ついに空き家問題がテレビのゴールデンタイムに進出
昨日のNHKの空き家討論番組見ました。録画して見直したりもしましたが、空き家問題の背景や原因、行政の空き家対策の現状と課題、民間による空き家・空きビル・空き室再生の先進事例紹介、財政破綻(予備軍含む)した自治体の事例、今後の住宅産業・住宅政策のあり方、将来を見据えたまちづくりなどたくさんの論点が出てきました。
空き家問題や空き家活用の取組の概要が広く知らされたことは良かったです。ゲスト出演していた宇野常寛さんのTwitterなどから前もって収録の感触を聞いていたので、とりあえず空き家が増加して問題だよーということが世の中に広く伝わればいいな位に考えて見ていました。ただ4時間(収録)議論して「実家の空き家をどうするかこれから考えます」じゃー結局、空き家問題の本質は見えてこなかったなというのが正直なところです。
番組で議論がありましたが2035年には空き家率32%という試算(野村総研)もあって、2013年7月に財政破綻したアメリカのデトロイトの空き家率は29.3%なので、危機感持って空き家を減らしたり活用したり、これ以上増やさないように不動産市場は動いて行く必要があるし、政府や行政もそれを政策誘導してバックアップしていくことが重要です。
Twitter上でも番組に対する反響は凄いので、改めてまとめます。今回は番組内容のまとめに専念します。ちょっと長くなってしまうので何回かに分けて書きます。書くポイントは次のような感じです。
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<目次>
- 実家は空き家同然、近隣住民の不安(放火や空き巣)
- 減る人口、増える空き家、20年後は3軒に1軒が空き家?
- 身近な”実家の”空き家問題
- 空き家問題の実態
- 空き家所有者の事情あれこれ
- 空き家放置を助長する不合理な固定資産税の優遇措置
- 空き家増加時代に新築住宅建設が年間100万戸の不思議
- 自治体の基本計画は人口減少時代に合うようにちゃんと作られている?
- 空き家・空き店舗・空きビル・空き室再生の取組
- ストック(既存の住宅)を活かして”ライフステージに応じて住み替えていく”賃貸スタイルへ
- 空き家の増加はまちの衰退への黄色信号
- 危険な空き家の解体の問題
- 将来を見据えた”コンパクト化”は進むか?
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今回は1〜5まで書いています。6以降は次回以降の記事に書いていきます。
(1)実家は空き家同然、近隣住民の不安(放火や空き巣)
まずシーズンということもあって「お正月どこで過ごしました?」という街頭インタビューからスタート。「実家」という応えが多数。しかしこの実家が空き家または空き家予備軍になっているという。
そんな空き家の近所に住む人は放火や空き巣の不安を抱えています。
(2)減る人口、増える空き家、20年後は3軒に1軒が空き家?
昨年7月に5年に1度の住宅・土地統計調査が発表され、最新の空き家率は13.5%であることが明らかになりました。野村総研の試算では20年後には32%(3軒に1軒!)にまで上昇する可能性があるとしています。
そして人口減少。2008年の1億2,800万人をピークに右肩下がりです。
住む人が減って住む場所は増えるというシンプルな話です。高度成長期やバブル期とは逆で、住宅・不動産を持つことで責任・リスク・負担が増えることになります。昭和の感覚だと”家と土地が一番の財産”といった感じですが、”売るに売れない貸すに貸せない”住宅が今後ますます増えます。
そんな社会状況の中でも新築住宅建設は毎年100万戸ほど(後述します)で、あげくには老朽化した空き家を税金を使って壊しているという、なんともちぐはぐな住宅産業と住宅政策が続けられています。
(3)身近な”実家の”空き家問題
タレントの松本明子さんの実家は香川県高松市。 両親が亡くなって10年間も空き家のままだそうです。お父さんの遺言で「子どもの世代までは残したい」という思いが背景にあります。
評論家の宇野常寛さんは「家買ってないし何でこの番組に呼ばれるんだと思ったけどよくよく考えたら実家が空き家じゃん!」ということで帰省するたびに実家の親とも空き家どうしようかと話をするけども放置という状態が続いているそうです。ちなみに宇野さんの父親が青森県八戸で若い頃に買った30年以上前の家で、その後、転勤族になって放置、という流れだそうです。
消滅可能性都市レポートをまとめた日本創生会議座長の増田寛也さんは「空き家が増える→町の魅力がなくなり寂れる→消滅する可能性がある」と指摘します。”消滅するのは町ではなくて自治体だ!”という木下斉さんの記事はこちら。
(4)空き家問題の実態
徳永アナウンサーが東京23区の閑静な住宅街を歩きます。「15年前、新人アナウンサー時代に島根県の放送局で里山の空き家を取材した。まさか東京でも起きるとは思っていなかった。」とのことです。駅から歩いて10分、結構いい家が並ぶ中なのに10年近く空き家状態の家がありました。
壁から草木が飛び出してあふれるくらいまで伸びています。
東京の便利な住宅地でも実際よくみてみるといたるところに空き家があります。これはぼくも実感があって昨秋、近所を自転車で回ってみたところ7戸に1戸くらいの割合で空き家でした。
近所の人にとっては空き巣、放火などの不安を抱えています。
なぜこんなにたくさん空き家があるのか?近所の人に聞いています。例えば単身の高齢者が住んでいる場合、病院に入院したりすると空き家になります。でもいくら年をとっても本人は家に帰ってきたい。だから(売れないし貸せないし)壊せない 。
使われるあてもなく放置される空き家。地元の自治体に寄せられる相談も急増しています。動物が住み着いたり倒壊のおそれがあったり。
(5)郊外の住宅地は”空き家予備軍”
今後、空き家問題が深刻なのは特に郊外の住宅地です。この郊外の住宅地の空き家問題をテーマにNHKが作ったインフォグラフィックのデータはわかりやすくて結構反響を呼んでいます。
徳永アナが訪ねたのは東京駅から電車とバスを乗り継いで1時間半ほどにある40年程前に開発された郊外の住宅街。都心に通勤するサラリーマンが数千万円のローンで手に入れた「夢のマイホーム」は現在、住民の高齢化が進み、亡くなったり、施設に入ったりして無人の家が増えています。
将来、空き家が増えるのではないかと地元住民は不安を感じています。
なぜ郊外の住宅は使われなくなるのか?その背景には「社会の変化」があります。主に働き方や家族のあり方の変化です。子どもは実家に戻ってこないため住宅がスムーズに引き継がれません。
「夢のマイホーム」が一代限りになりかねないのが現実です。
団塊の世代など1940年代生まれ世代は20代は都心部に住み30代以降に郊外に持家を買うというのが一般的でした。専業主婦が家を守りサラリーマンが長距離通勤と満員電車で都心の会社に通うというスタイルです。
しかし団塊ジュニュアなど1970年代生まれ世代は20代は郊外の住宅地で暮らし30代以降になると都心に住むという逆転が起きています。共働き世帯が専業主婦(主夫)世帯数を超え夫婦ともに子育てをしながら働くには「職住近接」が合理的だからです。
今後、郊外の住宅地からの”脱出”が起きる可能性があります。”売るに売れない貸すに貸せない”住宅に住む人たちは荒廃していく郊外の住宅地に住まざるをえないということになりかねません。
(6)空き家所有者の事情あれこれ
収録スタジオには「空き家所有者」「隣が空き家」「不動産関係者」など空き家問題に関心がある方々が集まっていました。さながらニッポンのジレンマのような。
「実家の空き家は”別荘”だと思っている」とか「町田の実家が空き家(半年)で月に何度か実家の整理に通う。母親は施設入所の状態で生きているのに売り払うのも申し訳ない。」といったコメントがありました。
シンクタンクソフィアバンク代表の藤沢久美さんからは「心の問題。持っている我が家を手放すということは我が家が落ちぶれたと近所から思われるかもしれないという不安がある。地域と一緒に今まで生きてきた中でのプライドが邪魔をしている。」と。
他にも一人っ子同士が結婚すると当然その夫婦の実家は”空き家予備軍”(高齢夫婦だけしか住まない)になり、子どもも一人っ子だと自分たちの家も”空き家予備軍”になってしまう。
「父が他界したのをきっかけに祖父母の家を解体した」という方は「除雪作業を近所の人がやってくれていて、毎回交通費かけて祖父母の家に通って地域の人に頭下げて行くのが負担。更地にしても私道や山道の中にあるので買い手も貸し手もつかない」という雪国の地方のお話です。
「祖父母の家が空き家になり売ろうとしたが、駅からのアクセスの不便などで売れないので行政への寄付も考えたがそれもだめ」という。行政はなぜ寄付を受け付けないのか?これに対しては「行政も目的があれば引き取れるが何も目的が無いと引き取れない」とのこと。これは取り壊しや改修コストが発生するためです。ただ自治体によっては違っていて東京都文京区では解体費用を200万円まで補助する代わりに更地にした跡地を公共目的に使用するという制度を作っています。
高度成長期は人口が増えて家が足りない時代だったから買い手も借り手も見つかりましたが今はそもそも人口減少しています。一時期、住宅価格が上がったからまた上がるのではないかという妄想が空き家を売ったり貸したり処分したりする決断を先送りにさせています。
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part1はここまで。次回は空き家放置を助長する「固定資産税の優遇措置」について書きます。
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