- 所有者不明土地は都市部の住宅密集地でも起こっている
- そもそも「所有者不明」とは?
- 所有者不明土地が増加する背景に土地の価値の低下
- 危険な老朽空き家の代執行→費用は公費
- 固定資産税の課税が滞る→税収減や課税の不公平感
- (1)相続登記を促す環境整備
- (2)不動産登記簿、固定資産税課税台帳、農地台帳などの情報共有化
- (3)公共的な目的のために所有者不明土地の所有権と利用権を分離
- (4)登録免許税の免除(廃止?)または減免、登記と戸籍をネットワークでつなぐ、マイナンバー、地図情報
- (5)地域住民相互がエリアの将来を考える
所有者不明土地は都市部の住宅密集地でも起こっている
今年6月に話題になっていた所有者不明土地の面積が九州を上回っているという件について、NHKのクローズアップ現代プラスで取り上げられていました。所有者不明土地は地方の問題かと思いきや、東京などの都市部、しかも住宅密集地でも起こっています。その結果、道路の拡幅工事が進まないなど住民の安全や公共事業に深刻な影響を及ぼしています。
NHKが独自にアンケート調査を行ったところ、全国の政令指定都市や東京23区で公共事業を行う際に、所有者不明土地が少なくとも700か所以上見つかったことが分かり、問題が比較的地価が高い都市部にまで広がっていることが明らかになりました。
(画像引用元:都市に広がる“所有者不明土地” あなたの実家も要注意!? - NHK クローズアップ現代+)クローズアップ現代プラスは25分という限られた時間の中で、その日のテーマに対する現状、課題、解決策がコンパクトにまとまってて、しかも放送後2、3日で文字起こしがウェブ上で公開されるのがとても良いです。
そもそも「所有者不明」とは?
土地の所有者は不動産登記簿に書かれています。しかし、所有者が亡くなってから相続登記がちゃんとされていないと、昔のままの所有者の状態のままで子供やその兄弟姉妹、さらにその子供など相続人は増え続けてしまい、いざその土地を売却などしたいときに、相続人全員に同意を得る必要が出てくる。この手間は相当なものだと容易に想像つきます。なお、2017年9月12日に第1回が開催された国土交通省の土地政策分科会特別部会の配布資料によると、「所有者不明土地」とは、「不動登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」をいいます。
(画像引用元:審議会・委員会等:国土審議会土地政策分科会特別部会(第1回)配付資料 - 国土交通省資料3 所有者不明土地を取り巻く状況と課題についてP.1)
所有者不明土地が増加する背景に土地の価値の低下
なぜ所有者不明土地が増加しているのか。それは端的に言えば土地の価値の低下です。実家の土地を相続しても、すでに都市部で持ち家に住んでいる人にとっては扱いが難しい。しかも売るに売れないし、役所に寄付しようにも断られる。活用も売却もできないなら最低10万円はかかる相続登記の手続きさえもするインセンティブは働きません。つまり、資産価値があるからこそ登記をして所有権を主張するわけですが、資産価値がなくなれば、必然的に手間も費用もかかる登記をするインセンティブは失せてしまうわけです。(参考:民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)|毎日3分民法解説メルマガ)
危険な老朽空き家の代執行→費用は公費
所有者不明土地が増加することで悪影響を及ぼすことの一つに、危険な老朽空き家に対する適正管理や代執行といった働きかけができないことがあります(所有者不明なので)。空き家対策特別措置法が2015年5月に施行されて、行政による危険な老朽空き家に対し助言、指導、勧告、命令、代執行といった権限が加わったのですが、所有者がわからないことにはらちがあかず、代執行(行政による強制撤去)が行われても、費用は結局公費で支払われることになってしまっています(代執行は本来は所有者が費用を支払うべきもの)。
(画像引用元:「空き家急増で浮上した新たな課題ー解体費用の負担、所有権放棄ルール、利用優先の住宅供給ー」米山秀隆 国づくりと研修2017年9月)法施行後、確実に措置は増えていますが、代執行しかり略式代執行には費用を所有者からちゃんと回収できるのかが大きな問題になっています。
固定資産税の課税が滞る→税収減や課税の不公平感
また、所有者不明ということで固定資産税などの課税が滞ってしまいます。番組では、神戸市の事例が紹介されていて、宛先不明などで納税者に届けられなかった納税通知書が400〜500件になってしまっているそうです。これでは税収減につながるばかりか、課税の三原則(公平・中立・簡素)である公平性が確保されません。
(1)相続登記を促す環境整備
ここからは解決策です。土地政策分科会部会長を務められている山野目章夫教授がまずおっしゃるのは、相続登記を促す環境整備です。相続登記を義務にすればいいじゃないかという安易な解決の方向ではなく、いかにスムーズに自然なかたちで相続登記の手続きを行えるような環境を作っていくことが重要だというご指摘はまさにその通りだと思います。
(2)不動産登記簿、固定資産税課税台帳、農地台帳などの情報共有化
次に所有者不明土地問題研究会座長の増田寛也さんがおっしゃるのは、管理主体がそれぞれ異なる登記簿や固定資産税台帳、農地台帳のデータをそれぞれの部局が情報共有化する仕組みの必要性です。これもとても大事です。
(3)公共的な目的のために所有者不明土地の所有権と利用権を分離
山野目教授と増田さん、両者ともおっしゃっていたのが、防災など公共的な目的のために所有者不明土地の所有権はそのままに、利用権だけを分離するというもの。ただしこれは、公共性の見極めが課題あるとご指摘されています。
(4)登録免許税の免除(廃止?)または減免、登記と戸籍をネットワークでつなぐ、マイナンバー、地図情報
他にも山野目教授からは、相続登記の際に必要になる登録免許税の免除(廃止?)または減免という対策はすぐできるとありました。確かにわりと簡単にできそうな対策です。さらに登記と戸籍をネットワーク(オンライン?)でつなぐ(つまり、死亡届が出されたら自動的に登記のほうの情報にも同期される)という話もありました。そして、増田さんも、マイナンバー情報の活用や地図情報を相互にリンクさせるシステムの必要性を指摘されていました。
山野目先生のおっしゃる『登録免許税の減免』は現実的かつすぐできる制度改正、『戸籍と登記をつなぐ』は役所や法務局がバラバラに保有・管理している住民情報を同期させる話。情報を相互にリンクさせることが重要https://t.co/Ofa2jWYVOr pic.twitter.com/vIPU2HGKqY
— 空き家ブロガー (@cbwinwin) 2017年9月28日
(5)地域住民相互がエリアの将来を考える
最後にお二人がおっしゃって締めくくっていたのが、地域のみんなで考えていく仕組みの重要性です。所有者不明土地問題を個人の問題として捉えるのではなく、地域というエリア単位で考える、しかも地域住民相互で将来のビジョンを考えることが大事です。