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空き家を活用して新しい価値をつくる

老朽空き家に対する2011〜15年度の全ての代執行のうち62%は全額未回収な件

行政代執行までの流れ

前回記事では特定空き家予備軍が、多く見積もって全国に約105万戸(全国の空き家約820万戸の約13%)であることを書きました。特定空き家に指定されると、最初に助言・指導があり、次に勧告がなされ、それでも適切な管理や修繕といった対応が取られないと、命令という行政処分がなされ、それにも違反すれば最悪、行政代執行(強制撤去)が発動します。 

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(画像引用元:特定空き家とは?-NPO法人 空家・空地管理センター

代執行の半分以上に公費(税金)が使われている

ここで問題なのが解体費用です。一体誰が負担するのか。当然、空き家所有者なのですが、そもそも管理の意思を失ってしまっている状態なので、経済的に資力がなかったり、遠方に姿をくらませていたり、相続放棄をしていたりと、空き家所有者に解体費用を払ってもらうことが難しいケースも多いです。というのも、2011〜15年度に実施された代執行は29件ありますが、そのうち18件(62%)は全額未回収、つまり公費(税金)による解体が想定されているのです。

代執行は、空家法施行以前では、空き家管理条例や建築基準法で行われた例があるが、それらを含む2011〜15年度のすべての代執行(含む略式代執行)の実績は29件にのぼる(図表4)。うち18件(62%)が全額未回収となっている。その理由としては経済的に支払い困難8件、所有者不明・相続放棄10 件 となっている。除却費用は29 件の総額で約6,500万円に達し、うち未回収は約5,000万円 (77%)となっている。

所有者不明の土地が提起する問題─除却費用の事前徴収と利用権管理の必要性─P6

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(画像引用元:所有者不明の土地が提起する問題─除却費用の事前徴収と利用権管理の必要性─P7

解体費用を不動産所有者から事前徴収する仕組みの導入を

自由経済に則って住宅を建設しているわけですから、解体も当然所有者が賄うのは当然です。住まなくなった、売れなくなった、貸せなくなったからといって、放置し続け必要な管理もせず、近隣に悪影響を及ぼすようにまでなった空き家の解体費用を公費で賄うのは本末転倒です。そのため、富士通総研主席研究員の米山秀隆さんは、必ず空き家所有者が解体費用を負担することになるよう、毎年の固定資産税に、解体費用に充てる分を少しずつ上乗せして徴収していく仕組みの導入を提案されています。これは現実的に、老朽空き家を数多く抱えている自治体にとってはリアリティのある方策だと思います。

今後については、必ず所有者が負担することになるよう、たとえば毎年の固定資産税に、撤去費に充てる分を少しずつ上乗せして徴収していく仕組みも考えられよう。固定資産税が徴収されている限り、最終的に相続放棄されたり所有者がわからなくなったりしたとしても、撤去費用の心配はなくなる。自ら撤去する場合は、積み立てた撤去費が還付される仕組みにすればよい。

空き家の撤去費用は、本来は所有者が負担すべき。しかし現状では、公費投入がなされている | ビジネスジャーナル

賃貸マンション・アパートや分譲マンションの空き家問題にも

そして米山さんは、賃貸マンション・アパートや分譲マンションといった共同住宅の空き家問題にも、この方策は有効であると述べられています。共同住宅の割合が多い都市部の自治体にとって、目をそらすことが出来ない問題です。

除却費用を事前徴収する考え方は突飛なようにも見えるが、自動車では購入時にリサイクル費用が徴収される形ですでに実現されている。人口減少で次の使い手が現れず、危険な物件が放置される可能性が今後ますます高まることを見据え、導入を検討すべきである。 

所有者不明の土地が提起する問題─除却費用の事前徴収と利用権管理の必要性─P7

松下啓一さんのブログでも同じような提案がありました。空き家がこれだけ増え続けている時代に、デポジット付きの住宅販売のような解体費用を積み立てる仕組みは今後ますます必要になります。

何らかのルールを作らないと、パニックになるが、一つのアイディアは、デポジット付きの住宅(マンション)販売だろう。自動車のデポジットと同じで、処理コストを上乗せしてマンションを販売し、その費用をプールして保険的運用するものである(空き家処理コストも入れて販売するというのもその派生である)。
デポジットは、空き缶からスタートして、家電、自動車まで広がってきた。市役所のいたときに、ドイツやEUに調査に行ったことが思い出されるが、いよいよ不動産も射程に入ってきたと思うと、この20年のスピードに驚くばかりである。

☆土地所有権の放棄は許されるか(三浦半島) - 松下啓一 自治・政策・まちづくり