イギリスの空き家率は2.6%
不動産コンサルタントの長嶋修さんのツイートから。イギリスの空き家率って日本の13.5%に比べると格段に低くて、わずか2.6%です。新設住宅着工戸数も日本に比べて(2014年度の新設住宅着工戸数は88万戸)同じく低く、わずか13万戸です。
イギリスの空き家。「61万戸もあって問題だよねー」として対策に取り組み、このところ空き家数は減少傾向。住宅ストックは2,337万戸で空き家率はわずか2.6%にも関わらず。新築着工は年間13万戸と、総住宅数の0.59%でしかありません。
— 長嶋修 不動産コンサルタント (@nagashimaosamu) 2015, 5月 8
ちょっとわかりやすいように日本とイギリスの住宅データを書き出しておきます。
(出典:日本の住宅データは総務省統計局から。イギリスの住宅データは長嶋さんのツイートより。)
こうして見ると空き家は増えるべくして増えていることがわかります。新築を作り過ぎですね。まるで当たり前のように公債発行して将来世代にツケを回している日本の財政状況と似ている構造になっています。
新築住宅から中古・既存・ストック住宅への住宅政策の転換が遅すぎ
イギリスでは年間の新設住宅着工戸数は総住宅数の0.59%ですが、日本では1.48%です。2倍以上の開きがあります。
日本はいま820万戸の空き家があるにもかかわらず、新築は90万戸と、総住宅数の1.48%も造ってます。イギリスは空き家61万戸ですよ。日本の住宅政策は、どうみたって失敗だと思いますが。正確に言えば「転換が遅すぎ」です。
— 長嶋修 不動産コンサルタント (@nagashimaosamu) 2015, 5月 8
特異な日本の住宅市場
ではなぜこのような新築中心なスクラップアンドビルド(建てて壊すの繰り返し)な住宅市場がなおも当たり前となっているのか、この点について富士通総研の米山秀隆さんのレポートが明らかにしています。なぜ空き家率が上昇していきたのか端的に言うと、”戦後の住宅市場が使い捨て型の構造になったこと”に大きな原因があります。
高度成長期の人口増加に伴う住宅不足に対応するため、新築が大量供給されたが、その間に物件の質が落ち、住宅寿命が短くなった。また、市街地が外延部にまで広げられ、立地条件の良くない住宅も多く供給された。
つまり戦後は、市街地を無秩序に広げ、そこに再利用が難しい住宅が大量に建てられたが、一転して人口減少時代に入ると、条件の悪い住宅から引き継ぎ手がなく、放置されるようになった。都心部でも東京の木造住宅密集地域などでは、建てられた時点では適法でも現在の法令では違法状態で再建築できない土地の場合、空き家がそのまま放置されている。
つまり戦後焼け野原から高度経済成長を背景として重厚長大的に質よりも量、悪く言えば後先考えずに無秩序に住宅を作りまくった。しかし経済成長も成熟してきて人口の増加もストップすると反転、2006年には住生活基本法が策定されるなど住宅の量から質への転換が唱えられるようになりました。
しかしあいかわず空き家率は増加傾向です。戦後に一度出来上がってしまった住宅市場や住宅文化は思いのほか強固で、簡単に更新できるものでもない状況です。いやしかし少しずつ更新させている動きは各地でありますが。
(画像引用元:空き家率の将来展望と空家対策特措法の効果 ~20年後の全国、東京都の空き家率~ : 富士通総研)
欧米では中古住宅取引がメインストリーム
一方でイギリスやドイツ、アメリカの住宅市場では新築と中古を合わせた全住宅取引のうち、中古の割合が70〜90%程度を占めています(日本は10%台半ば)。そして空き家率が低い理由としては、どこでも住宅を建てられるわけではないことが大きいです。
ヨーロッパでは、市街地とそれ以外の線引きが明確で、どこでも住宅を建てられるというわけではない。建てられる区域の中で、長持ちする住宅を建てて長く使い継いでおり、購入するのは普通、中古住宅である。アメリカも同じ考え方であるが、空き家率が8~10%と比較的高い水準で推移しているのは、国土の広さが関係していると考えられる。
(画像引用元:空き家率の将来展望と空家対策特措法の効果 ~20年後の全国、東京都の空き家率~ : 富士通総研)
人口減少時代には「住宅総量目安」や「住宅供給目標」は必須
つまり先進国と言われるような国は当然に「住宅総量目安」や「住宅供給目標」を設定して住宅が無秩序に新設されることを防いでいます。
OECDに加盟するようないわゆる普通の国は、世帯数や住宅数の現状を踏まえて「 住宅総量目安 」「 住宅供給目標 」といった指標を算出します。そしてそれに合わせるように税制や金融をコントロールしていくのです。「 適度なインフレを目指そう 」といった日銀の「 インフレ 」目標に似ています。