空き家の活用で社会的課題を解決するブログ

空き家を活用することで新しい価値を生み出し、社会的課題解決へつなげる好循環をつくるために書いているブログです。

未利用不動産を市場に戻すランドバンク

 2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の「第2章 アメリカ 空き家の発生を抑える不動産流通システム」から、アメリカの未利用不動産を市場に戻す取組であるランドバンクについてまとめます。著者は一般財団法人不動産適正取引推進機構研究理事兼調査研究部長の小林正典さんです。以下、黒字強調は筆者によります。

ランドバンクは公的な媒介組織

 未利用不動産を市場に戻すランドバンクの特徴として、公的な媒介組織であることが挙げられます。この点、似ている取組として前回まとめたコミュニティ・ランド・トラストがありますが、こちらは必ずしも法的根拠に基づかない組織ですので、ランドバンクとの大きな違いとなります。

≪4  ランドバンクー未利用不動産を市場に戻す>1  行政と連携した組織と運営≫

  • 「ランドバンク」とは、何らかの理由で有効活用されなくなった不動産を、①行政が関わる非営利組織が取得・保有しながら、②不動産に関わる法的・経済的な障壁を整理し、③地域のニーズに合った形で市場に戻し、保全することを目的とする公的な媒介組織 

「世界の空き家対策」(学芸出版社)66ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)66ページ
  • 1971年、セントルイス市でアメリカ初のランドバンクが設立された
  • 郊外へのスプロール化都市中心部の衰退問題(インナーシティ問題)を抱えている地域を中心にその数は増えていった
  • 現在、12の州で120を超えるランドバンクが設立されている

拡大してきたランドバンクの対象不動産

 ランドバンク黎明期は対象となる不動産は滞納税のある不動産に限られていました。しかしその後、製造業の衰退や人口減少に伴う空き家問題の深刻化に直面したことで州レベルで法制化が進み、90日以上空き家状態にある不動産も対象となるなど、着実に重要を増してきています。

  • 住宅を主な対象とするランドバンクは、以下の3つの世代に分類される
  • ①1970年代から90年代に設立された第一世代のランドバンク:滞納税のある不動産の一部を取得・管理することにより一定の役割を果たしてきたが、税免除と法制度の連携が進まず、限られた財源での運用によって限定的な役割にとどまっていた
  • ②2000年代に設立された第二世代のランドバンク:2002年にミシガン州ジェネシー群に設立されたランドバンクと2008年にオハイオ州カヤホガ群に設立されたランドバンクであり、ランドバンク・ブームの火付け役にもなった
  • 製造業の衰退、人口減少に伴う空き家問題が深刻化したことを受けて州レベルで法制化が進み、ランドバンクの機能は大きく進展した
  • 1999年のミシガン州の不動産抵当権実行関連法の改正により、固定資産税を滞納している不動産を群が一括して取得することが可能に
  • 2004年にはミシガン州法が改正され、滞納税のある不動産の手続きとランドバンクによる不動産取得を一体で行い、市場ニーズに合わせた売却や管理が可能になった
  • ③2010年以降に設立された第三世代のランドバンク:2007年のサブプライムローン問題を経て、2008年に住宅都市開発省により近隣安定化プログラム(NSP)が創設される
  • 滞納税のある不動産とともに90日以上空き家状態にある不動産も取得の対象となる
  • そのための予算として39億ドル(約4295億円)以上が連邦政府から州や自治体に配分された
  • ランドバンクの設立にも補助金が割り当てられ、加えて連邦政府により設立書式・手続きガイド等も整備され、ランドバンクの設立を促進する環境が整えられた

「世界の空き家対策」(学芸出版社)66ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)66ページ

≪4  ランドバンクー未利用不動産を市場に戻す>2  各州のランドバンクの比較≫

  • 2014年までにランドバンクを導入した取組を比較すると、滞納税のある不動産を取得し、建物の解体・開発を行うとともに、権利関係を整理することで、保険が付与できる市場性のある不動産として再び流通させるというランドバンクの共通の機能が見てとれる

「世界の空き家対策」(学芸出版社)69ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)69ページ
  • 主要な財源は再生不動産の売却益リース料
  • 加えて寄付補助金等で得た収入により運営されている
  • 空き家対策としては、2010年前後にオハイオ州およびニューヨーク州において滞納税のある不動産以外の空き家・放棄不動産の取得を認める動きが起こり、その動きはここ数年で各州に広がりつつある

「世界の空き家対策」(学芸出版社)69ページ

「世界の空き家対策」(学芸出版社)69ページ

収益を上げることの難しさ

 もともと何らかの理由で未利用となってしまった不動産を市場に戻す取組のため、そんなに簡単に収益性を上げるのは難しいのが実情です。再販した不動産の売却・賃貸で得られる収入は全体の約4割、収入の過半は連邦政府や州政府の補助金で支えられています。

 ≪4  ランドバンクー未利用不動産を市場に戻す>3  ミシガン州ジェネシー群ランドバンク公社による住宅再生≫

  • 「ミシガン州ジェネシー群ランドバンク公社」(以下、GCLBA)は、州内で最も古いランドバンク
  • ジェネシー群では老朽化した住宅を積極的に解体する取り組みとして荒廃撤廃キャンペーンを展開している
  • 先述の近隣安定化プログラム等の合計3500万ドル(約40億円)の補助金を活用して、2015年までに4400を超える建物を解体した
  • また、取得後販売した不動産数は2万6000にのぼり、そのうちの95%が住宅
  • 商業不動産も約500カ所にのぼる
  • この中には、ゼネラルモーターズの工場跡地を取得し、複合ビルを開発して販売した実績もある
  • こうしてGCLBAは空き家や管理者不在の老朽建物の撤去を通じて地域の住宅市場の安定化に貢献し、その活動実績が全米にランドバンクが広がる契機をつくった
  • 一方、再販した不動産の売却・賃貸で得られる収入は全体の約4割にとどまっており、収入の過半は連邦政府・州政府の補助金で支えられている

 

「世界の空き家対策」に関する他の記事↓
韓国の地方自治体の空き家対策(ソウル、釜山、仁川、大邱)
韓国で進む空き家整備事業と小規模住宅整備事業
空き家は都市衰退の結果として発生し都市衰退を引き起こす原因として作用する
リバプール市の空き家対策
政権交代の度に空き家対策の予算が削られつつも強制力を伴う空き家対策は充実しているイギリス
人口増加するイギリスでは「空き家再利用から新築へ」の流れ 
空き家問題のカギは所有者にある
フランスの多様な空き家対策(空き家税、徴発、一時的住宅契約など)
フランスでも空き家が増えている
ドイツから学ぶべきなのは住宅市場と住宅政策の連携のプロセス
行政と住宅市場関係者がアライアンスを組んで住宅政策のPDCAを回すドイツ
ドイツの空き家対策(管理不全対策、利用不全対策、エリア再生策)
ドイツでは日本の3分の1しか新築住宅を建てない
未利用不動産を市場に戻すランドバンク
地域住民が空き地を取得・再生してエリアの価値を高めるコミュニティ・ランド・トラスト
アメリカの不動産流通システムの実情(分業、不動産データベース、住宅検査など) 
アメリカでも若い世代ほど持ち家志向は低下している
なぜ日本の中古住宅の市場性は乏しいのか
「世界の空き家対策」刊行記念トークイベントに行ってきた

世界の空き家対策

世界の空き家対策

  • 作者:米山 秀隆/小林 正典
  • 出版社:学芸出版社
  • 発売日: 2018年08月31日