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DIY型賃貸借契約を結んでみた(後編)

前編はこちらです。

akiya123.hatenablog.com

前提として「賃貸借契約書」を取り交わす

 家族形態の変化などによりあまり活用されなくなった個人住宅を、賃貸物件として流通させる上で大きな力となるのが「DIY型賃貸借契約」です。個人住宅の空き家が増えている現状、個人住宅の空き家を賃貸流通させる上で国土交通省が普及させようとしている「DIY型賃貸借契約」とは何か、などについては前編をご覧ください。 
 まず前提として、賃貸物件の名称や所在地等、契約期間、賃料等、賃貸借契約に関する一般的な事項を定めた「賃貸借契約書」を取り交わす必要があります。不動産屋でもないし、不動産屋に仲介をお願いするつもりもない、そんな場合に役立ったのが国土交通省のウェブサイトで公開している「賃貸住宅標準契約書」です。標準的な賃貸借契約書のひな形です。こちらを基に、適宜加除修正して独自の賃貸借契約を作っていきます。

「賃貸住宅標準契約書」は、賃貸借契約をめぐる紛争を防止し、借主の居住の安定及び貸主の経営の合理化を図ることを目的として、住宅宅地審議会答申(平成5年1月29日)で作成した、賃貸借契約書のひな形(モデル)です。
標準契約書は、その使用が法令で義務づけられているものではありませんが、この契約書を利用することにより、合理的な賃貸借契約が締結されて、貸主と借主の信頼関係が確立されることを期待し、広く普及に努めています。
住宅:『賃貸住宅標準契約書』について - 国土交通省

賃貸住宅標準契約書(出典:「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・家賃債務保証業者型」

賃貸借契約書に「DIY改装の特約条項」を加える

 目的が住宅用ならば、ひな形をこのまま使えば良いと思いますが、私のようにサードプレイスをつくるなど事業用の場合はアレンジが必要です。私の場合は「事業用賃貸借契約書(店舗)」としました。「住戸部分」という記載は削除し、「事業内容」という新項目を追加しました。その中で事業名、事業目的、事業内容を簡潔に書き込みました。
 他にも契約期間、賃料、そしてDIY改装をさせていただく上で重要な「特約条項」のことなどを貸主と慎重に協議しました。不動産屋さんを通さない賃貸借契約、尚且つDIY型賃貸借という新しい賃貸借契約を結ぶとあって、十分な説明と疑問や懸案については誠意を持ってリアクションするように努めました。
 特約条項に盛り込む文章は、DIY型賃貸借に関する契約書式例を参考にしました。通常の賃貸借契約ならばDIY改装はNG、そして明け渡し時に原状回復しなければいけませんが、双方合意の上でこういった特約条項を結ぶことでDIY改装が可能となります。

甲及び乙は、第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。以下「工事部分」という。)に関する修繕及び原状回復の取扱いについては、第9条及び第15条の規定にかかわらず、第8条第2項に基づく甲の承諾書及び甲及び乙が承諾書と併せて取り交わす合意書に記載された規定に従うものとする。工事部分に係る所有権の帰属及び費用の精算の取扱いについても、同様とする。
DIY型賃貸借に関する契約書式例 

賃貸借契約の特約事項にDIY改装について盛り込む(出典:ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」P7)

DIY改装の申請と承諾

 DIY改装に関する特約条項を盛り込んだ賃貸借契約を結んだら、次はDIY改装の概要を記載した(別表に記載する)申請書を貸主に提出します。貸主が了承してくれたら、承諾書に記名押印してもらいます。

DIY改装申請書兼承諾書(出典:家主向けDIY型賃貸借実務の手引きP6)

 DIY改装にあたり、工事内容や施工方法、増築した設備などの所有権の帰属先、明け渡し時の収去、原状回復義務の有無など、細かい取り決めを別表で定めます。この別表が最重要と言えます。

DIY改装の細かい内容を定めた「別表」は超重要(出典:家主向けDIY型賃貸借実務の手引きP7)

DIY改装の実施を求める申請書とそれを承諾する承諾書、そしてDIY改装の概要を記載した別表(出典:ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」P7)

最後に「合意書」も

 DIY改装に関する承諾書もいただけたら最後は「合意書」です。DIY改装に関する細かい取り決めを定めたのものが合意書と言えます。

「別表」で定めたDIY改装を実施するにあたって細かい取り決めを合意書で取り交わす(出典:ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」P8)

DIY改装の内容について細かく定める合意書(出典:ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」P7)

HRAD研究会の「賃貸DIYガイドラインver1.1」も参考になる

 DIY型賃貸借について理解を深める上で、建築やリノベーションなどの研究や実践に取り組む精鋭たちのプラットフォームであるHEAD研究会が公開している「賃貸DIYガイドラインver1.1」も大いに参考になりました。

まとめ

 以上をまとめると、

  • 増加が目立つ空き家は「個人住宅」
  • 個人住宅の賃貸流通を目指して「DIY型賃貸借契約」が誕生
  • 「DIY型賃貸借契約」を結ぶ上で国土交通省が公開しているひな形が使える
  • DIY型賃貸借契約には「特約条項を盛り込んだ賃貸借契約書」「DIY改装の申請書と承諾書(別表が特に大事)」「DIY改装の合意書」の3つの書類が必要になる

となります。何度も書いていますが、新しい賃貸借契約の形であることからDIY改装の内容について貸主と借主とで綿密な打ち合わせ、慎重な協議、信頼関係の構築がとても重要です。これらの点については私自身が折に触れて何度も確認し自覚する必要があることでもあります。
 この記事がDIY型賃貸借契約について知りたい、実際にDIY型賃貸借契約を結びたいけれどいまいちやり方がわからない方にとって役立つことを願っています。

(参考)
住宅:『賃貸住宅標準契約書』について - 国土交通省
住宅:DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックについて - 国土交通省