マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

シリーズ日本新生「ニッポン”空き家列島”の衝撃〜どうする?これからの家と土地〜」まとめpart2

(6)空き家放置を助長する不合理な固定資産税の優遇措置

 

先日放送されたNHKの空き家討論番組のまとめpart2です。番組の前半3分の1位(1〜5)を書いたpart1はこちら。今回は6〜9を書いています。

 

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<目次>

  1. 実家は空き家同然、近隣住民の不安(放火や空き巣)
  2. 減る人口、増える空き家、20年後は3軒に1軒が空き家?
  3. 身近な”実家の”空き家問題
  4. 空き家問題の実態
  5. 空き家所有者の事情あれこれ
  6. 空き家放置を助長する不合理な固定資産税の優遇措置
  7. 空き家増加時代に新築住宅建設が年間100万戸の不思議
  8. 自治体の基本計画は人口減少時代に合うようにちゃんと作られている?
  9. 空き家・空き店舗・空きビル・空き室再生の取組
  10. ストック(既存の住宅)を活かして”ライフステージに応じて住み替えていく”賃貸スタイルへ
  11. 空き家の増加はまちの衰退への黄色信号
  12. 危険な空き家の解体の問題
  13. 将来を見据えた”コンパクト化”は進むか? 

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このブログでも何度も書いてきた「空き家放置を助長する不合理な固定資産税の優遇措置」について番組でも議論がなされていました。この優遇措置が生まれた背景空き家放置を助長している実態といったことが取り上げられていました。しかし、2015年度与党税制改正大綱にこの措置の見直しが盛り込まれて改善に向けた整備がなされ始めていることについてはふれられていなかったので少し残念でした(この番組の収録は出演者の宇野常寛さんのツイートだとおそらく昨年の12月23日で、税制改正大綱が正式に発表されたのは12月30日なのでしょうがないと言えばしょうがないのですが)

 

この論点は次の論点の「空き家増加時代に新築住宅建設が毎年100万戸」にも通じるものがあります。とにかく”質より量”という観点で住宅供給を急ぎ経済成長を最優先させてきた高度成長期である1973年に住宅購入の活性化や農地等の宅地化を目的に作られたのがこの固定資産税の優遇措置です。経済成長に伴って地価が高騰していて、なおかつ住宅が不足していたからこそ有効な優遇措置でした。

 

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しかし今は真逆です。経済は不安定で地価は下落を辿り、人口減少と高齢化と空き家が増加しています。番組の中でも、空き家放置を助長する誤ったインセンティブ(誘因)を与えているなら是正すべきだ、というコメントが出ていました。これは是正の方向に進んでいます。これからは所有より利用を促していく必要があります。

 

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(7)空き家増加時代に新築住宅建設が年間100万戸の不思議

 

まずはこちらのグラフを見てください。新築住宅の着工件数です。全国の空き家は約820万戸もあるのに2013年度の新築住宅着工戸数は99万戸です。あれれって感じですね。

 

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これには戦後日本が直面した家や土地の歴史があります。空襲による焼失、ベビーブームにより1960年代、大量の住宅建設が急ピッチで進みました。

 

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住宅の質なんかよりもとにかく早く大量に住宅を作った時代です。

 

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じゃー日本の総世帯数を総住宅戸数を超えたのはいつなのか?これは実は1968年には既に超えています。

 

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これくらいの差ならば全く問題ないでしょう。しかしこの差がどんどん開いていきます。総住宅戸数は6,060万戸で総世帯数が5,250万世帯です。何も変わらないとこの開きは今後もますます開いていきます。

 

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そしてこれだけ開きが生じたという原因は単純に市場のニーズとは言い切れません。バブル崩壊後、景気対策として住宅建設を促進(住宅ローン減税や税制優遇など)してきた政府の住宅政策があります。

 

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なぜ住宅建設が景気対策になるのか?それは経済波及効果が高いと”言われている”からです。住宅を作るときには設計から施行、販売など様々な人が関わりますし、家具や家電の買い替えといった需要もあるでしょう。

 

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しかし今や自治体が補助金を出してまで空き家を解体したり空き家対策の法律まで作って全国的に空き家対策に取り組もうとしている時代に、新築住宅建設は一時的なカンフル剤にはなっても20〜30年後に大きなコストとなって跳ね返ってくるのではないでしょうか。というかまさに今そのコストが跳ね返ってきています。

 

不動産コンサルタントの長嶋修さんは「100万戸作ってまた来年はもっと作れたらいいよね、という近視眼的な発想しか誰も持っていない」と指摘します。そして「中長期的な視野をもたないと空き家問題は止まらない」とも。

 

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人口減少する中、自治体間で住民の奪い合いが起きていて、移住者を増やす為にあえて郊外に住宅地を建設して移住促進する例もあります。これこそ近視眼的です。結局、電気・ガス・水道・道路といった公共インフラ整備にコストがかかり、その維持管理にまたコストがかかるということになります。税収が資金源ですから最終的な負担は住民に向かいます。郊外に住宅地が開発され中心地が空き家だらけになるというまさに”町が使い捨て”になっています。

 

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空き家が増加しているのになぜ新築住宅建設がどんどん進むのか?まだまだスタジオでの議論は漬きません。一般参加者の中からは「空き家はもったいない」「農地を潰して宅地にされると食い扶持が減る」とコメントがありました。

 

前国土交通省事務次官の増田優一さんは「新築住宅建設は市場のニーズ、空き家があるから空き家に住めという政策誘導はない」とコメント。ん?住宅ローン減税や税制優遇の後押しは無かったとでも?

 

都市計画が専門の東洋大学准教授の野澤千絵さんは「日本の都市計画の規制は緩いのでどこでも新築が建ってしまう」と指摘します。作っては壊すというスクラップアンドビルドを基調とした都市計画を「焼き畑的都市計画」と表現しています。

 

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(8)自治体の基本計画は人口減少時代に合うようにちゃんと作られている?

 

さきほど人口減少で自治体間で住民の奪い合いが起きていて郊外に住宅地が建設されている、という話がありました。それに関連して自治体の将来ビジョン、具体的には現実を見据えた人口ビジョンに基づいた計画が作られているのかという議論です。多摩市副市長の永尾俊文さんからは多摩市や多摩ニュータウンの都市計画についてのお話がありました。「自治体の基本計画の将来人口を足すと日本の人口の2倍3倍になるという話が」ってそれ笑い事じゃないですから。人口減少で少子化がデフォルト(前提)な現代に子どももある程度増えて人口もまぁまぁ維持できるだろうなんて将来予測は何を根拠に作ったのか。もっとシビアに捉える必要があります。

 

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あと、人口を増やすことなんてそんな簡単じゃないんだから今ある人口だったり空き家だったりを適材適所で生産性や効率性を上げて、潜在能力を発揮させていくような発想なり取組がこの時代の正義でしょう。

 

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宇野常寛さんの永尾さんへ単純の質問もありました。「多摩ニュータウン、実際はすごく高齢化していて団塊の世代が主な居住者です。他にも20年後にどうなっちゃうんだろうというニュータウンはいっぱいありますよね?どうするのか単純にお聞きしたい」。

 

これに対し永尾さんは「多摩ニュータウンは若い人も入ってきているし新宿まで電車で30分でサラリーマンが通えるエリア。マスコミに「オールドタウン報道」をクレームつけたい」とのこと。

 

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宇野さん「実際にはそんなことない??全ての自治体の首長はそう言います。自分の所だから。僕は多摩地区の中でも選択と集中が必要だと思う。」

 

ディスるわけではないですが、ただでさえ危機感の薄い行政(よほどのことが無い限り職は奪われない)ですから消滅可能性都市レポートを真に受けて子育て世代に喜ばれる、既存ストックを有効活用する、若い女性が住んで働きたくなる町にするために何をすべきか本気で考える必要があります。”変化”こそが最大の防御たるゆえんですね。東京都23区で唯一、消滅可能性都市として指摘された豊島区は矢継ぎ早に対策を取っています都内初のリノベーション・スクールを実現するなど最近の豊島区の勢いは凄いです。

 

次に議論は「ゾーニング(住宅地の範囲を制限するなど土地を区分し利用法を制限すること)」に移ります。どんどん住宅を”焼き畑的に”つくることで自然災害も起きていて、自然災害を防ぐためにまたコストがかかるという悪循環も起きています。

 

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経済政策が専門の昭和女子大学特命教授の八代尚宏さんはヨーロッパの都市の住宅規制について語ります。「ヨーロッパでは下水道を作る限界を決めててその外に家は事実上作れない」。「パリとか高速道路を走ると突然田舎になる」。

 

人口急増と都市化の時代は過ぎ、今は人口減少で郊外に宅地開発認める時代ではない。狭いエリアに集まって住む時代になってきていると後述するコンパクトシティの議論を示唆します。

 

日本創生会議座長の増田寛也さんは「これから郊外に住宅地を必要とする地域はほとんどない。冷静に厳格に将来の人口ビジョンを各自治体でつくる必要がある。」とコメントしました。

 

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(9)空き家・空き店舗・空きビル・空き室再生の取組

 

いよいよ空き家活用の事例紹介です。番組では北九州市、東京都豊島区、横浜市の事例が紹介されていました。まず北九州市での取組。20年間空き家だった建物を、

 

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カフェにリノベーション!これは以前書きました

 

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 そして10年前に閉店した書店が、

 

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バーにリノベーション!素敵ですねぇ。

 

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こういった空き家や空き店舗の再生に取り組むのは建築家や飲食店経営者、大学教員などが参加する民間グループ「北九州家守舎」です。18軒の空き家が再生されたと紹介されていました。

 

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再生のポイントは「空き家に思い切った投資を行い、時代のニーズに合わせること」。

 

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商店街の空きビルの再生が紹介されていました。もともと大きなテナントが入っていましたが撤退後はフロア全体が空いていました。

 

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ビルのオーナーに対して「便利な場所で仕事をしたい女性や若者のニーズに合わせ改装してはどうか」と提案。フロアを細かく仕切り多くの人に安く借りてもらおうという点がポイントです。

 

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ビルのオーナーは一億円かけてビルを改装する決断をしました。不動産オーナーの高齢化の中、新たに資金を投じ改装に踏み切るのは容易ではありません。しかし「リスクを取らないところに利益はない」という言葉が重く突き刺さります。

 

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都市再生プロデューサーの清水義次さんは「不動産オーナーが新しい意識に目覚めてくれることが基本で、オーナーと一緒になって新しいまちづくりをやっていけるかがポイント」と語ります。

 

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北九州などで行われている「リノベーションまちづくり」についてはgreenzの記事が参考になります。

 


リノベーションまちづくり実践記 | greenz.jp グリーンズ

 

次は東京都豊島区での取組です。23区で唯一、消滅可能性都市(2040年に20〜39歳の女性が半分以下に)の指摘を受けた豊島区。

 

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家族向けの物件が少なくて、

 

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ワンルームマンションに多くの空き室がある。これを有効活用出来ないかという話です。

 

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隣同士のワンルームマンションを、

 

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間の壁を取り払ってつなげて物件の価値を上げるという。

 

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カスタマイズ賃貸」の第一人者、TEDに大家さんとして初めて出た青木純さんも紹介されていました。子育て向きに広い部屋が必要だから2戸をつなげてしまおうというのですね。

 

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消滅可能性都市レポートで危機感を持った豊島区は他にもリノベーションまちづくり塾リノベーションスクールの開催としまF1会議など色々仕掛けています。

 

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最後に横浜市では郊外の住宅地で空き家を活かす試みが始まっています。NPO法人プランナーズネットワークでは7年前から空き家に関する相談窓口を設け、相談を受けた空き家は「コミュニティカフェ」や「交流サロン」などに活用するための橋渡しを行っています。

 

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若者に移住してもらおうというよりは、今、住んでいる人たちにとって、より住みやすい環境をつくることが大事とNPOの方はおっしゃいます。

 

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part2はここまで。次回は今後のあるべき住宅産業や住宅政策についてです。

 

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