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人口増加するイギリスでは「空き家再利用から新築へ」の流れ

 2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の「第5章 イギリス 行政主導で空き家を市場に戻す」から、イギリスの中でも特にイングランドの住宅市場の特性や空き家の現状についてまとめます。著者は獨協大学経済学部教授の倉橋透さんです。以下、黒字強調は筆者によります。

人口増加しているイギリスでは「空き家再利用から新築へ」の流れ

  イギリス、もといイングランドでは移民・難民問題を背景に人口増加しています。一方で新築住宅戸数は建築規制が厳しいため、年10〜15万戸の間で推移しています。そこでイギリス政府は現在、新築住宅の供給体制づくりを進めており、「空き家再利用から新築へ」という流れが見られます。

≪1  住宅市場の特性>1  住宅需要≫

  • イングランドの住宅ストックの規模は、2016年3月時点で、持ち家1478万6千戸、民間の家主からまたは雇用に関連して借りている住宅484万7千戸、(住宅協会等政策に適合するものとして)登録された民間の供給者から借りている住宅243万戸、地方自治体の公営住宅161万2千戸、他の公的機関の持つ住宅5万7千戸、合計で2373万3千戸の住宅ストックがある*1
  • 一方、2016年の推計値でイングランドの人口は5526万8100人で増加傾向にある*2

「世界の空き家対策」(学芸出版社)151ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)151ページ
  • 近年の人口増加の背景には、移民・難民問題があると思われる
  • 2015年までは毎年50〜60万人の長期移民の流入があった
  • その後、人数は減少したにせよ、なお移民の問題はイギリスにとって大きな問題*3

≪1  住宅市場の特性>2  新築市場≫

  • 新築住宅戸数は*4年10〜15万戸の間で推移しており、 特に2009年から2014年にかけて低迷したが、これはリーマンショックや欧州債務危機の影響もあると考えられる
  • さらに、従来は計画許可により建築規制が厳しかったことも新築住宅戸数が少ないことに影響していると思われる

「世界の空き家対策」(学芸出版社)153ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)153ページ
  • 一方、イギリス政府は現在、新築住宅の供給体制づくりを進めており、2017年秋の予算「国が必要とする住宅を建築する」では、他の改革と合わせて「2020年代半ばまで、住宅供給を平均で30万戸に引き上げる」「今後5年間にわたり住宅建築のための新たな金融的な支援として150億ポンド(約2.3兆円)以上が可能になる」としている
  • 市場規模はともかく、イギリスでは新築住宅戸数が問題化しており、保守党・自由民主党の連立政権において存在していた空き家専用の政府補助金が保守党政権では廃止されたことと合わせ、「空き家再利用から新築へ」の流れが見られる

≪1  住宅市場の特性>3  流通市場≫

  • イングランドの不動産の年間取引件数を見ると*5、2007年までは高い水準であったが、2008年からは、サブプライム危機、リーマンショック、欧州債務危機の影響で低迷していた
  • 直近では回復傾向にある
  • 一方、2014年の不動産取引件数は約105万件であり、同年の新築戸数約11万8000戸とは桁違い

「世界の空き家対策」(学芸出版社)153ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)153ページ

空き家数は2008年をピークに減少を続ける

 イングランドの空き家数や空き家率は、地方自治体の課税台帳に基づいて把握されているため、厳密な意味での”空き家”ではないようです。それを踏まえてですが、空き家数は2008年をピークに減少を続けています。また、地域別に見ると、ロンドンなどの都市部に比べて北部などでは相対的に空き家数、空き家率ともに高くなっています。

≪2  空き家の現状>1  空き家の統計≫

  • 政府統計の中のイングランドの空き家数や空き家率は、地方自治体の課税台帳に基づいて把握されている
  • しかしながら、空き家問題について研究・提言している慈善団体「エンプティ・ホームズ(Empty Homes)」によれば、空き家についての公式統計は、空き家数を数えることを主目的にしていないため、限界があるとしている
  • たとえば、放置された課税対象にはならない家屋地方自治体が空き家であることを把握していない家屋等は公式統計には含まれないから
  • 日本の住宅・土地統計調査による空き家との違いを見ると、日本は標本調査であるが、イングランドは全数調査であること、日本では別荘などの二次的住宅は空き家になるが、イングランドでは原則空き家にならないなど範囲も異なる

≪2  空き家の現状>2  空き家数の推移≫

  • イングランドの空き家数は、2008年の78万戸をピークに減少を続けており、2016年は59万戸
  • 6ヵ月以上占有されておらず、家具がほとんどない状態の長期空き家数も、2008年の33万戸をピークに減少を続けており、2016年には20万戸となった
  • 空き家率は、2008年の3.5%から2016年は2.5%に低下している
  • 長期空き家率も、2004年、2008年の1.5%から2016年の0.8%に劇的に低下している

「世界の空き家対策」(学芸出版社)155ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)155ページ
  • イングランドの地域別に見ると、北部やヨークシャー=ハンバーでは高く、ロンドンやその周辺の東イングランド、南東部では低い

「世界の空き家対策」(学芸出版社)156ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)156ページ

空き家に対しての問題意識は高かった

 イギリスにおける空き家問題のシンクタンク的な団体である「エンプティ・ホームズ」は2016年、調査を行い長期空き家が集中しているエリアの特徴を導き出しました。
 また、2012年、当時の保守党・自由民主党連立政権のときの政府高官は全国空き家会議のスピーチで、空き家に対する高い問題意識を持った発言をしています。

≪2  空き家の現状>3  空き家が発生する背景・問題点>(1) 空き家が発生する背景≫

  • エンプティ・ホームズは2016年に、空き家が多い自治体、その中でも長期空き家が集中しているエリアについて調査を行い、その結果を「なぜ空き家の多い地域があるのか」としてとりまとめている
  • それによれば、比較的長期の空き家が多い自治体では、多くの場合、「家計所得が低い」「住宅価格が安い」「貧困層が多い」「1919年以前より前に建てられたテラスハウス(長屋建て住宅)が多い)」といった特徴があるとしている
  • また、自治体の中でも、長期の空き家が集中しているエリアでは、それに加えて、「反社会的行動が多い」「人口の変化が大きい、もしくは人の入れ替わりが多い」「犯罪が多い」「民間賃貸住宅が多い」等の特徴があるとしている
  • さらに、そうした地域では、持ち家の家主は売却して出ていってしまい、投資用物件の価格も安くなる
  • 人の入れ替わりが激しくなると、よりよい住宅を求める人はそこには住まない
  • 著者は、日本と比較して特筆すべきは、「反社会的行動」や「犯罪」の存在であると考える
  • イングランドは日本に比べ全国的な空き家率は大幅に低いものの、都市内の衰退地域においては空き家が集中していることは現地調査によっても確認できた
  • 自治体ごとの1人あたり家計所得と長期空き家率の関係を見ると、家計所得の低さが長期空き家率の高さの要因になることが読みとれる

「世界の空き家対策」(学芸出版社)157ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)157ページ
  • さらに、長期空き家率の背景には地域の雇用動向が関係していると考えられる
  • 長期空き家率が高かった北東部では、雇用が2008年の113万人から2017年の120.7万人に約7万人しか増えていない
  • 一方、空き家率が低かったロンドンでは同時期に雇用が428.7万人から527.8万人と約100万人増加している
  • こうした違いの背景には、イギリスの産業構造の変化がある

≪2  空き家の現状>3  空き家が発生する背景・問題点>(2) 空き家の問題点≫

  • 2012年11月26日、当時の保守党・自由民主党連立政権のドン・フォスター、住宅・コミュニティ・地方政府省政務次官は、全国空き家会議のスピーチで「空き家は目障りな存在であり、ねずみヴァンダリズム(公共物破壊)麻薬取引不法占拠売春をひきつける磁石となる。近隣の人は不快な思いをし、コミュニティはダメージを受ける。王立鑑定士協会の調査では、管理が行き届かない不動産に隣接する不動産の価格は約20%下がりうる」としている
  • 一方、ロンドンの一部の住宅価格の上昇が活発な地域では、住宅を購入して賃貸せず、また使用もせず値上がり待ちをする「買って放置(Buy to Leave)」する動きが見られるとの指摘もある
  • イングランドにおける長期空き家戸数は現在減少しており、空き家の最大の問題は、「利用可能な住宅が利用されていないこと」 

 

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  • 作者:米山 秀隆/小林 正典
  • 出版社:学芸出版社
  • 発売日: 2018年08月31日

*1:住宅・コミュニティ・地方政府省のホームページによる

*2:国家統計局の統計による

*3:他の国への長期移民(2016年)を見ると、ドイツ102万9852人、フランス37万6115人などとなっている

*4:政府統計による

*5:歳入庁の統計に基づく