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納得解を得るためにできたこと〜映画「東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート」〜

都営霞ヶ丘アパート跡地:2021年9月撮影

都営霞ヶ丘アパート跡地:2021年9月撮影

東京2020オリンピックに伴う取り壊し

アップリンク吉祥寺で映画「東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート」を観てきた。明治神宮外苑にある国立競技場に隣接した都営霞ヶ丘アパートは、東京2020オリンピックに伴う再開発により2016年から2017年にかけて取り壊された。霞ヶ丘アパートは築60年近くで住人の平均年齢は65歳以上だった。高齢で、かつ単身や身体障がいを持つ人など200世帯が暮らしていた。

出典:映画「東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート」フライヤー

出典:映画「東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート」フライヤー

2012年7月に東京都から移転(立ち退き)の通知が霞ヶ丘アパートの住人に届く。同じ新宿区内にある3箇所の都営住宅という移転先は用意されてはいたが高齢になってからの引っ越しは数々の困難がある*1。かかりつけの病院から遠くなることや親しい隣人や知人と離れ離れになってしまうことなどだ。

必要だったのは福祉的な支援と対応

映画は霞ヶ丘アパートの住人の暮らしぶりや住人同士の会話などを淡々と映している。住人の戸惑いや怒り、悲しみ、不安、諦めがスクリーンから伝わってきた。

青山監督は、固定カメラの長回しを多用し、淡々と日常の風景を切り取っていく。ナレーションは一切なく、情感を排した映像ながら、取り壊しを唐突に知らされた戸惑い、強引な進め方への怒り、長年の住処を奪われる悲しみ、引っ越しへの不安が画面を通じて伝わってくる。
映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』:国立競技場近くから立ち退かされた住民の悲しみと怒り

特に高齢の住人が引っ越しのために部屋の荷物の片付けや梱包、運び出しをしている様子を見ると、もう少し若い人で誰か手伝える人はいなかったのだろうかと思う。取り壊す予定ともなれば入居者の新規募集もしなくなる。そのため新しい世代の住人は霞ヶ丘アパートに入居して来ず、住人は等しく歳を重ねていく。

このような状況下で長年住みなれた住まいの移転を要請するのであれば、手厚い福祉的な支援や対応が必要だったように思う*2

アップリンク吉祥寺にて

アップリンク吉祥寺にて

東京都からの補償金は17万1000円

伴侶に先立たれた単身者の場合、移転先の部屋は単身者用となるため以前よりも狭い。そのため、大きく使い慣れた家具や電化製品は処分する必要がある*3。東京都からの補償金は17万1000円*4。ほとんどの住人は引っ越し費用を自己負担にせざるを得なかった*5

引っ越しを業者に頼むにしても、東京都から出された補償金はわずか17万1000円。引き取ってくれる粗大ごみは5個までで、それ以上は有料だ。ほとんどの住民にとって引っ越し費用は持ち出しにならざるを得なかった。
映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』:国立競技場近くから立ち退かされた住民の悲しみと怒り

最終的に130世帯が移転をして20名以上が既に亡くなっている*6。亡くなった理由は移転だけが理由ではないが、高齢になってからの引っ越しや生活環境の変化が肉体的にも精神的にも大きな負担になることは確かだ。

都営霞ヶ丘アパート跡地:2021年9月撮影

都営霞ヶ丘アパート跡地:2021年9月撮影

納得解を得るためにできたこと

2021年9月某日、オリパラが終わり数日後に現地へ行ってみた。霞ヶ丘アパート跡地は全面的に仮囲いがされており中の様子を窺い知ることはできなかった。東京都の計画によると今後この場所は都立明治公園へと整備されるようだ。

出典:神宮外苑地区(a区域)のまちづくり(東京都都市整備局)

出典:神宮外苑地区(a区域)のまちづくり(東京都都市整備局)

オリパラという賛否両論が分かれる国家的事業を進めるにあたって、全ての人にとっての絶対的な正解を得ることは不可能だ。霞ヶ丘アパートの移転問題で言えば、より手厚い福祉的な支援や対応、実態に合わせた補償金の支払いなど納得できる解を得るためにできたことはまだまだあったと思う。

tokyo2017film.com

twitter.com

 

*参考記事

▼青山真也監督と元住人の菊池さんとの語りから立ち退きの経緯や様子がわかりやすく伝わってくる記事。

news.yahoo.co.jp

▼まち歩き的な観点からおもしろかった記事。

me38a.hatenablog.com

sanpototabi.blog.jp

*1:TOKYO MXのニュースでは馴染みのない地域に引っ越すことの不安を霞ヶ丘アパートの元住人である柴崎さんが語っている。

*2:東京都の「高齢者の居住安定確保プラン」の目標1は「高齢者の多様なニーズを踏まえ、住み慣れた地域で暮らせる住まいの確保」。

*3:TOKYO MXのニュースによる。

*4:ブログ記事「オリンピックで立ち退かされる高齢者たち」2014.6.27更新によると正確には立ち退き料のようだ。生活保護受給者にはこれに引っ越し費用がプラスされた。つまり、生活保護受給者以外の人は立ち退き料の17万1000円のみしか支払われなかった。

*5:TBSラジオ「アシタノカレッジ」2021.8.27(金)放送によると霞ヶ丘アパートの元住人の菊池さんの引っ越し業者への見積もり金額は30万円超だったことが語られている。

*6:TBSラジオ「アシタノカレッジ」2021.8.27(金)放送による。