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空き家を活用して新しい価値をつくる

根本的な空き家対策とは

根本的な空き家対策とは

根本的な空き家対策とは

空き家は減るどころか増える

2018年住宅・土地統計調査によると全国の空き家数は846万戸(5年前から26万戸増)、空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は13.6%(5年前から0.1%上昇)といずれも過去最高を更新しました。

2015年に空き家対策特別措置法(以下、空き家法)が施行され自治体による空き家への立ち入り調査や指導、代執行といった介入、国から自治体への財政上の支援など様々な空き家対策が続けられています。民間単独または官民連携による空き家活用(または再生)プロジェクトや中古ストックのリノベーションも全国各地で取組が進められています。

一方で2011年以降、本格的な人口減少社会に入っているにもかかわらず直近10年間の新設住宅着工戸数は年80〜90万戸で推移しており、新築重視の住宅市場がいまだに続いています*1

出典:【図解・経済】新設住宅着工戸数の推移【時事ドットコムニュース】

出典:【図解・経済】新設住宅着工戸数の推移【時事ドットコムニュース】

野村総研のレポート「2040年の住宅市場と課題(2021/06/08)」では2038年の空き家数と空き家率を2254万戸と31.0%*2または1356万戸と20.9%*3という2つのシナリオで予想しており、今後も空き家は増え続けていくことが予測されています

出典:2040年の住宅市場と課題(2021/06/08)【野村総合研究所ウェブサイト】

出典:2040年の住宅市場と課題(2021/06/08)【野村総合研究所ウェブサイト】

つまり空き家対策や空き家活用は進んでいるものの、それ以上に新築住宅が作られ続けているため空き家は減るどころか増えていくことがシンクタンクで予測されているのです。

「新築を作り過ぎない」という発想と施策

不動産コンサルタントの長嶋修さんは10年以上も前から「住宅総量管理」を提言されています。人口動態などの指標に基づいて住宅総量目標を定め、税優遇や補助金などで新築建設のインセンティブやディスインセンティブをコントロールしていくという施策です。

空き家対策や空き家活用に取り組むことも大切ですがより根本的には「新築を作り過ぎない」という発想と施策が重要です。住宅総量のコントロールや人口減少社会に適応した都市計画、長く使い続けられる質の高いサステナブルな住宅の普及、都市計画と防災の連携といった取組を官民、そして個人がそれぞれの立場から取り組んでいく必要があります。

週刊東洋経済2021年10月16日号の特集「実家のしまい方」では空き家が増え続けるメカニズムが紹介されています。「老いた家 衰えぬ街 住まいを終活する(講談社現代新書)」などの著書がある野澤千絵教授も、本格的な人口減少社会である現代においてもいまだ高度成長期の新築・持ち家重視の住宅政策が続けられていることの問題点を指摘されています。

行きつくところ、空き家問題とは、国の住宅政策が限界にきていることと重なっている。高度成長期からの「造りっぱなし」の政策から、人口減少に転じても、なお発想が抜け出し切れていないからだ。「国は新築・持ち家に力を入れてきたが、住まいを畳むことまで視野に入れてこなかった」(野澤千絵・明治大学政治経済学部教授)。
実家が迷惑施設化「7戸に1戸空き家」日本の大問題 | 最新の週刊東洋経済 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

新築を作り過ぎという問題についてはコンサルタントや大学教授以外に行政職員も同様の問題意識を持っています。老朽化した空き家の代執行や空き家バンクを使った移住促進など自治体による空き家を使った施策はもちろん意味のあることですが、根本的には人口以上に住宅を作らない、つまり新築を作り過ぎないという発想と施策をセットで実現しない限り「穴の空いたバケツ」に水を入れ続けるという非効率な状態が続くことになってしまいます。

大阪市は19年3月、大阪府の宅地建物取引業協会、全日本不動産協会の大阪府本部と連携協定を結んだ。放置すれば倒壊などの恐れがある特定空き家の情報を両団体に提供し、専門家の視点で空き家ごとに活用策を提案してもらう。所有者と両団体の加盟事業者をつなぐなどして放置空き家の解消を狙う。
空き家が膨らむ要因について、市の担当者は「住宅総数が世帯総数を大きく上回る状況で、新規の住宅供給がなおも活発に続いている」(建築企画課)と話す。
関西の空き家高水準 放置防ぐ取り組み急ぐ: 日本経済新聞

*1:新型コロナの感染拡大や緊急事態宣言の影響があったものの2020年度の新設住宅着工戸数は約81万戸(前年度比8.1%減)

*2:2008-12年度の除却率(30.3%)の水準が続くシナリオ。

*3:空き家法施行後(2015-17年度)に除却が進んだと仮定した場合の除却率(83.2%)が今後も続くシナリオ。