今回は中川寛子さんの「解決!空き家問題(ちくま新書)」の読書メモの第6回目です。過去記事はこちら。第1章は、空き家の現状と発生のメカニズムがテーマでした。第2章は、空き家の活用を阻む、「立地」「建物」「所有者」「相談先」の4つの障壁を解説されています。今回は4つのテーマのうち「立地」「建物」の2テーマについて書かれているp.66-85をまとめます。
不動産の希少性は「立地」にある
空き家に限らず、不動産すべての活用においてポイントになるのは利便性の高さです。背景にあるのは、
- バブル以降、土地価格、住宅価格、賃料が下落し、利便性の高い都市部に住みやすくなった
- 働く女性の増加や週休二日制の普及で平日の労働時間が長くなり、通勤時間の短縮が求められている
- 家族数の減少で、広さや住環境よりも利便性が優先されるようになった
これらのことがあると、挙げられています。確かに、働くにしろ遊ぶにしろ、本来の働くや遊ぶということに多くの時間を割くためにも、余計な移動をしなくて済むように、立地は重要になってきます。
物件の企画次第で立地の悪さをカバーできる
それでは駅から遠くて中心地や通勤先から遠い場合はお手上げなのでしょうか。これに対しては、物件の企画次第で立地の悪さをカバーできると、実例が実証しています。本の中で紹介されているのは京王線仙川駅から徒歩15分、小田急線成城学園前駅から徒歩20分という、決して良い立地とは言えない場所に建つ賃貸併用住宅。2013年12月末に竣工し、翌年2月までに満室になっているそうです。どんな物件なのかというと、
それは自転車通勤者向けという明確なコンセプトのもとに作られた、周辺に比べると広めでかつデザイン性が高い物件であるためだ。どうしても入居したいと大家さんに直接メールを送ってきた人もいたほどで、こうした明確な特徴のある物件は駅からの距離、築年にかかわらず、空室が出にくい。
「自転車通勤向け 物件 世田谷」でググってみたら、出てきました。自転車通勤者のためのメゾネットアパートBicyclette(ビシクレット)!デザイナーズアパートということで天井が高いおしゃれな建物。自転車好きの方には打って付けの物件ですね。
(画像引用元:自転車通勤者のためのメゾネットアパート Bicyclette)
老朽化以上に適法性のクリアが重要になる「建物」
空き家の活用を阻む障壁の2つ目は「建物」の問題です。具体的には適法性を確保することが難しいということです。空き家を活用したいと思って相談なりアクションしたはいいけれど、建築確認申請無届、無接道、容積超過、共同住宅の窓先空地の不足など、既存の法令をクリアしていないため、活用に至らないという残念なケースが少なくありません。そこで、本の中で紹介されていたのは一般財団法人世田谷トラストまちづくりが行っている出張相談会(活用モデル事例見学会&個別相談会)です。空き家活用を考えるオーナーに、建築基準法上の課題確認などの出張相談を行い、既存の法令をクリアするための助言を行っています。
(画像引用元:空き家等地域貢献活用相談窓口|市民まちづくりの支援|トラストまちづくり事業|一般財団法人世田谷トラストまちづくり)
既存不適格物件の存在
古くから人が密集して住んできた都市では既存不適格物件が多いです。2012年にまとめられた豊島区空き家実態調査によると、目視とアンケート調査などの結果から空き家とされた住宅のうち、72.8%が4m未満の道路と接道していました。現行の建築基準法では、建物の敷地は4m幅の道路に2m以上接していなければならないので、既存不適格物件となります。これはつまり再建築不可という意味でもあり、空き家を解体したとしてもその土地の上には新しい建物は建てられません。
(画像引用元:豊島区空き家実態調査|豊島区公式ホームページP.31)
国、自治体では法令緩和の動きが
一方で法令緩和の動きもあります。現代の社会状況に合わせて法令を更新していくことはとても重要ですね。
- 2014年に豊島区が制定した「建物等の適正な維持管理を推進する条例」は、完成時に検査済証を受けていない住宅を所有者からの申請に基づいて区が検査を行い、それによって住宅の不備を補おうというもの。
- 2014年7月に国土交通省が発表した「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」は、指定確認検査機関を利用することで検査済証のない住宅の流通、活用を促そうというもの。
- 2014年に足立区が発表した「無接道家屋の建替え更新に向けた新しい取組み」は、建築基準法43条但し書きに変わる新基準を独自に設定して条件を緩和しようというもの。
(画像引用元:足立区/無接道家屋の建替え更新に向けた新たな取組み)
かけた費用に見合った家賃が回収できるかどうか
建物が適法でも、現在のニーズと合わなくなった間取りという問題もあります。家族の人数が多かった時代ならば、同じ面積でも個室を多く作った間取りが好まれました。しかし家族数が少ない現代では、部屋数よりもリビングの広さを求める人が増えています。また、バブル期までは洗面所や風呂場よりも部屋が広いほうが好まれましたが、今は狭い風呂場を嫌がる人が多いなど、住む人のニーズは時代によって変わってきています。このニーズのズレを修正する手段としてリノベーションがあります。しかし、リノベーションも万能ではなく、最終的にはかけた費用に対して見合った家賃が回収できるかどうか、ここがシンプルながら持続的な空き家活用にとって大事なポイントです。
リフォームが劣化したものを元の状態に戻す作業だとしたら、リノベーションは手を入れることで新しい価値を生み出すようなもの。陳腐化してしまった住宅を現在のニーズにふさわしく作り変えることはできないことではない。
だが、ここまでに何度も繰り返したように、特に賃貸住宅の場合、問題はかけた費用に見合った家賃が回収できるかという点である。
(次回につづく)