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なぜ日本の中古住宅の市場性は乏しいのか

 先日、刊行記念トークイベントも開かれた「世界の空き家対策」の「1章  日本と海外の空き家対策最前線>1 空き家の実態>(2)空き家増加の背景」から、なぜ日本の中古住宅の市場性が乏しいのかについてまとめます。著者は富士通総研経済研究所主席研究員の米山秀隆さんです。

戦後、高度成長期に住宅の質が劣化

 空き家増加の背景として以下の4つが挙げられています。

  1. 人口減少
  2. 核家族化が進み、親世代の空き家を子どもが引き継がない
  3. 売却・賃貸化が望ましいが、住宅の質や立地で問題のある物件は市場性が乏しい
  4. 売却・賃貸化できない場合、解体されるべきだが、更地にすると土地に対する固定資産税が最大6倍に上がるため、そのまま放置しておいた方が有利

 この中で今回注目するのが3です。なぜ空き家の、つまり中古住宅の市場性が乏しくなるのかという問題です。まず、日本で戦後建てられた多くの住宅は短期間で建て替えることが前提として作られています。結果として住宅寿命が短い*1

 たとえ物件のメンテナンスをちゃんと行なっていても、それを評価して価値が高まるという中古住宅流通市場でもない。戦後から今に続く住宅市場は、作っては壊しまた作るというスクラップアンドビルドを繰り返してきました。

 戦前は棟梁が腕の立つ職人と良質な資材を調達して長持ちする住宅を作り、必要な時に必要な手入れを行い、住宅は長く使い継がれるものであったとも指摘されています。つまり戦後、高度成長期に大量に住宅供給される過程で住宅の質が劣化していったのです。住宅の質が劣化するならば当然、中古住宅流通市場で勝負できないわけです。

土地神話を背景に住宅を買う側と売る側の共犯関係が成立

 そんな質の低い住宅でも売れていた背景には、たとえ上物の価値が乏してくても地価は上がり続けるため取得しても損をすることはなく、上物は建て替えればよいと考えていたからだと指摘されています。これは土地神話が有効だった時代の話です。住宅の寿命が短く短期間で建て替わることは仕事が途切れないという意味で供給側にとっても好都合です。つまり、住宅を買う側、売る側の共犯関係が成立していたわけです。

 こうした市場構造の下では良質な中古住宅は残りにくくなり、新築住宅を志向する消費者がマジョリティになっていきました*2。バブル経済は土地の価値を不当に高め、上物である住宅の価値を不当に下げてきました。

日本人だから新築が好きなのではなく、戦後の住宅市場の構造が新築に対する志向性を強めた

 現状として日本人が新築好きであることは内閣府の世論調査*3などから事実です。

 ただし、だからといって日本人が生まれついて新築が好きということの証明にはなりません。戦後、高度成長のスクラップアンドビルドな住宅市場の構造、土地の価格は必ず値上がりするという土地神話が有効だった時代があったことなどが新築に対する志向性を強めていったと考えるのが妥当と指摘します*4。中古住宅の質を高め、それを適正に評価する金融の仕組みが育っていけば、中古住宅流通市場を拡大することが可能です。

ひたすらまち(市街地)を広げてきた都市計画

 最後に、中古住宅の市場性を阻害している要因として立地の問題、ひいては都市計画の問題が指摘されています。戦後、高度成長期の住宅不足に対応するため、まち(市街地)を広げ、新築を大量に作ってきました。しかし人口・世帯減少に向かうようになると、条件の悪い地域では住宅の引き継ぎ手がいないため空き家が増加しています。都市中心部でも郊外化の進展とともに空洞化が進み(ドーナツ化現象)、再開発の見込みのないエリアや接道要件を満たさず再建築不可物件(前面道路が建築基準法上の道路でない、接道2m未満)となるなど、条件の悪い立地にある物件の価値は低いため空き家の増加が進みます。

 これからは広がり過ぎてしまったまち(市街地)をたたむ、縮小させる都市計画が必要です。最近は「都市のスポンジ化」対策として中心市街地に都市機能や居住地を集約させるための政策が動いています。住宅の価値と立地は切っても切り離せない関係です。人口・世帯減少する時代に合った都市計画を実行していくことで中古住宅が流通していきやすくなるはずです。

 

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世界の空き家対策: 公民連携による不動産活用とエリア再生

世界の空き家対策: 公民連携による不動産活用とエリア再生

  • 作者:米山 秀隆,小林 正典,室田 昌子,小柳 春一郎,倉橋 透,周藤 利一
  • 出版社:学芸出版社
  • 発売日: 2018-08-31

*1:平成29年度住宅経済関連データ>9居住水準等の国際比較>3住宅投資等の国際比較>2住宅の利活用期間と既存住宅の流通>滅失住宅の平均築後年数の比較によると、滅失住宅の平均築後経過年数は日本32.1年、アメリカ66.6年、イギリス80.6年。

*2:平成29年度住宅経済関連データ>9居住水準等の国際比較>3住宅投資等の国際比較>2住宅の利活用期間と既存住宅の流通>既存住宅の流通シェアの比較によると、新築と中古を合わせた全住宅取引のうち中古の占める比率は日本14.7%、アメリカ83.1%、イギリス88.0%、フランス68.4%。

*3:内閣府が平成2015年10月に実施した「住生活に関する世論調査」によると、住宅を所有したいとする者の割合が74.9%(2004年に実施た前回調査である「住宅に関する世論調査」と比較すると「所有したい」(79.0%→74.9%)とする者の割合が低下し、「所有する必要はない」(12.1%→16.5%)とする者の割合が上昇している。)。住宅を購入するとしたらどのような住宅がよいと思うか聞いたところ、「新築の一戸建住宅がよい」と答えた者の割合が63.0%、「新築のマンションがよい」と答えた者の割合が10.0%。

*4:「住生活に関する世論調査」によると、住宅を購入するとしたら「新築の一戸建住宅がよい」、「新築のマンションがよい」と答えた者(1,266人)に新築の住宅がよいと思う理由を聞いたところ、「間取りやデザインが自由に選べるから」を挙げた者の割合が66.5%、「すべてが新しくて気持ちいいから」を挙げた者の割合が60.9%と高い結果となりました。現状、中古住宅をリノベーションして間取りやデザインを自由に改変させている事例は増加しています。「すべてが新しくて気持ちいいから」という回答からは漠然とした理由で新築を志向している人が多いことを表しています。