- 2040年に北海道の約9割の面積の土地が所有者不明に?
- 昨年1年間で1800億円の経済的損失
- 災害復旧、耕作放棄地の解消、空き家対策が進まない
- 社会の変化と制度の乖離
- 土地の所有権の見方を変えるきっかけに
- まとめ
2040年に北海道の約9割の面積の土地が所有者不明に?
所有者不明土地問題研究会は2017年10月26日、所有者不明土地の増加の将来推計と経済的損失の試算を公表しました。まず所有者不明土地の面積ですが、今年6月に同研究会は、その面積が九州に相当する410万ヘクタールに上ると推計を明らかにしていました。
そして今回の推計では、2040年時点で所有者不明土地が全国で約720万ヘクタールに達する可能性があるとしており、これは北海道(約780万ヘクタール)の約9割の広さにまで及びます。
今回は所有者不明の土地に関する対策を取らないことを前提に、20~40年に生じる土地の相続で約3割が未登記になるとみて、40年は16年比で310万ヘクタール増加すると見込んだ。
昨年1年間で1800億円の経済的損失
次に所有者不明土地が及ぼす経済的損失ですが、昨年1年間で少なくとも1800億円に上ると試算されました。さらに、所有者不明土地が2040年まで放置されると経済的損失は年間3100億円に膨らむとも予測されています。
(画像引用元:所有者不明土地 経済損失は年1800億円に | NHKニュース)
災害復旧、耕作放棄地の解消、空き家対策が進まない
では所有者不明土地が増えることの問題とは何でしょうか。近年もっともこの問題が大規模に現れたのは2011年3月に起きた東日本大震災の被災地においてです。
復興のための高台移転や防潮堤の用地の取得では、土地の権利関係の調整や相続人の追跡に膨大な時間を要し、災害公営住宅の整備が大幅に遅れるなど、その影響が長期にわたり続いた。
農地集積や耕作放棄地の解消の支障にもなっています。
この問題は、国が農地集積や耕作放棄地の解消の解消を図ることを目的に2014年4月からスタートした農地中間管理機構の取り組みでも支障となっている。
農地を機構へ貸し付ける際は、相続登記済みであることが原則となっている。そのため、長年登記が放置されてきた農地では、権利関係の調整に手間取る例が各地で報告されている。
そして言わずもがな、老朽空き家の適正管理や活用がなかな前進しないという問題が発生します。
大分県別府市では、去年、老朽化したアパートの取り壊しが行われました。新しい法律では、倒壊の危険がある空き家を自治体が代わりに撤去できることになりました。ただ、国土交通省が去年10月までにまとめたところでは、この制度で空き家が取り壊されたのは、全国で18件だそうです。
専門家によると、やはり他人の財産を強制的に処分することになりますから、行政としては最後の手段にしたいと考えるところが多いようです。「『所有者不明』土地・建物~防災に支障?」(くらし☆解説) | くらし☆解説 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス
社会の変化と制度の乖離
東京財団研究員兼政策プロデューサーの吉原祥子さんによると、土地の「所有者不明化」がなぜ起こるか、その背景には「土地制度が人口減少・高齢化という社会変化に対応できていない、という根本課題がある」と指摘されています。 日本では土地の所有・利用実態を把握する情報基盤が不十分であること、不動産登記簿や固定資産税課税台帳、農地台帳など目的別に各種台帳は作成されているが、その内容や精度は様々で一元的に情報を把握できる仕組みがないこと、不動産登記の権利登記は任意であることなど、人口増加や高度成長を前提とした土地制度のままであるということです。詳細はこちら→「所有者不明化」問題から見える土地制度の根本課題―人口減少時代に対応した制度構築を― | 国土資源保全 | 東京財団
土地の所有権の見方を変えるきっかけに
国土交通省が設置する国土審議会土地政策分科会特別部会では2017年9月から議論が開始され、10月25日には2回目の議論がなされました。その中では、所有者不明土地についてNPOや企業が5年間、供託金を納めた上で、その土地を活用していいこうという対策案が示されました。年末までに正式に対策案をまとめ、来年の通常国会に法案を提出するつもりということで今後の議論の展開に注目です。
(画像引用元:所有者不明土地 暫定利用可にする対策案 国交省 | NHKニュース)
まとめ
土地は個人の物でもあると、同時に公共性を帯びています。つまり本来は、完全に排他的な所有権ではないはずです。ここらへん民法が関係してくるので制度改正は一筋縄ではいかないですが、民間の研究会や国土交通省の特別部会などの議論や発信をきっかけに、対策を着実に前進させていくことが重要です。