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空き家を活用して新しい価値をつくる

平山洋介「住宅政策のどこが問題か〜<持家社会>の次を展望する〜」読書メモ

空き家の活用を考えるうえで、そもそも住宅政策はどのように進められてきたのか?そして今後どのように住宅政策を進めていけば良いのか?ここら辺の考えを深めるべく「住宅政策のどこが問題か〜<持家社会>の次を展望する〜」の中身を備忘録も兼ねて書き出します。同様の読書メモはこちらがより詳しいです→

平山洋介「住宅政策のどこが問題か <持家社会>の次を展望する」 : まだ東京で消耗してるの?

 

住宅政策のどこが問題か (光文社新書)

住宅政策のどこが問題か (光文社新書)

 

 

はじめに

 

  • 戦後日本を特徴づけるのは、その持家社会としての存立である。
  • 戦前の都市部では持家率は低く、住まいの主流は民営借家であった。これに対し、戦後では自己所有の住宅に住む世帯が増え、持家は住宅の主要な所有形態としての位置を占める。
  • 持家社会とは、持家が多いだけではなく、人々のマジョリティが住宅所有に価値があると判断し、持家取得をめざす社会を指す。
  • 多数の世帯が賃貸住宅から持家へ、小さな住宅から大きな住宅へ、マンションから一戸建て住宅へと住まいの「梯子」を登った。
  • 人々が持家を欲したのは、暮らしの成り立ちを支えるセキュリティを得るためである。住むための空間を所有し、持家社会に参加することは、住まいの改善と安定、家賃支出の回避、不動産資産の保有に結びつくと考えられている

 

持家社会は戦後からの現象。住まいの「梯子」を登ることで、住まいの改善と安定、家賃支出の回避、不動産資産の保有に結びつくと考えられてきた。

 

  • 「普通の人生」というような人生が実在するのかどうかという問いがあるとすれば、それへの回答は慎重さを求められる。しかし、住宅所有が普及するにつれて、雇用を確保し、結婚して子どもをもち、より広い住宅に住み替え、世帯の収入が増え、そして持家を手に入れ、資産を蓄え・・・といった経路を「普通の人生」としてイメージする人たちが増大した。
  • 住宅取得は結婚・出産・収入増などのライフイベントに関係し、暮らしの「梯子」に節目をもたらした。
  • 日本の20世紀後半において、住宅所有に向かう人たちは社会のメインストリームを形成し、その「流れ」をつくりだした。めざましい経済成長のもとで中間層が増え、持家取得の可能な世帯が増大した。大都市に向かう人口移動と世帯数の増加は、膨大な住宅需要をもたらし、住宅建設の伸長に結びついた。

 

持家取得が標準的なライフコースとして捉えられていた。住宅取得は暮らしの「梯子」の重要な節目(目標?)になった。経済成長のもと「中間層」が増え、持家取得が可能な世帯が増大した。人口・世帯増加は膨大な住宅需要をもたらし住宅建設の伸長につながった。

 

  • 持家社会の組み立てを知るには、その形成において住宅システムの制度が担った役割をみる必要がある。(中略)住宅の商品化を受け入れ、あるいは推し進め、そして中間層を住宅所有に向かわせるには、そのためのシステムの準備が必要になる。
  • 経済成長は持家社会の前提を形成し、しかし持家社会は経済成長の必然の産物ではない。住宅所有の普及という現象は、経済法則の「自然現象」とみるべきではなく、どのような住宅システムを設計するのかという社会的な選択の問題に関わっていると考える必要がある。

 

中間層を住宅所有に向かわせたシステムは、経済法則の自然現象ではなく、社会的な選択の問題。

 

  • 住宅システムを編成する主力の一つは、政府セクターである。戦後社会では住宅政策の規模が拡大し、住宅問題が公共政策の対象事項である度合いが高まった。住まいの状況に対する政府介入の影響力は増大し、「住宅問題」は「住宅政策のあり方の問題」に転換した。
  • 住宅の供給と消費を方向付けるシステムは、政府の住宅政策をはじめとして、住宅関連の法制度、住宅と住宅ローンの市場、家族の資源、企業の福利厚生制度などの要素から成り立つ。
  • 政府は住宅政策を立案し、運営すると同時に、市場・企業・家族などの動き方に介入し、住宅システムの全体を操作しようとした。

 

住宅システムを編成する主力の一つは政府セクター。戦後は住宅問題が公共政策の対象事項である度合いが高まった。住宅問題は「住宅政策のあり方の問題」に転換した。

 

  • 日本の住宅システムは保守主義の傾向を持ち、持家社会の形成を促進した。ここでの保守主義とは、生き方の多様さを中立的に支えるのではなく、「普通の人生」のモデルに沿って生きようとする人たちに支援を集中し、ライフコースの標準パターンを保全する方針を意味する。
  • 家族の「梯子」において結婚して子どもを育て、仕事の「梯子」では安定した雇用と所得を確保し、住まいの「梯子」を登って持家を取得する、というパターンが「普通の人生」を定義づけ、住宅システムによる援助の対象となった。

 

日本の住宅システムは「普通の人生」のモデルに沿って生きようとする人たちに支援を集中する「保守主義」の傾向を持っている。

 

  • 戦後日本の福祉国家は、住まいに関わる普遍的な社会権という概念に関心を示さず、 住宅保障の領域では限定的な役割しか果たさなかった。政府の住宅政策は中間層の持家取得促進に傾き、低所得者のための住宅供給は微量のままであった。
  • めざされたのは、経済が拡大し、中間層が増え、持家が増加し、世帯の保有資産が増え、そしてメインストリームがいっそう拡大する、という道筋の敷設である。

 

住まいの「社会権」としての住宅保障よりも政府の住宅政策は中間層の持家取得促進に傾むいた。

 

  • 持家社会は不変ではありえない。(中略)バブル経済の発生・破裂によって住宅価格の暴騰と急落が経験された。キャピタルゲインを生んでいた持家は膨大なキャピタルロスを発生させ、資産としての持家に対する信頼は減退した。 【経済成長の停滞】
  • 住宅ローンの返済負担は増大し、住宅所有の達成と維持が容易ではない世帯が増えている。【住宅市場の不安定化】
  • 人口構成の少子・高齢化、初婚年齢の上昇、未婚と離婚の増大、単身者率の上昇などは家族形成のあり方を揺るがしている。【結婚と家族の変容】
  • 労働市場の変容によって不安定かつ低賃金の雇用が増え、適切な住宅を確保できない世帯が増大した。【労働市場の流動化】
  • 住まいと家族・仕事の「梯子」はぐらつき、社会標準のライフコースを歩む人たちは減少する一方である。

 

持家社会の普遍性にぐらつきが見えている。いわゆる社会標準のライフコースは過去のものになりつつある。

 

  • 現代社会を特徴付けるのは、暮らしの条件の不確実さである。(中略)20世紀後半の福祉国家はライフコースの社会標準を前提とし、予測可能性の高いリスクに対処しようとした。しかし、増えているのは予見困難な危険である。市場経済の不安定さが暮らしを取り囲み、労働市場の流動化によって突然の失業と収入減少が発生する。

 

市場経済の不安定さ、労働市場の流動化などリスクが新たに増大している。

 

  • 持家社会をどのように理解し、住宅システムをどのように改善すべきなのか、という問題を考える必要が高まっている。 (中略)しかし、持家と住宅ローンの市場から閉め出される人たちは数多い。
  • 持家を取得したグループにとっては、住宅取得はセキュリティの完璧さを意味せず、住まいの所有それ自体がリスクに転化することがある。住宅ローンの返済の困難、住宅資産の価値下落、住宅建築の老朽などは、住宅所有の不完全さを表している。

 

暮らしの条件は不確実。持家に依存する世帯、住宅所有にアクセスできない世帯の存在。しかし、住宅所有が暮らしのセキュリティを保障するとは限らないという矛盾が現れている。

 

  • 保守主義の住宅システムは標準パターンのライフコースばかりを支援し、それ以外のパターンに関心を示さない。ネオリベラルの政策転換は住宅システムを市場経済に委ね、住まいの条件をより不安定にした。
  • 経済の勢いが落ち、人口構成と家族が変化し、そして多種のリスクが増殖するなかで、保守主義と新自由主義を合体させたシステムの根拠はすでに弱まっている。
  • 人生の「かたち」の変化を認識し、社会の変容に向き合い、暮らしの軌道を整え直すには、新たな住宅システムの構想が不可避になる。

 

保守主義と新自由主義を合体させた住宅システムから現代のシステムに整え直す(アップデートする)必要がある。

 

(つづく)次回はデータもメモっていくのでより実証的な話になると思う。