マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

都市計画の視点から見る空き家問題とは?講談社現代新書「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」野澤千絵著

住宅過剰社会

今回は、都市計画がご専門の野澤千絵教授の新書「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」を読んだので、ざっくりまとめておきます。まず、タイトルにもなっている”住宅過剰社会”というキーワードですが、これはまさに世帯数以上に空き家が存在・増加している状況にもかかわらず、将来的に住宅の維持管理や修繕、建て替えや解体といったコストを必ずしも計算せず、新築がどんどん建てられている現状を言い表しています。

住宅過剰社会とは、世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げながら、住宅をつくり続ける社会のことです。

「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」p.3

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

野澤 千絵 講談社 2016-11-16
売り上げランキング : 1412
by ヨメレバ

「売れるから建てる」という流れ

日本の世帯総数は約5245万世帯ですが、住宅数は6063万戸。つまり数の上では住宅は足りており、空き家が増え続けている状況です。驚きなのは毎年の新築住宅の着工戸数で、高度経済成長期に比べて減少しているといえど、2010年度以降は年々増加し、2016年の新設住宅着工戸数は96万戸と、前年比6.4%の増です(相続税の節税対策として賃貸アパートなど「貸家」を建てる需要が牽引)。まだまだ”住宅は資産”と考える場合が多く、新築・持ち家の需要が高いこと、中古住宅の質への不安や中古住宅流通市場が未成熟であること、などを背景に「売れるから建てる」という流れがなかなか止まらないのです。

f:id:cbwinwin123:20170304125243p:plain

(画像引用元:【図解・経済】新設住宅着工戸数の推移:時事ドットコム

居住地の拡大はコストを生む

この本の面白いところは、都市計画の視点から空き家問題や住宅政策の課題について論じているところです。つまり、自治体が定める「市街化区域」や「市街化調整区域」といった都市計画制度によって、住宅の建設が促進されたり抑制されたりするわけで、そういった自治体の都市計画によって新設住宅着工も左右される面が大いにあるということがわかりました。

市街化区域とは、「すでに市街地を形成している区域」および「おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」ですので住宅はもとより、道路や公園、下水道といった都市インフラもエリア一体となって重点的に整備されます。しかしそうした区域以外では、無秩序かつ無計画に新設が進むと当然、都市インフラのコストがかかりますし、ましてや人口減少が進む中、ハコは作ったけども肝心の住む・使う人がいなくなるという事態になってしまいます。

問題なのは、新築住宅が、居住地としての基盤(道路や小学校、公園など)が十分に整っていないような区域でも、いまだに野放図につくり続けられ、居住地の拡大が止まらないことです。

 「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」p.10

f:id:cbwinwin123:20170304135520p:plain

(画像引用元:日本の住宅が「資産」ではなくなる日 〜空き家急増という大問題(野澤 千絵) | 現代ビジネス | 講談社(3/4))市街化調整区域(都市計画法で原則として市街化を抑制すべき区域)でも、自治体が開発規制の緩和をしたことで農地の中に住宅が新設されるという事態に。

自治体、デベロッパー、地権者…それぞれの思惑

自治体としては市街化調整区域でも開発規制の緩和してでも人口を増やしたいと考え、デベロッパーもそれならばとビジネスとして開発に取り組む、地権者としても何とか土地を売りたい・活用したい、そういった各自の意向が重なり、結果的に都市インフラのコストは上がり、住民の負担は増えるという悪循環に。 

求められるのは「開発規制の緩さ」ではなく、まちのまとまりを形成・維持できるような「立地誘導」

コンパクトシティや立地適正化計画など、自治体の都市計画の動きも変わってきています。今後は野放図に居住地を増やすのではなく選択と集中、重点的に開発を進めるエリアとそうではないエリアとが明確になっていきます。といってもその中間的な、そこそこ暮らせるエリアというのも必要で、大きな流れは立地誘導に傾きながらも、これまでずっと住んできた人やコミュニティもできるだけ生活・維持できるようにしていく、そういう感じかなと思います。

既にある住宅やまちを、将来世代も暮らしやすいものへと改善し、きちんと「資産」として引き継いでいくためには、まるで連立方程式を解くように、災害リスク、インフラや公共交通・生活利便サービスの維持、公共施設の再編・統廃合、地域コミュニティ、ライフスタイルや暮らしやすさといった生活環境、産業や農業政策……といった多元的要素を、都市計画・まちづくりの中で、横断的・複合的に解いていくことが必要不可欠なのだ。

日本の住宅が「資産」ではなくなる日 〜空き家急増という大問題(野澤 千絵) | 現代ビジネス | 講談社(4/4)