マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

シリーズ日本新生「ニッポン”空き家列島”の衝撃〜どうする?これからの家と土地〜」まとめpart3

 (10)ストック(既存の住宅)を活かして”ライフステージに応じて住み替えていく”賃貸スタイルへ

 

先日放送されたNHKの空き家討論番組のまとめpart3です。番組の前半(1〜5)を書いたpart1はこちら、中盤(6〜9)を書いたpart2はこちら。今回は後半(10〜13)です。

  

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 <目次>

  1. 実家は空き家同然、近隣住民の不安(放火や空き巣)
  2. 減る人口、増える空き家、20年後は3軒に1軒が空き家?
  3. 身近な”実家の”空き家問題
  4. 空き家問題の実態
  5. 空き家所有者の事情あれこれ
  6. 空き家放置を助長する不合理な固定資産税の優遇措置
  7. 空き家増加時代に新築住宅建設が年間100万戸の不思議
  8. 自治体の基本計画は人口減少時代に合うようにちゃんと作られている?
  9. 空き家・空き店舗・空きビル・空き室再生の取組
  10. ストック(既存の住宅)を活かして”ライフステージに応じて住み替えていく”賃貸スタイルへ
  11. 空き家の増加はまちの衰退への黄色信号
  12. 危険な空き家の解体の問題
  13. 将来を見据えた”コンパクト化”は進むか? 

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前回前々回と番組では空き家が増加する背景や実態、その原因と歴史的な経緯、そして空き家再生の取組の紹介などが取り上げられてきました。人口減少・税収減・空き家増加といった現代においてはストック(既存の住宅)を有効活用していかなければ「町が使い捨て」いなってしまいます。番組ではスタジオトークに移り、今後のあるべき住宅市場や住宅政策について語られました。

 

これまでは新築住宅優遇に政府の住宅政策も傾いていました。戦後急ピッチで住宅建設を急いだため1968年には総住宅戸数が総世帯数を超えて以降、1970年代からは景気対策の側面を強めていきました

 

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「台東区のほうでは中古住宅を買ってシェアハウスにするとか増えている。」「(入居者は)賃貸アパートを借りられない(親が非正規雇用なので保証人になれない?)そういう人が多い。」など一般参加者からのコメントの後、明海大学不動産学部教授の齊藤広子さんからは「中古住宅も新築と同じプラットフォームで選ばれるようになるとよい」とコメントがありました。国土交通省でもここ数年、中古住宅市場・リフォーム市場の活性化に取り組んでいます。

 

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シンクタンクソフィアバンク代表の藤沢久美さんからも「今あるものの質を上げていく企業競争が大事」とコメント。ストックの潜在能力を発揮させ、魅力を再編集して発信していく、みたいな感じでしょう。

 

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そして評論家の宇野常寛さんからは「この議論ピンと来ない」「なんでみんな家買うのかわからない、ぼくは全く買う気ない、親は家2軒買って失敗している」とコメント。宇野さんもまさに実家が”空き家予備軍”になっていて、どうしたものかと帰省のたびにお母さんと話しているそうです。つまり、独身期・子育て期・高齢期とそれぞれ住まいのニーズ(広さ、立地、家賃など)は違ってきます。憧れの3LDKマイホームを手に入れても子どもが独立してしまえばかなりの空間を持て余してしまいます。

 

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子どもが独立(世帯分離)して余った部屋をもてあましているというケースはよく聞く話です。ぼくもそうですね。

 

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そして宇野さんから具体的な対策の提言です。「賃貸でライフステージに応じて住み替えていくスタイルが今の時代に合っているし、政府も政策誘導して後押ししていかないといけないと思う」。これぼくも激しく同意です。一概に持家は否定しません。しかし、住宅の資産価値が住めば住む分だけ下がっていく、リフォームやリノベーションしてバリューアップしても中古住宅を適正に評価する仕組みが不十分な状況だと、おいそれと持家を売りに出せない。持家をちゃんと維持管理をしっかりして、いざ売るときに購入時と限りなく近い金額で売れるような中古住宅の評価の仕組みが整備されるまでは賃貸でジプシーのごとくライフステージに応じて住み替えていくスタイルが今の時代にマッチしていると思います。

 

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晴海や豊洲、有明といった”湾岸地区”でタワーマンション(超高層マンション)の建設が盛り上がっています。(これは比較的安い土地単価でまとまった区画の建設用地を仕入れることができるうえ、1997年に居住者の都心回帰を促すことを目的に導入された「高層住居誘導地区」の制度の指定によって日影規制が適用されなくても反対する地元居住者がもともと少ないエリアであることなどを理由に2003年頃から竣工が増えてきました。)「このタワーマンションを30年後どうするのか」と宇野さん。ポスト2020年にオリンピックという”祭り”も終わって人口と世帯減少が本格化していって高齢化もますます、という時代に差し掛かったときを想像すると、楽観はできないなと思います。

 

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そして最終的に宇野さんの結論は「全部、賃貸にするだけ」。うん、しっくりきます。売れない、貸せない住宅って重荷というかリスクと捉えてしまいます、ぼくなんかは。だいたいこれから先の人生どうなっていくか全く想像できません。そんな中で何千万の買い物なんて出来る訳が無いわけです。ちきりんさんも10年以上のローンはだめですって言ってます。ただ、住宅を適切に点検したり修繕を意識的に行うことで資産価値が維持されていくならば持家も有りですが。

 

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(11)空き家の増加はまちの衰退への黄色信号

 

次は2013年に7月に財政破綻したアメリカミシガン州デトロイトについてです。1920年代からアメリカの主要な自動車メーカーが本拠地を構え、世界最大の自動車の街として栄えてきました。しかし今は自動車産業の衰退で工場が撤退して人口が一気に減り、空き家率29.3%になり様々な問題が発生しています。

 

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まちに住む人や働く人が減れば税収も減り、公共サービスが貧弱になっていきます。例えばデトロイト市では街灯の40%が故障しているそうです。まちが薄暗くなります。警察や消防職員の給料は税金なので当然、人の数も減っています。その結果、1年間で放火は600件に及びます。

 

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そうなると不安です。引っ越します。そうすると人口がまた減る、という負のスパイラルにがデトロイトで起こっています。

 

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2013年に財政破綻したデトロイトの空き家率29.3%。2007年に財政破綻した夕張市の空き家率33%。明海大学不動産学部教授の齊藤広子さんは「空き家率が30%超えると財政破綻する」とおっしゃいます。これ、事実ですね。

 

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野村総研の予測では「2035年に空き家率32%」としています。これ日本全国の空き家率ですから「2035年に国自体が財政破綻すると言っていることに等しい」です。そんなことはさすがに起きないでしょう、と思いたいですがそれは希望的観測にすぎないわけです。

 

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デトロイトや夕張は黄色信号どころか赤信号まで行ってしまいました。そうならないために黄色信号のレベルのときに何を仕掛けていくかにかかっています。 次は空き家率18.7%の埼玉県秩父市です。

 

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秩父市では古くなった水道管の取り替えの費用が捻出できず、応急処置で対応しているそうです。水漏れ事故は年間700件です。税収が足りていないのです。

 

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同じ道路で3ヵ所くらい水漏れしています。これは異常事態です。

 

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背景にはやはり人口減少がのしかかります。

 

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人が住まないことには住民税も固定資産税も入ってこないので税収が減ります。

 

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秩父市では新たに企業を誘致するなどしていますが「道や道路、橋などの生活インフラを全部維持し続けるのは不可能だと思う」としています。

 

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(12)危険な空き家の解体の問題

 

近隣に危険を及ぼす空き家は最終的には解体するしかありません。全国の自治体では行政による強制撤去をも盛り込んだ空き家対策条例を作るなど対策に取り組んでいます。

 

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3年前の2012年3月に全国で初めて行政による危険な空き家の強制撤去を行った秋田県大仙市。小学校の通学路に面していた空き家が雪の重みで崩れ落ちれば児童に被害が及ぶ危険性があるため、所有者との再三の交渉を行ったものの強制撤去に踏み切りました。

 

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道路の適正な管理や児童の安全の確保は行政(学校含む)の責任なのでこういった対応が必要になるのですね。

 

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しかし解体費用はかなりかかります。この解体費用は本来は空き家所有者が払うべきですがまだ回収できていません。空き家所有者も土地を担保に借金していたりすると返済が優先されるなど、解体費用を回収するのは現実的に難しいと思われます。

 

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解体費用の補助制度を設けていて53件で2,400万円を用意しているそう。

 

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でも空き家は増え続けているので解体費用を行政が出すのは限界があります。

 

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そんな中、国は「空き家対策特別措置法」を作って自治体の空き家対策を後押ししようとしています。

 

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しかし空き家といえど個人の持ち物です。勝手に危険と判断して解体などしては個人の「財産権」を侵すことになります。そして「解体費用」の問題と高いハードルが行く手を阻みます。

 

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強制撤去といっても空き家所有者と何度も交渉を重ねて慎重に検討したうえで解体を決断するわけで、そのコストは相当なものです。「財産権」「解体費用」「所有者との交渉」など行政による強制撤去は新たな課題を生み出しています。

 

スタジオトークに戻って一般参加社からは「土地信仰が強い、私権を捨てて税金を使ってきれいにすべき」「隣が空き家で地域の価値や土地の相場が下がっている」「(耐震性が)震度5以下の建物は取り壊すとか提案(基準?)があってもいい気がする」「所有者との対話の場が無いのではないか」「隣近所で話し合いをするといさかいになるので行政に仲介してほしい」といった声がありました。

 

都市計画が専門の東洋大学准教授の野澤千絵さんは「自治体が解体費用出すのは限界がある、”空き家を生み出さない、空き家を利活用する都市政策”に本気で舵を切らないとデトロイトのようになってしまう」と危機感を煽ります。

 

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(13)将来を見据えた”コンパクト化”は進むか?

 

コンパクトシティ」って言葉を聞いたことがあると思います。都市機能や生活インフラなどを都心に集約させて効率的で持続可能なまちづくりをしようということですね。2035年に空き家率が32%になると、3軒に1軒が空き家になります。そうなると”空き家問題”というよりも”まちづくりの問題”として限りある財政資源を集中投資していく必要が出てきます。そのために昨年8月に都市再生特別措置法が改正されコンパクト化を誘導していきます。

 

具体的には、医療・福祉施設や商業施設などを集める「都市機能誘導区域」を決め、容積率の緩和や税制優遇、補助金制度で郊外からの移転を促す。住宅を集める「居住誘導区域」も決め、区域外では大規模マンションなどを建てにくくする。

改正都市再生特別法が成立 病院など都市集約後押し :日本経済新聞

 

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10年前に全国でも早くにコンパクト化に乗り出した富山市が紹介されていました。中心部や駅やバス停のある便利な場所に自発的に移り住んでもらおうと「居住推進地区」を指定。

 

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「住宅建設・移住者への助成」「介護予防施設」「イベント広場」など集中投資を行いました。

 

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少しずつ居住推進地区の居住率は上がっています。

 

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ただ一方で居住推進地区からはずれた住民は不満も感じています。富山市の中心部から車で1時間半の60人ほどが暮らす集落に暮らす人は「たとえ不便でもこの地域で生活を続けたい」と答えます。

 

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毎週のようにイベントを行ってまちの魅力をPRしますがなかなか移住者の増加にはつながっていないようです。

 

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元々住んでいた場所で暮らしたいという考えとコンパクト化を進めるという考えとで二分されている状況があります。

 

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スタジオトークに戻ります。一般参加者からは「住み慣れた所で住みたい、先祖から受け継いだ家をリフォームしながら100年住んできた」というお方。まちの土地と文化を守ることはまちが生き残る上で重要なポイントだとは思います。

 

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しかし、コストを誰が負担するのかとか、何かあったときに10分で救急車が駆けつけてくれる所に住んで欲しいという子ども側からの要望があったりします。

 

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質の高い介護サービスを受けられるのも中心地のほうだというコメントも。

 

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ただ、都市計画の専門家の目線だと「都市計画の歴史を見て物理的に集約なんてたぶん無理」とバッサリ。「コンパクトに住んだからといってハッピーになるとは思えない」と。てか”ハッピー”って急にポエティックになりましたね。人口減少で税収が足りないから身の丈にあった自治体経営が必要だから住民にも協力(っていうか痛みを分かつ?)してもらおうというスタンスじゃないかと思いますが。

 

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そこで宇野さんからの反論。(笑)

 

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最後はシンクタンクソフィアバンク代表の藤沢久美さんがまとめてくださいました。まぁ結局は「将来をちゃんと見据えてまちのことも考えながらやっていきましょう」とかそんな程度のことなんですが。

 

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そしてオチは宇野さんのこの一言に付きます。

 

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