マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

長期的展望なき新築住宅建設が空き家を生む「解決!空き家問題 中川寛子著」読書メモ(2)

今回は中川寛子さんの「解決!空き家問題(ちくま新書)」の読書メモの第2回目です。過去記事はこちら。今回は、「第1章 いずれは3軒に1軒が空き家?ー現状と発生のメカニズム」(p.20-26)をまとめます。

戦後の住宅不足(420万戸)は1968年の時点で量的に充足

2014年7月に公表された総務省のデータによると、全国の空き家数は820万戸。総住宅数に占める割合は13.5%。野村総研が2015年6月に発表したニュースリリースによると、住宅の除去や減築などが進まない場合、2033年には総住宅数が7100万戸、そのうち30.2%、約2150万戸が空き家になると予測しています。なぜこんなにも空き家が増えるのか。それは1968年の時点で全国の総世帯数(2532万戸)に対する総住宅数(2559万戸)は充足していたにもかかわらず、全体計画もなく、住宅建設を景気対策と考え、新築を作り続けてきたからです。必要以上に新築を作り続けてきたコントロールなき住宅政策は、不動産コンサルタントの長嶋修さんも指摘しています

f:id:cbwinwin123:20160525090240j:plain

画像引用元:1968年の時点で、総世帯数を総住宅数が少しだけ超えているのがわかります。)

また、住宅数が充足していただけでなく、この時点ですでに、少子化、高齢化その他、現在空き家発生に寄与しているであろう日本の将来人口の問題点も明らかになっています。著書の中では、1967年2月の厚生労働省人口問題研究所(現国立社会保障・人口問題研究所)の月刊誌「人口問題研究」100号記念特集「日本人口の構造と変動」や、日本の人口問題を特集した1968年4月の同誌などで、出生率の低下傾向や急速に高齢化が進行することなどを指摘しています。

住宅建設の投資が最終的に倍以上の消費につながる

それではなぜ住宅は作られ続けてきたのか。それは住宅建設が景気刺激にもっとも手っ取り早く効くからです。一般社団法人住宅生産団体連合会のウェブサイトによると、持ち家の場合の住宅建築1000戸の経済波及効果が公表されています。

家を買う、建てる人が250億円を投資したら、それが最終的に倍以上の消費に繋がるというのだから、目の前の刺激(景気?)が良くなったことを手柄にしたい人にはありがたい限り。どんどん建てるべしと、今も住宅ローン控除やら、住宅取得資金贈与の特例その他のニンジンを消費者の前にぶら下げ続けているのはご存知の通りである。

  「解決!空き家問題(ちくま新書)」p.23-24

f:id:cbwinwin123:20160525092113p:plain

画像引用元

しかし、本当にここまでの経済波及効果があるのか疑問を投げかける声もあります。ましてや住宅数は充足し、空き家が増加している現代に、これ以上漫然と、新築を作り続けることは合理的ではないことは明白です。

「空き家問題は冷蔵庫に卵が余っている問題」

SensuousCity[官能都市]-身体で経験する都市 センシュアス・シティ・ランキングを発表されたHOME'S総研所長の島原万丈さんによると、「空き家問題は冷蔵庫に卵が余っている問題」と表現されています。空き家を冷蔵庫の中の卵に例えて新築の抑制、質の悪い空き家の撤去、リノベーションによる再生・活用、インバウンドでの活用などの方策を示しています。

「まずはこれ以上卵を買わないようにする。それが新築の抑制。これが一番効果的です。それから悪いのは仕方ないので、捨てる。質の悪い住宅も同様に徐々に減らしていくしかない。あとは卵料理のレシピを開発して食べるようにする。空き家問題でいえばリノベーションして新しい価値を付加、その空き家を使ってくれる人を作ると言うやり方です。あとは人を呼んで食べてもらう。これはインバウンドで人を呼び込み、その建物を使ってもらう。そうしたいろいろの手で卵の量を適正にしていく。不動産は立地によって活用も違えば、背景も違うので、何かひとつの手を打てば、問題がすべて一度に解決するような方法はないので、少しずつ小さな手を打ち続けるしかないですね」。

  「解決!空き家問題(ちくま新書)」p.25

f:id:cbwinwin123:20160525095215p:plain

画像引用元:HOME'S総研が2015年9月に発表した”都市の本当の魅力を測る新しい物差し”の提案。)

長期的展望なき新築住宅建設

景気浮揚の道具として使われてきた新築住宅建設に長期的な展望が欠けていたことも指摘しています。分かりやすい例として、多摩ニュータウンが紹介されています。

いずれ社会が豊かになる日が来ること、働く女性が一般的になる日が来ること、車があって当たり前の日が来ること、そうしたことを考慮せずに初期の団地は作られ、同じ年代の人たちが一気に入居し、現在、一気に高齢化、空室増が進んでいる。駅から遠い、坂道の先の50㎡弱の3DK、駐車場無し。それが今の生活に合わないことは言うまでもない。建物が古くなった以上に長期的な展望がなかった点が空き家を生む要因になっているのである。

「解決!空き家問題(ちくま新書)」p.26

一方で多摩ニュータウンでは無印良品とURとがコラボした団地リノベーションプロジェクトおしゃれなシェアハウスができていたりと、素敵な動きもあります。

f:id:cbwinwin123:20160525100536j:plain

画像引用元:UR団地をリノベーションしたシェアハウス。東京・日野市、142室。)

 

(次回につづく)