「東京人」2021年12月号は空き家利活用事例の宝庫です。今回は表紙にもなっている「ニューニュータウン西尾久」の舞台である西尾久をまち歩きしてきました。
- 5軒の空き家を同時期に利活用する
- おぐセンター<食堂兼コミュニティスペース>
- にしかわや<串カツ専門店>
- BOOKS ON THE ROAD<古本店&BAR>
- GEZELLIG(へゼリヒ)<うつわの店>
- LAVENDER OPENER CHAIR・灯明<ギャラリー+食堂>
- 地元の人に信頼されまちへの思いを持っている人との出会い
- 少しずつエリア周辺に波及
- 複数のお店を組み合わせる
- まちを再構築する
5軒の空き家を同時期に利活用する
東京R不動産が2019年にスタートさせたプロジェクト「ニューニュータウン西尾久」は以前から知ってはいましたが、実際にどのような経緯で空き家を利活用へと導いていったのか詳しく取材されている今回の東京人の特集はとてもありがたいです。
みなさん「西尾久」という地名を聞いたことありますか? 不動産屋の僕らでも、ほとんど知らなかった小さなまち。そこで新たな一歩を踏み出します。
「まちに飛び込んで、楽しく使おう!」というプロジェクト、ニューニュータウン。
僕らはこのまちでスペースを運営しながら、みんなで暮らすことの楽しさを感じられる場所へと、このまちを変えようと思っています。
「ニューニュータウン西尾久」始まります! - 東京R不動産
1軒の空き家をリノベーションして生まれ変わらせるという取組はよくある話ですが複数の、しかも5軒の空き家を同時期にお店へと利活用するという取組はなかなか例がありません。点でもなく線でもなく一気に面でまちの価値を高めていこう今回のプロジェクトは、意欲的で非常に興味深いです。
このプロジェクトは、空き店舗を一軒単位ではなく何軒かまとめて管理し、「まちに飛び込んで、楽しく使う」というコンセプトに共感し、実行してくれるテナントを募集するものだ。今回は4店舗分を賃貸募集し、ほかにも1店舗を『東京R不動産』がプロデュースするコミュニティスペースとする。また、周辺店舗や施設で間借りできるスペースも紹介する。
東京・荒川区の下町で始まった、「ニューニュータウン西尾久」プロジェクト。 - sotokoto online(ソトコトオンライン) - 未来をつくるSDGsマガジン
おぐセンター<食堂兼コミュニティスペース>
ニューニュータウン西尾久の拠点である「おぐセンター」は元青果店をリノベーションした食堂兼コミュニティスペースです。
畳敷きの小上がりがあって居心地が良さそうです。定食が美味しそうでした。
にしかわや<串カツ専門店>
おぐセンターの隣には串カツ専門店「にしかわや」が出店しています。
BOOKS ON THE ROAD<古本店&BAR>
「BOOKS ON THE ROAD」はジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグといったビート・ジェネレーションや星野道夫、沢木耕太郎、寺山修司などの本が所狭しと並んでいました。コーヒーも飲むことができて思わず長居をしてしまいました。
壁や天井にまで英字新聞やポスターなどが張り巡らされていました。
文庫を2冊買いました。
GEZELLIG(へゼリヒ)<うつわの店>
GEZELLIG(へゼリヒ)はお皿やグラスなどのうつわがたくさん並びます。
LAVENDER OPENER CHAIR・灯明<ギャラリー+食堂>
LAVENDER OPENER CHAIR・灯明はギャラリーと食堂です。
地元の人に信頼されまちへの思いを持っている人との出会い
食堂、串カツ専門店、古本屋、うつわの店、ギャラリーなど様々な種類のお店が2019〜20年にかけて次々とオープンしました。いくら東京R不動産といえども、5軒もの空き家をまとめて借りて利活用を進めるのはそう簡単ではないはずです。
そこで重要な役割を担ったのが1951年創業の銭湯「梅の湯」3代目の栗田尚史さんです。東京R不動産の千葉敬介さんたちは当初、空き家を貸してもらえないかと一軒一軒訪ねて回っていましたが苦戦が続いていました。地元の栗田さんが間に入ることで家主が承諾してくれるようになったそうです。
「商店街がマックスにすごかった時代を覚えている」という3代目の栗田尚史さんは、これまで数々のイベントを仕掛けてきた商店街のキーパーソンだ。
「日頃は静かだけれど、この街にはここが好きで住んでいる人、面白いことを求めている人が実はたくさんいるんですよ。だから、なんとか盛り上げたくて、銭湯のロビーでヨガとか音楽会とか寄席とか、色々と企画しています」
千葉さんは、そんな栗田さんへの恩が忘れられない。
「僕らが初めてこの街に来たとき、今おぐセンターになっている建物に一目惚れしたんです。でも、持ち主の方から貸せないって断られちゃって。栗田さんに相談したら、そこのお嬢さんと幼なじみだって言うじゃないですか! お嬢さん経由でお父さんに伝えてもらったら即決でした(笑)」
栗田さんはこれからも街のために動き続けるつもりだ。
「この街でお店を開きたい人がいたら、僕がまたどこかのシャッターをトントンって叩きに行きますよ(笑)。ゆくゆくは開いているシャッターの数が、閉まっているシャッターの数を上回るといいですよね」
商店街から始まるちょっと懐かしい未来のカタチ|東京感動線
栗田さんは地元の人に顔が知られ信頼されているだけではなく、昔ながらの銭湯の運営スタイルを少しずつアップデートさせたり、かつて商店街で行われていたイベントの復活に向けて動き出すなど、まちを盛り上げたいという思いを持って行動していました。そんな栗田さんとの出会いがプロジェクトを前に進める上でとても重要だったのでした。
少しずつエリア周辺に波及
ニューニュータウン西尾久の取組は少しずつエリア周辺に波及しています。2021年6月にオープンしたブランジェリー「メゾン・ジャンディアサイトウ」はGEZELLIGの隣の隣です。元洋品店だった空き家を改装しました。
全国でシニア支援サービスを展開する「MIKAWAYA21株式会社」は2020年に東京R不動産の仲介で商店街の近くにある築54年のビルへオフィスを移転しました。地域で活動したい若い世代を育成するプログラム「まごころ×R不動産」も始動するなど新しい取組も生まれています。
複数のお店を組み合わせる
ニューニュータウン西尾久の特筆すべきところは単体の空き家ではなく、複数の空き家を同時期にお店へと生まれ変わらせていることです。複数でお店をオープンさせエリアの価値を高めることで、結果的に個々のお店の生存率を上げることにもつながります。
千葉さん:ある街にすてきなパン屋ができたとします。5年頑張って認知されて、街にもにぎわいが生まれて隣にカフェができたりすると、そのパン屋の生存率はおそらく上がりますよね。だけどパン屋の隣にカフェができるかどうかは、言ってみれば運次第。カフェができなかったら、10年後にパン屋がなくなっている可能性も十分にあると思うんです。ニューニュータウンは、僕らが大家としてテナントを選べる立場になることで、たとえば通りに向かい合わせで5軒のお店を一気にオープンさせるようなこともできるわけです。それによって、街の顔と呼べるような空間をつくることができるし、お店を開く人にとってもギャンブル性が多少薄まりますよね。
"都市をたたむ"って、なんだろう? 都市計画家・饗庭伸さん【インタビュー:東京R不動産】|「雛形」違和感を観察する ライフジャーナル・マガジン
おぐセンターは東京R不動産が運営をしていますが、他の3店舗(「灯明」以外)は東京R不動産が貸主としてサブリースしています。自分たちが大家としてテナントを選べる立場になるということは、それぞれ違う業態やセンスのお店をいかに組み合わせるかを決められるということです。
まちを再構築する
かつて賑わっていたまちも消費者ニーズの変化や高齢化によって店が閉じられていき空き家となったとしても、栗田さんのような地元の有志がまちの未来のことを考え行動をして、ヨソモノだけれどまちのポテンシャルを再編集することで新しい価値を生み出す事業を手がける東京R不動産が加わることで「まちを再構築する」というとんでもなく面白い動きが生まれました。空き家が眠る多くのまちにとって大きなヒントとなることは言うまでもありません。
店の灯りがひとつまたひとつと消えていったまちで、商店街の有志たちがまちづくりの土壌をつくり、まちのポテンシャルに着目したR不動産が店を開き、また灯りがともりはじめる。そんな現状を栗田さんは「まちを再構築している感じがする」と言う。
「東京人」2021年12月号P.56