マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家っぽい住宅の活用で生活課題を解決する

「空き家」ではなく「空き家っぽい住宅」

 こちらの記事に首都大学東京の饗庭伸教授のインタビューが載っています。土地や建物の所有者それぞれが個別的な事情によって建て替えられなかったり、住み継ぐ人がいなかったりして、バラバラとスポンジのように空き家っぽい住宅や空き地っぽい土地が増え、都市に隙間が空いていく都市縮小のプロセスがとてもわかりやすく紹介されています。

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 ここで注目したいのが饗庭教授は「空き家」ではなく「空き家っぽい状態」と表現していることです。これは非常に示唆的です。最近、空き家に関する記事やニュースが増えていますが基本的には空き家なのかどうかを判断するのはその住宅の所有者です*1。一定期間、電気や水道の使用実績がなければ第三者が住宅を自由に使用又は利用してもよいという法律があれば別ですが、現行法規の中ではいくら空き家っぽい状態だとしてもその住宅の所有者の意思が尊重されます*2

こうしたプロセスは非常にゆっくり進行します。建物は増える時はわかりやすいのですが、減る時はぱっと見ではわからないのが特徴です。日本では、家を相続してもそこに住まなかったり建て替えの判断をしなかったりと、ずっと「空き家っぽい状態」でおいておかれることが多いんです。
空き家をポジティブに語る!ここから始まる人口減少時代のまちづくり

なぜ空き家っぽい状態になるのか

 ではなぜ空き家っぽい状態になるのでしょうか。所有者が亡くなった又は施設入所し自宅に戻ってくる目処は立っていないなどがありがちなケースだと思います。所有者の子どもはもう既に50、60代であり別の街で持ち家があるとすると、その住宅の活用法は売却や賃貸又は解体して土地を売却などが考えられます。
 子どもの誰か一人が住宅や土地の相続登記をしていればまだいいですが、相続登記をせずに、しかも子どもに兄弟姉妹がいると住宅の所有権は共有となるので、いざ売却や賃貸などのアクションを起こそうにも意思統一に向けた調整が必要になります。兄弟姉妹の人間関係が良ければスムーズにいくでしょうが、住宅の処遇について意見が食い違うとなかなか前に進まず結局放置ということになりがちです。

空き家は「問題」ではなく「チャンスや可能性」

 再び饗庭教授のインタビュー記事に戻ります。空き家が問題であると伝えるニュースや記事を日々よく目にしますが、多少空き家っぽい状態住宅が増えたとしても深刻な「問題」ではなく、むしろ様々な活動の場所や交流の拠点となりうる「チャンスや可能性」です。

ただ私は、こうした空き家の増加がメディアなどで言われるほど、深刻な問題となっているとは考えていないんです。
都市が過密状態であれば伝染病や火災などのリスクが高まりますが、反対にスポンジ化したとしても現代の日本であれば伝染病も起きにくいですし、火災なども空き家を放置さえしなければそれほど大きな問題にはなりません。空き家が増えているからといってすぐに何かしなければならないような危険な状態ではないんです。
空き家をポジティブに語る!ここから始まる人口減少時代のまちづくり 

 空き家っぽい状態の住宅が今よりも増えて外壁が本当に崩れそうとか、犯罪が起こりそうという危険性があまりないならば、むしろ現状を肯定し、この現状の中でどう価値を生み出していくかを考え行動することの方がよほど生産的です。

そうした空き家を地域の人々の交流の場や、暮らしや仕事を支えるための場へと再生していくことができれば、コンパクトで機能的なまちづくりが可能だと思っています。今目の前にある空き家は、実際のところ「問題」ではなくて、再びまちや地方を元気なものに変えていく「チャンスや可能性」を持ったものであると私は考えています。
空き家をポジティブに語る!ここから始まる人口減少時代のまちづくり  

どんな活用法があるか

  空き家の活用もとい空き家っぽい住宅の活用法は所有者の意向が優先されます。所有者にとっての困りごとやニーズを汲み取って活用法を考える必要があります。住宅がこれまでどのように使われてきたのか又は親しまれてきたのか、物語や文脈を踏まえることは重要だと思います。それに加えて地域住民の生活課題を解決する場所として活用できたら新しい価値になると考えます。
 地域の小中学生たちに食事を提供する子ども食堂や学校以外の学びや交流スペース、孤立しがちな子育て中の親同士が悩みや情報共有できる場所、自宅でもない会社でもない第三の活動場所としてのシェアオフィスやコワーキングスペース、など生活課題ドリブンな活用法を試してみたいです。しかも、どれか一つの活用に限定するのではなく時間や空間を分割して複合的な活用を目指したいと考えています。メディアでありプラットフォームでありコンテンツでもある、そんな空き家っぽい住宅の活用ができれば。

都市のスポンジ化によって生まれた空き家や空き地は、ゆとりのある新しいコミュニティとなるポテンシャルを秘めていますが、現在はそのことに多くの人、とりわけ空き家を所有しているオーナーさんたちが気づいていないのは事実です。
空き家の利活用を図るのであればそうした人たちに対して、どれだけ的確なアプローチができるか、またお互いにハッピーになれる提案ができるかにかかっています。
空き家をポジティブに語る!ここから始まる人口減少時代のまちづくり   

*1:総務省の住宅・土地統計調査では外観などから判断しています。2018年の住宅・土地統計調査では「現住居以外の住宅を所有しているかどうか」を調査対象世帯に直接回答してもらうという、新しい調査項目が導入されました。(参考記事はこちら

*2:外壁が崩落しそうとか瓦屋根が飛んできそう、ゴごみが不法投棄されていて不衛生など具体的な実害を及ぼしそうな住宅は別です。