マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家管理、建築設計、都市計画の三方向から郊外の空き家を考える

三者三様のゲスト

2018年9月10日、トークイベント「郊外の空き家を考える会議」に行ってきました。最近あまりイベントには足を運んでいなかったのですが、ゲストの3名が空き家管理、建築設計、都市計画という三者三様の専門分野から空き家を語るという趣旨が面白そうで参加してきました。今回のイベントで一番感じたのは、空き家所有者が空き家活用に前向き又は容認しないことには空き家活用は進まないという、ある意味当たり前のことです。逆に言えば空き家所有者が前向きだったり、何らかのメリットがあったり、ニーズを満たすことができれば空き家活用は可能ということでもあります*1。AIが最適な活用法を空き家所有者に提示するとか、メルカリや民泊、Uberのように空き家所有者と空き家なり場所を必要としている人とを直接結びつける、ちょっとしたきっかけを与えて空き家活用をスムーズにする行動経済学で言うところのナッジの手法を活用する、などが出来たら話は早いなとは思いますが。

空き家活用したい空き家所有者は少ない

3名のゲストがそれぞれ講演した後、今回のイベントの主催者である株式会社タウンキッチン代表取締役の北池智一郎さんを交えたディスカッションという流れでした。まずはNPO法人空家・空地管理センター代表理事の上田真一さんのお話です。上田さんは日々、空き家所有者から空き家管理業務を引き受けています。印象的だったのが、「空き家活用したいと思っている空き家所有者は少ない」という趣旨のお話です。つまり、空き家所有者の大半は近隣住民と揉めたくないなどの理由から、空き家についての相談は空き家活用というより売却解体が多いそう。約7割の相談者が最終的に売却を決断されるとのことです。

f:id:cbwinwin123:20180917114850p:plain2018年9月10日、小金井宮地楽器ホールで開かれた郊外の空き家を考える会議

賃貸や借り上げ、住宅以外の用途で活用する

上田さんのお話は常に所有者目線に立っています。いろいろな空き家活用が進むと面白いけれど、所有者がメリットに感じない限りなかなか難しいということを終始おっしゃっていました。一方で空き家を手放したくない、つまり売却や解体したくないという所有者に対しては賃貸の提案ができるということでもあります。賃貸の場合、当たり前ですが借り手がつくかが重要です。ただ単に住宅として賃貸に出すだけではなく、借り手のニーズを見極めて住宅以外の用途として貸し出すなどもアイデアとして必要になってきます。実際にNPO法人空家・空地センターではリフォームして賃貸戸建てとして活用した事例空き家借り上げ制度「AKARI」を活用した事例空き倉庫を原状回復不要のアトリエ付き賃貸として活用した事例などもあります。このように空き家を所有しつつ利用は意欲とアイデアと行動力を持っている第三者に任せる、という選択をされる空き家所有者も一定数いらっしゃるのも事実です。空き家が住宅ではなく店舗や民泊、アトリエなど様々な用途で利用されることで、空き家所有者にとっては家賃収入、空き家の管理の手間が省かれるなどのメリットがあります。利用者にとっても利用のニーズを満たしますし、街に開かれた空き家活用となれば街の魅力的なコンテンツとして成長することもあり得ます。

f:id:cbwinwin123:20180919201523p:plain(出典:【お悩み解決事例】賃貸希望だが、良い提案が不動産会社からもらえない-NPO法人 空家・空地管理センター

私的空間と公的空間との中間領域

二人目の登壇者は仲建築設計スタジオ代表取締役の仲俊治さん。仲さんは上田さんとは対照的に、新しくデザイン性に優れた住宅を設計するなど前向きな不動産所有者からの依頼が多い現場で働かれています。CasaBrutusや新建築、LiVESといったオシャレ雑誌に載っているような住宅の数々をスライドでご紹介いただきました。仲さんがおっしゃっていた建築設計の基本コンセプトは「脱・居住専用住宅」。単身世帯の増加*2や共働きの増加*3、インターネットの発達によって自宅で仕事するなど多様な働き方が可能になった昨今*4、「一住宅=一家族」という価値観は当たり前ではなくなってきています。居住専用ではなく仕事場(スタジオ)を併設し、道路沿いの1階の軒下空間を広くするなどした「五本木の集合住宅」や、1階に食堂、地階にシェアオフィス、2〜4職にSOHO(仕事場付き住宅)5戸が入る「食堂付きアパート」など、私的空間と公的空間との境界が曖昧な中間領域を生み出すことで現代の多様なライフスタイルや働き方に合った建築を実現しています*5

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住宅を閉じすぎない

前述した「食堂付きアパート」は食堂、シェアオフィス、SOHOが複合していることに加え「立体路地」と名付けられた通路(というかオープンスペース?)には看板や椅子、机を置いたりして、中と外との中間にある空間も有意義な使われ方をされています。また、1階の食堂で開かれた料理教室には新旧住民が集まったり、月1回開かれるマルシェでは地域住民が出店しています。常に開かれているわけではないが閉じすぎてもいない、なんとも曖昧だけれど住宅が中間の空間、領域を持つことは不動産の公共性にもつながる論点であり、空き家活用する上で大きなヒントになります。

f:id:cbwinwin123:20180921092539p:plain(出典:仲建築設計スタジオ 食堂付きアパート) 通りすがったらふと立ち寄りたくなるような1階のオープンスペース

過疎にならないように都市を縮小させる

最後は東京都立大学の饗庭伸教授です。饗庭教授は国土交通省の都市計画基本問題小委員会の委員も務められ、スポンジの穴のように空き家や空き地が都市内に散在していく「都市のスポンジ化」への対応策について研究・提言されるなど、都市計画の専門家です。日本の総人口は明治維新の時に約3300万人*6現在は約1億2700万人です。つまり、ここ150年の間に約4倍も人口増加してきたわけです。そして、平成27年国勢調査(人口等基本集計)によると大正9年の調査開始以来、初めて日本の総人口が減少しました。将来的には2029年に1億2000万人を下回り、2053年には1億人を割って9,924万人となり、2065年には8,808万人と推計されています。こういった人口減少の過程をスライド(下記画像)で紹介しています。つまり、スライドにある状態3(人口:多、都市空間:大)から状態1(人口:少、都市空間:小)へと戻っていくということです。状態2(人口:多、都市空間:小)の過密や状態4(人口:少、都市空間:大)の過疎を起こさないようするのが理想的な都市計画やまちづくりですが、往々にしてなかなか難しいのが実情だと思います。人口は否が応でも減少することは半ば自明の理となっていますが都市空間、つまり住宅や公共施設やインフラ施設、店舗やオフィスなどは解体費用や権利などの問題からなかなか簡単に小さくしていく(解体する)ことは難しいです。そのため、状態4が起きないようにスムーズに状態3から状態1へと人口と都市空間を縮小させていこうというのが今日的な都市計画の課題です。他にも都市空間は中心から周辺へ広がっていった経緯から中心市街地は古い建物が多く、郊外は新しい建物が多いというお話、都市空間の縮小はスポンジ穴のように街のあちこちでランダムに低密度化していくというお話など、改めてなるほどなと思いました*7

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固定資産税+都市計画税

空き家活用において大前提となるのが空き家所有者の理解ですが、全く見ず知らずの人が急にやってきて空き家使わせてください、と言っても使わせてくれるわけはないわけで、空き家所有者の気持ちに沿ったアプローチが重要です。その点、饗庭教授は国立市谷保の古民家を活用させてもらうために、どのように活用するかを考えた上で提案させてくださいというアプローチをされたそうです。そして提案の段階では特定の誰かが使いたいというのではなくみんなが使いたいというように、主語を「みんな」という公共に開かれた存在とすることも重要だったとおっしゃっていました。そして重要なのが家賃ですが、普通の賃貸物件のように借りるとなるとかなりの金額になるわけで、かと言って無償で貸してもらうなどは虫が良すぎる。そこでその中間として、不動産所有者がたとえ空き家となっていても毎年支払わないといけない固定資産税+都市計画税分を支払うことで借りるという方法が生まれました*8空き家となっているけれど売却も解体も今の所は考えていないという空き家所有者の場合、固定資産税+都市計画税分で借りるというのは合理的です。

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まとめ

今回の記事は長くなりましたが簡潔にまとめると、

  • 空き家活用したいという前向きな空き家所有者は少ない
  • 一方で空き家を所有したまま誰かに貸したいというニーズも確実にある
  • 住宅以外の用途で貸し出す、原状回復不要とするなど、新しい賃貸契約
  • 単身世帯の増加、働き方の多様化に合った住宅
  • 私的空間と公的空間の間の中間領域
  • 住宅を閉じすぎない
  • 空き家所有者へのアプローチその1「使い方を提案する」
  • 空き家所有者へのアプローチその2「主語を『みんな』にする」
  • 空き家所有者へのアプローチその3「固定資産税+都市計画税分の家賃」 

などが学びとなりました。

*1:ただし、不動産登記簿を調べてみても相続登記が任意であるという制度上の不備のため既に亡くなっている人が名義人となっているなどして、現在の空き家所有者が誰なのかわからない場合もあります。この問題に関連する土地の所有者不明化問題については東京財団の吉原祥子研究員による一連の研究、所有者不明土地問題研究会登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会などが詳しいです。

*2:平成29年国民生活基礎調査によると平成29年6月1日現在の世帯構造は「夫婦と未婚の子のみの世帯」が1489万1千世帯(全世帯の29.5%)で最も多く、次いで「単独世帯」が1361万世帯(同27.0%)。平均世帯人数は全国2.47、東京都1.92

*3:平成30年版男女共同参画白書によると1998年以降、共働き世帯数は専業主婦世帯数を超え、2017年には共働き世帯数は専業主婦世帯数の約2倍となっています。

*4:平成30年版情報通信白書によるとテレワークを導入している企業は13.9%ですがゆるやかに増加傾向。P182。

*5:詳しくは2018年3月に出版された『脱住宅:「小さな経済圏」を設計する』が参考になると思います。

*6:平成23年2月21日国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」中間まとめ

*7:都市のスポンジ化については饗庭教授のブログ記事が詳しいです。

*8:カフェ、工房、ガーデン、ヘアサロン、子育て支援スペース、デザイナーや建築家が入居するやぼろじは多彩な側面を持っています。