三者三様の創造都市論
前編記事はこちらです。今回は10月30日に行われたリノベーションEXPOの「創造都市論-what the hell is "creative city"!?」のまとめ後編です。
クリエイティブシティ・・
なんだかかっこいい響きのこの言葉、最近よく耳にしますが、それが一体何なのか、僕にはまだよくわかりません。それってどんなんなの? どこいけば見れるの?
なんかいいことあるの? どしたらつくれるの?3人の噂のクリエイティブシティBOYたちに、
その実体と本質について根掘り葉堀りしながら、
都市デザインや街づくりの、あるいは
リノベーションの次なる領域の、新たな視界を開きます。ゲスト
佐々木龍郎(佐々木建築設計事務所)
寺井元一(MAD City / まちづクリエイティブ)
東浦亮典(東急電鉄株式会社 都市開発事業本部企画開発統括部長)モデレーター
林厚見(東京R不動産 / SPEAC)
佐々木龍郎さんは横浜市が主導する”官製”クリエイティブシティの取組について。空き物件を活用してアーティストやクリエイターの滞在、制作、発表の場を提供する「芸術不動産」という事業についての説明が。寺井元一さんからは主に松戸駅前の半径500mの範囲において民間の立場からクリエイティブシティをつくろうという取組について。”賃貸なのに改装可能・現状回復不要”という変わった物件を数多く扱っています。最後に東浦亮典さんは東急電鉄が仕掛けるクリエイティブシティのお話や海外の豊富な事例の紹介など。二子玉川、渋谷、自由が丘を結ぶエリアを”プラチナトライアングル”と設定して文化芸術と産業経済とを盛り上げて行こうとしています。
都市の主要産業は不動産業「芸術不動産」
まずは、横浜市で「芸術不動産」など建築・まちづくりプロジェクトに深く関わっている佐々木龍郎さんから、横浜市のクリエイティブシティの取組についてです。横浜市では2000年代から行政主導でクリエイティブシティ(アートを通したまちづくり)に向けた取組が行われています。主な対象エリアはみなとみらいや関内といった横浜都心臨海部です。
(画像引用元)横浜市の中でも特に魅力的なコンテンツが詰まったエリア。
”都市の主要産業は不動産業”という言葉が印象的でした。それを実践する事業が「芸術不動産」です。
2007年に主に関内・関外エリアに空きオフィスを所有する民間事業者の協力を得て、アーティストやクリエイターの事務所やアトリエなどの活動場所をつくりだし、まちなかでのクリエイティブな活動が行われることで中心市街地の不動産価値を高めるプロジェクトとして「芸術不動産事業」がスタートしました。
空きオフィスにアーティストやクリエイターの活動場所をつくり、街全体の不動産価値を上げてしまおうということです。
その後、2010年度には、芸術不動産リノベーション助成(運営:アーツコミッション・ヨコハマ)として、関内・関外地区にある地区20年以上の建築物を改修し、アーティストやクリエイターの活動拠点として整備・転用することで空きオフィスの活用とアーティストやクリエイターの活動支援を行っています。
こうして開設された活動拠点で活動するアーティストやクリエイターは2013年までに200組を超えているそうです。
最近では今年7月に、みなとみらいの造船ドック跡地を「大人の部活が生まれる、街のシェアスペース」にした「BUKATSUDO(ぶかつどう)」がオープンしました。
(画像引用元)
空き室となっていたビルからの相談を受け、NPO法人コミュニティデザインラボが活用する「さくらWORKS関内」に生まれ変わりました。
事例のご紹介ヨコハマ創造都市センター | ヨコハマ創造都市センター
脱東京、「つづく世界」をつくるMAD City
次にMAD Cityの寺井元一さんからのお話。”古民家からラブホテルまで”扱う「MAD City不動産」。松戸駅前の半径500mのエリアを中心に改装可能な賃貸物件・売買物件など個性的なお部屋をご案内しています。
古民家スタジオ 旧・原田米店 | 松戸のまちづくりと物件情報
かつての宿場町「松戸宿」の一角、松戸駅前のマンション群の真ん中に残っている古民家群。400坪近い敷地に大小5つの建物が並ぶ物件。
PARADISE STUDIO | 松戸のまちづくりと物件情報
松戸駅西口を出てすぐにあるパチンコ店「楽園」という元ラブホテル。3階まではパチンコ店、4階の8部屋をMAD Cityが借り上げて運営。
「地域ディベロッパー」「DIY」「アソシエーションデザイン」という3つのポイントで活動されています。行政ではなく民間の立場でまちづくりに携わる、全て専門業者に任せるのではなくDIYでのセルフリノベーションを基本とする、人との関わりにおいて閉鎖的・排他的な村社会的コミュニティではなく”自発性”を優先するアソシエーションによるつながりをモットーとする、このような観点から事業運営がなされているのかなと思います。
参考記事:「空き家から始まるまちおこし」ではなく「まちづくりから空き家の再生を進める」 - 空き家の活用で社会的課題を解決するブログ
文化芸術を産業経済寄りにしていく「クリエイティブ・シティ・コンソーシアム」
最後に東急電鉄の東浦亮典さんからは”クリエイティブシティ論”から実社会に働きかけている取組までお話がありました。日本のこれまでのクリエイティブシティ論は「文化芸術」と「産業経済」が切り離されていて、「文化芸術」に偏っていたことが課題と指摘されています。なのでもっと「産業経済」的なものにしていこうという取組をされています。具体的には「クリエイティブ・シティ・コンソーシアム」を設立し、世田谷区の二子玉川や渋谷周辺地域を対象に活動をしていくそうです。
クリエイティブ・シティ・コンソーシアム|Creative City Consortium
まとめ
最後に質疑応答の時間がありました。「クリエイターって誰?」「クリエイター達が集まるとどうなっていくのか?」など素朴な質問がありました。前編でも書きましたが寺井さんの「お金が無い中でゲリラ的に(空き家とかを使って)活動を始めるのがクリエイティブではないか」というような言葉が一番しっくりきました。「デザインが出来るからクリエイティブ」「アーティストだからクリエイティブ」というわけではなくて、実際のところ本当にクリエイティブかどうかの判断は人によって違います。きっとワクワクするような、面白いって人が思うようなコンテンツを生み出すことがクリエイティブということだと思いますが。
最終的には貨幣価値につなげていかないといけないこと(継続していかない)、まちづくりに取り組むNPOの資金調達手法としてBID(Business Improvement District)の導入、市民側がまちをハックしていくこと、など今後実行していく(していきたい)仕掛けの話も面白かったです。
関連記事はこちら。
クリエイティブシティって何だよ?「創造都市論-what the hell is "creative city"!?」(前編) - 空き家の活用で社会的課題を解決するブログ