アパート建築が止まらない
先日のクローズアップ現代で空き家問題が取り上げられていました。空き家の約5割を占めるのが賃貸用の住宅です。そして賃貸用の住宅は全国に2,274.1万戸あり、そのうち429.2万戸が空き家です。賃貸用の住宅の空き家率は18.9%にも及びます。つまり賃貸用の住宅の5戸に1戸が空き家です。しかし今回のクロ現のテーマにあるとおり、賃貸用の住宅の新設が依然として行われているのはなぜでしょうか。
全国で深刻化する「空き家問題」。とりわけアパートなどの賃貸住宅は5戸に1戸が空き部屋となる一方、新規の建築は増え続けている。そのおよそ半数を占めているのが、住宅メーカーや不動産会社が提案する“サブリース”形式のアパート。
サブリースを巡るトラブルのほとんどは、家賃収入が減額されるリスクについて十分な説明を受けていないという訴え
クロ現では群馬県高崎市中心部から徒歩30分のもともと田畑が広がっていた地域に、サブリース(大家が建てた物件を業者が一括借り上げする)のアパートが立ち並んでいることの現状とその背景について掘り下げていきます。
(画像引用元)
大手不動産会社からの営業があり、農家を営む高齢の夫婦が節税対策として建築費1億円余りをかけて(しかも全て借金)サブリースのアパートを建設します。高齢の夫婦からすれば家賃収入はずっと下がらないと思って契約したわけですが、実は落とし穴があって契約期間は確かに30年間だけれども、10年を過ぎた後は後は家賃収入額を2年ごとに見直すということが賃貸借契約書に盛り込まれていたのでした。
今では18部屋のうち、3分の1が空き部屋です。
今年(2015年)3月、小出さんは突然会社から家賃保証の金額を下げたいと告げられました。
金額が下がるという説明を受けた記憶はないという小出さん。
思いも寄らぬことでした。
なぜ、家賃収入は下げられてしまうのか。
小出さんの契約書です。
契約期間は確かに30年間と書かれています。
しかし、保証するとしていた家賃収入は、10年を経過したあとは2年ごとに改定するとなっていたのです。
通常の売買や賃貸借契約の場合、法律によって重要事項説明が不動産会社に義務付けられています。ここで様々なリスクについて口頭と書面で念を押して説明することになります。しかし、サブリースの場合は対象外となります。
サブリースを巡るトラブルを取材すると、ほとんどが家賃収入が減額されるリスクについて十分な説明を受けていないという訴えでした。
マンションや戸建てなどを売買する場合、法律によって重要事項説明が不動産会社に義務づけられています。
会社はさまざまなリスクについて口頭と書面で説明しなければなりません。
しかしサブリースの場合、一括借り上げという貸し借りの契約のため、この法律の対象外となり、売買のときのような厳格な説明は義務づけられていないのです。
サブリースの場合はなぜ厳格な説明が義務付けられていないのか。それは家主は”消費者”ではなく”事業者”として捉えられているからです。
説明に虚偽があれば悪いのは業者側という事になるが、契約を把握していないケースについては自己責任というほかない。「家主」という立場は消費者ではないため、事業者同士の対等な立場になるからだ。
つまり、あくまでもリスクを第一に取るのは家主であるということです。
サブリースを巡るトラブルの相談は4年間で245件
サブリースの仕組みをよく理解しないままに家賃収入が保証されている、という一面だけを鵜呑みにしてしまうのは残念です。
サブリースは宅地建物取引業法の枠外ですから法適用もなく、「 賃貸住宅管理業者登録制度 」も義務ではなく、あくまで任意登録であり、罰則規定もありません。また、賃貸住宅経営をする大家さんは一般に「 事業者 」とみなされ、「 消費者契約法 」も適用できないとされています。
何千万円、何億円という多額の費用がかかるアパート建築ですから、失敗すれば、大きなダメージを受けることになります。それにもかかわらず、アパート建築が止まらない現実は、「 サブリースのからくり 」を知らず、セールストークを信じてしまう人たちが多く存在することを示しています。
事業者の方から保証をストップすることもできる契約内容であるにもかかわらず、よく精査することもなく契約をしてしまう人が後を絶たないという実情に、残念な気持ちになります。
なお、国民生活センターではサブリース問題について特集記事を作成・公開しています。
2014年8月号【No.25】(2014年8月15日発行)(国民生活)_国民生活センター
ただ、番組の中でクロ現にゲスト出演された長嶋修さんが言うようにサブリースという仕組み自体が悪いというわけではありません。要は使い方次第ということです。
このサブリース契約っていうのは、本来は、大家さんの利益を最大限に持っていくことを使命として、家賃保証はしてあげて、どれだけ入居とかあるいは家賃を高めるんだということをやるのが本来の仕事で、このサブリース自体は別によくも悪くもないというか、本来いい仕組みなんですね。
ただ、それを半ば乱用する形で、家賃がずーっと今の家賃で続くんだと思わせるような、あるいは大家さんが思ってしまったという状況の中で、今のこうしたトラブルが起こっているということだと思うんですよね。
そもそも固定資産税や相続税などの税制がアパート建築を促進している
長嶋さんのクロ現出演後記の記事がアップされています。そもそも節税対策としての不動産投資を促すような税制が問題です。そして不動産投資にはリスクがつきものです。
これはかんたんにいえば「 固定資産税や相続税などの税制が、アパートなどの住宅建築を促進している 」ということ。更地にしておくよりアパートなどの住宅を建てたほうが固定資産税が軽減され、さらには相続税評価額を大きく下げられます。
アパートを建てる側は、節税を目的にしているため、もともと不動産市場や賃貸経営についての知識がない方がほとんどです。その結果、マーケットのバランスは崩れ、オーナー自身も苦しむ羽目になってしまっています。
まとめ
景気対策としての新築住宅建設、節税対策としての不動産投資が空き家の増加を招きます。そして一度建ててしまった住宅はローンの支払いや維持管理、解体など莫大なコストが家主に降りかかります。最後に、そういった構造を放置してきた不動産、建築業界、そしてユーザーの問題点について長嶋さんのツイートが核心をついています。
国にとっての景気対策や、個人にとっての相続税対策が理由で、空き家が量産される現行の政策は、他先進国から見ればとっても奇異に映ります。
— 長嶋修 不動産コンサルタント (@nagashimaosamu) 2015, 5月 14
「合法的に、ゲームのルールに則っているんだからいいだろう?」としてガツガツ新築建設・販売する不動産業者。自分の作品を作る建築家。家賃とローンの比較程度で購入の可否を検討するユーザー。無秩序を生む都市計画と建築基準法。
— 長嶋修 不動産コンサルタント (@nagashimaosamu) 2015, 5月 14