行の費用は市が負担することになります。
空き家の解体費補助 苫小牧市が19年度に新制度創設 | 室蘭民報

廃墟マンションの解体費用は5〜6千万円かかる可能性

 滋賀県野洲市では築47年の鉄骨3階建てマンションの老朽化がひどい状態で、壁は崩れ、有害なアスベストが露出するなど、地域住民に大きな不安を与える原因となっています。9人の所有者の合意により自主解体が行われない場合は、行政代執行する方針で、その場合の解体費用は5〜6千万円かかる可能性としています。
廃墟マンション解体へ市が方針変更 アスベスト露出、行政代執行 : 京都新聞

行政代執行、略式代執行により全額費用回収できたのは1割 

 2019年1月22日に総務省から「空き家対策に関する実態調査<結果に基づく通知>」が公表されました。こちらの調査結果によると行政代執行(9自治体10件)、略式代執行(30自治体38件)を合わせて48件中*2、全額費用回収できたのはわずか5件です。つまり9割は税金で民間の空き家を解体していることになります。さらに、そもそも空き家対策として限りある行政資源(行政職員、予算など)を使っている時点で多大な行政コストが発生しています。

空き家対策に関する実態調査の結果に基づく通知(概要)P.5

空き家対策に関する実態調査の結果に基づく通知(概要)P.5

新築住宅を作り続けられる住宅市場を変える実効性ある住宅政策、都市計画の必要性

 新築住宅を作り続けられる住宅市場に対し、長嶋さんのおっしゃるようなエリアの人口や世帯数の将来予測などを踏まえた住宅総量管理により新築住宅の建設を規制、抑制していくことが必要です。都市機能誘導地域や居住誘導地域などを定めてコンパクトシティを目指す立地適正化計画の策定する動きが全国の自治体で広がってはいますが、真の意味で実行性あるアプローチが重要です。

*1:2013年版住宅・土地統計調査の結果の数字。最新は2018年版で、結果は2019年夏頃公開の予定

*2:合計で1億3000万円の撤去費用がかかりました。