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トーコーキッチンの本が出ました

神奈川県淵野辺にある不動産屋といえば東郊住宅社ですが、2023年10月、その東郊住宅社が運営する入居者向け食堂サービス「トーコーキッチン」の本が出版されました。前半はトーコーキッチンのエピソードを交えた世界観、後半は発案者である池田峰さん(東郊住宅社代表取締役社長)の思考過程、その構造と仕組みが書かれています。

トーコーキッチンへようこそ!¥1,760

トーコーキッチンへようこそ!¥1,760

暮らしにおける食の重要性

まちの不動産屋である東郊住宅社は、淵野辺駅周辺エリアを中心に1800室の賃貸物件の管理や仲介を行っています。淵野辺駅周辺には桜美林大学や青山学院大学、麻布大学など複数の大学があるため、一人暮らしの学生に適した物件を多く取り扱っています。高校を卒業して大学へ進学する際に、慣れない街での一人暮らしは学生本人もですが、ご家族も心配です。

特に食事は毎日のことであり、栄養バランスのとれた食事を安価に食べられことはとても重要です。そうした食事への心配の声がきっかけでトーコーキッチンは着想されました。

そもそも、入居者向け食堂トーコーキッチンを着想したきっかけは、新生活を始める大学生のご家族から聞こえてきた食事への心配の声でした。それを不動産屋である僕たちが管理する賃貸物件の入居者サービスとして解決する方法はないか、そんなふうに考え始めたのです。
トーコーキッチンへようこそ!P.15

きっかけは一人暮らしの学生でしたが、単身高齢者、働く女性、共働きの両親を持つ子ども、足が悪くて杖が必要な方、日本語がまだ不慣れな外国人など、様々な入居者が通っています。

誰しもの暮らしにとって食は必要不可欠です。そのため、住まいのみならず食も提供することで、性別も年齢も国籍も関係なく喜ばれるサービスを作ることができたのではないかと思います。

入居者専用ではなく入居者向け食堂

トーコーキッチンは2015年12月にスタートしました。年末年始を除いて、年中無休で午前8時から午後8時まで営業しています。料金は朝の定食が100円、昼・夜の定食が500円です。予約不要です。

この日の朝ご飯はパンと定食が選べて、それぞれ栄養満点のメニューです。

夜ご飯はこれまた美味しそうです。

トーコーキッチンの入口には鍵がかかっていて、入店するには鍵を開ける必要があります。約3000人の管理物件入居者、約200人の管理物件オーナーと協力関係事業者に配られた専用のカードキーで鍵を開けることができます。つまり、入居者専用ではなく入居者向け食堂なのです。

トーコーキッチンのカードキー:2017年5月13日撮影

トーコーキッチンのカードキー:2017年5月13日撮影

さらに、カードキーを持っていなくても、

  • 特例① カードキー所有者と一緒なら、何人でも何回でも利用可
  • 特例② 最初の1回に限り、カードキー所有者同行なしで利用可

という特例があるため、入居者の家族や友達、地域に暮らす人たちも利用することができるようになっています。私も2017年5月に初めて伺ったときは、特例②により利用することができました。

そのときの様子などはこちらの記事に書きました。

akiya123.hatenablog.com

クローズドとオープンの中間をデザインすることで、プレミア感を損ねることなく、ちょうどいい公共空間を生み出しているのだと思います。それはさながら、リアルSNSのようです。

コミュニケーションの場所としての食堂

ひとたび契約が済むと後は疎遠になる一方なのが、入居者と不動産屋の一般的な関係なのかもしれませんが、東郊住宅社はそうではありません。池田さんが1日2〜3度のペースでトーコーキッチンに顔を出し、氷水の入ったピッチャー片手に客席を回り、コップに水を注ぎながら「味どう?」と尋ねるのです。

料理の感想がメニュー開発につながりますし、「部屋は問題ない?」「なんか困っていることない?」と聞いたりもするのは不動産屋ならでは。玄関の鍵の不具合などの早期発見・早期解決することで、入居者の満足につながります。

トーコーキッチンという空間を共有することで入居者、物件オーナー、協力関係事業者、東郊住宅社が自然と日常を積み重ね、なんとなく顔見知りになっていくことで、ゆるかなコミュニティが形作られていっているように思います。

全部手作りにこだわり、近隣商店街や地元相模原所縁の食品をできるだけ取り入れています:2020年11月14日撮影

全部手作りにこだわり、近隣商店街や地元相模原所縁の食品をできるだけ取り入れています:2020年11月14日撮影

住まい×食×緩やかなつながり=地域づくり

不動産業でありつつ飲食業、飲食業でありつつ不動産業という、業界の垣根を越えたサービスであるトーコーキッチンは、2016年度グッドデザイン・ベスト100およびグッドデザイン特別賞[地域づくり]を受賞しています(*1)。池田さんが応募したのは「サービス」デザインのカテゴリでしたが、「地域づくり」での選出でした。

地域づくりでの選出となった理由としては、住まいに密接な食を媒介に緩やかなつながりが生まれ、持続的なコミュニティが生まれていることが評価につながったのではないかと思います。

モクチン企画により設計されました:2020年11月14日撮影

モクチン企画(現CHAr)により設計されました:2020年11月14日撮影

*1:動画はこちらから視聴できます