マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

ドイツでは日本の3分の1しか新築住宅を建てない

 2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の「第3章 ドイツ 公民連携で空き家対策からエリア再生へ」から、ドイツの住宅の現状や空き家の特徴についてまとめます。著者は東京都市大学環境情報学部教授の室田昌子さんです。以下、黒字強調は筆者によります。

権利には義務が伴う 

 冒頭、日本における空き家発生の要因が7つ書かれています。中でも7番目にあるように日本では不動産の所有権に対する権利意識は強いけれど、その権利に対する管理責任や登記義務を果たす意識が強くないという点が印象的です。ノートやペンなどと違って不動産は私有財産といえど公共性を帯びます。ドイツでは所有権の概念はありつつも、義務や責任がより厳格に要求されます。

≪1  ドイツと日本の比較>1  住宅取引の活性化≫

日本における空き家発生の要因

  1. 人口・世帯数の減少
  2. 新築志向の強さと新規住宅供給量の多さ
  3. 中古住宅供給システムの課題の多さ
  4. 空き家に対する所有者の問題意識の希薄さ
  5. 税制度の課題や不動産登記の任意性
  6. 定住意識の強さと住み替えシステムの確立の難しさ(一斉に高齢化、老朽化、陳腐化、空き家化)
  7. 土地や建物などの所有権に対する権利意識が強い一方で、所有に対する責任や義務の意識が強いとは言えない

空き家発生の要因のうちドイツと日本で共通する点

  1. ドイツは日本に先立ち人口減少に直面した(人口減少を移民で補う政策が取られている)
  2. 土地の所有権という概念が存在していること(権利が明確な点は日本と同様だが義務や責任がより厳格に要求されている
  3. 第二次対戦下で多くの都市が破壊され、戦後に住宅が圧倒的に不足したことに伴い。集合住宅団地を大量に建設したこと(やがて住宅不足が解消されるにつれて人気がなくなるが、改修や建て替えを行なっている)

空き家発生の要因のうちドイツと日本で異なる点

  1. 新築志向や新築住宅供給量
  2. 欠陥や不良のある住宅に対する改修・除却義務
  3. 不動産の登記義務
  4. 老朽エリアのリノベーションや再生のしくみ

日本はドイツに比べて約3倍の住宅を新たに建設している

 ドイツは日本よりも早く人口減少に直面しましたが、それを移民で補う政策がとられてきました。世帯に関しては単身世帯、2人世帯が増加しています。一方で明らかに日本と違うのは住宅の新設が抑制されている点です。2016年の新築住宅の建築許可件数は32.3万戸と、日本の3分の1です。

≪2  住宅の現状と空き家の特徴>1  人口・世帯数の変遷と住宅数の推移≫

人口数

  • ドイツの人口*1は1970年代には早くも頭打ち、1980年代半ばにかけて緩やかに減り続け、その後いったん増加に転じるも、2000年代には人口減少が再び大きな社会問題に、しかし2011年以降は再度増加に転じる
  • 外国籍や移民の増加が多く、居住施設や保護施設を必要とする難民申請者が約74.6万人存在*2している

世帯数

  • 世帯数は1965年に24.2%だった単独世帯が2015年には41.4%を占める*3
  • 1965年に28.3%だった2人世帯も2015年には34.2%へと増加*4
  • ドイツでは日本以上に世帯の小規模化が進んでいる
  • 今後も世帯数の増加が見込まれている

住宅のストック量

  • 1996年から2016年までの20年間で約450万戸、12.6%の増加(日本では1993年から2013年までの20年間に1480万戸、32.1%*5増加)
  • 2016年の新築住宅の建築許可件数は32.3万戸*6(日本の同年の新設住宅着工戸数は97.4万戸*7)→日本はドイツに比べて約3倍の住宅を新たに建設している
  • 日本は新築の件数が多く、ストック量の増加も大きい

「世界の空き家対策」(学芸出版社)78ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)78ページ

ドイツでは1978年以前に建設された住宅が約7割 

 ドイツの住宅事情は日本と大きく異なります。賃貸の方が持ち家よりも多い、築年数の長い住宅が多い、住宅を改修するなど中古住宅の利用が活発、など。1978年以前に建設された住宅が約7割を占めます。

≪2  住宅の現状と空き家の特徴>2  住宅の現状≫

居住用住宅(寮や寄宿舎を除く)の特徴

  • 賃貸住宅の戸数が持ち家よりも多い
  • 背景には、日本のように持ち家を推奨する住宅政策が推進されず、特に旧東ドイツで賃貸住宅の建設が重視されたという歴史的経緯がある

「世界の空き家対策」(学芸出版社)80ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)80ページ
  • 築年数の長い住宅が多い
  • 現存する住宅のうち築100年以上となる1919年以前に建設された住宅が約14%、築70年以上は全体の約4分の1、1978年以前の住宅は68%(2620万戸)を占めている
  • 2001年以降に建てられた住宅は239万戸で全体の6.2%にすぎない→ドイツでは住宅の寿命が長く、建物を改修しつつ利用しており、中古住宅の利用が活発
  • 日本では1980年以前に建設された住宅は1369万戸、全体の26%
  • 築年数の長い住宅が少なく、逆に2001年以降の住宅が1277万戸、全体の4分の1を占めている*8

「世界の空き家対策」(学芸出版社)80ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)80ページ

不定期に実施されるセンサスと毎年実施されるマイクロセンサス

 ドイツにおける空き家を把握する統計は不定期に実施される全国詳細調査であるセンサスと毎年実施されるマイクロセンサスの2種類があります。

≪2  住宅の現状と空き家の特徴>3  空き家に関する統計≫

  • ドイツの空き家を把握する統計は2種類ある
  • 不定期に実施される全国詳細調査であるセンサス*9(直近は2011年、その前は1987年)と毎年実施されるマイクロセンサス*10
  • センサス2011の調査では、住宅は①所有者居住用住宅、②賃貸居住用住宅、③休日・レジャー用住宅、④空き家、の4つに分類されている
  • マイクロセンサスは、①居住空間のある建物、②所有者居住用住宅、③賃貸居住用住宅、④寮・寄宿舎、をそれぞれ居住中、空き家、と区分している
  • センサス2011の「空き家」は、居住用建物で住宅用途に通常使用される住宅(寮・寄宿舎は含まない、商業用途に使用している住宅も含まない)のうち、居住中でもなく賃貸中でもない住宅を指している*11

西と東の住宅格差、経済格差がいまだに影響

 ドイツの特殊事情としては東西冷戦の残滓をいまだに引きずっていることです。旧東ドイツと旧西ドイツとでは空き家率が明らかに違います。といっても最近は格差は縮まりつつありますが。

≪2  住宅の現状と空き家の特徴>4  空き家の動向と実態≫

  • センサス2011によるとドイツ全体で3877万戸の居住用住宅のうち空き家は170万戸、空き家率は4.4%
  • マイクロセンサスの調査結果で空き家の動向を見ると、2000年代の空き家率は8%台を超えており、2010年のピーク時で8.6%にのぼる
  • 旧西ドイツと旧東ドイツで比較すると、旧東ドイツでは全般的に空き家率が高くい

「世界の空き家対策」(学芸出版社)82ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)82ページ
  • 建築年代別に空き家率を見ると、古い住宅ほど空き家率が高い
  • 日本よりも築年数の長い住宅が多く中古住宅が活用されているドイツでも、全て活発に利用されているとは言えない
  • 管理不十分で、設備の古さや暖房効率の低さといった問題を抱える住宅も多い
  • 床面積別に空き家率を見ると、狭い住宅ほど空き家率が高い
  • 40㎡未満の住宅は、ベルリンやハンブルクなどの大都市に比較的多く、第二次大戦後の住宅困窮時代に建設された住宅や旧東ドイツの住宅が多数を占める
  • 空き家の多い旧東ドイツでは、古い住宅と小規模住宅が多く、持ち家率が低い
  • 旧西ドイツでは大都市を除くと、床面積は広く持ち家率も高く、築70年を超える住宅割合も少ない
  • 西と東の住宅格差、経済格差が空き家の割合の多さに直結している

「世界の空き家対策」(学芸出版社)83ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)83ページ
世界の空き家対策

世界の空き家対策

  • 作者:米山 秀隆/小林 正典
  • 出版社:学芸出版社
  • 発売日: 2018年08月31日

*1:ドイツ人口の推移はドイツ連邦統計局が公表

*2:2016年、連邦移民難民局

*3:日本の34.5%(2015年、国勢調査)を越えている

*4:日本の27.9%よりも多い

*5:住宅・土地統計調査

*6:連邦統計局

*7:住宅着工統計

*8:2013年、住宅・土地統計調査

*9:センサス2011では、行政登録データを活用し、全数調査と標本調査が併用で実施され、2011年4〜7月にかけて全1750万の住宅所有者もしくは管理者を対象に郵送によるアンケート調査が行われた

*10:1%の世帯の無作為抽出調査、空き家については4年ごとに調査が実施されている

*11:日本の住宅・土地統計調査の「空き家」に含まれる別荘などの二次的住宅は空き家には含まない。賃貸用や売却用に一時的に空いている住宅については、特定の年月日一日のみの時点で空いているかどうかで判定する