2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の中から、アメリカ、ドイツ、フランス、そしてイギリスの所有者不明土地対策についてまとめます。以下、黒字強調は筆者によります。
アメリカ>所有者不明土地問題を防ぐしくみ
アメリカの不動産登記制度としては、不動産の権原に関わる書面を州の登録所に保存することなどにより所有者不明土地問題を防ぐ仕組みを構築しています。
- アメリカの不動産登記制度は、証書登録制度が広く普及しており、一部の州では、証書登録制度とトレンズ・システムまたはタイトル・レジストレーション・システムが並存している
- 不動産の権原(title)に関わる書面を州の登録所に保存することで不動産についての権利の得失、変更に関する証拠が残されるが、権利関係が複雑な大都市では権原の調査が繁雑となり、権原調査を専門とする弁護士の過誤等により依頼者(買主)が損害を被るという問題が発生した
- そこで、1876年に権原保険会社が登場し、過去に集めた公の記録を補充するとともに、依頼者(所有者)の権原について保険証券を発行して券面額にいたるまで付保するしくみが全米各地で普及した
- こうした制度によって所有者不明土地問題を防ぐしくみが整備されている
ドイツ>土地の所有者が不明になることを防ぐ登記
ドイツでは土地登記が義務ということや、土地登記所が相続人に訂正登記申請書の提出を義務づけることができるなど、土地の権利関係が不明確にならないための仕組みが構築されています。
- 不動産登記については、民法と土地登記法に規定があり、登記によって権利の変更が成立する
- 土地登記は義務となっており、合意に基づいて土地登記簿で変更登記をしなければ権利が変動しない
- 権利の変更が問題化するのは遺産相続時であるが、相続人などが変更登記をしない場合は、土地登記所が相続人に対して訂正登記申請書の提出を義務づけることができる
- また、土地登記所は、遺産相続人について遺言検認裁判所に決定することを要求できる
- 遺言検認裁判所は、土地が遺産相続の対象となった場合や、相続証明書の交付や相続契約を開示した場合に、相続や相続人に関する情報を土地登記所に通知しなければならない
- さらに、登記内容が混乱していたり曖昧な場合、土地登記所はそれを正すことができ、相続が決定される
- このように土地登記を義務化し、遺言検認裁判所と土地登記所が連携して情報の共有や相続に関する決定の要求と内容の是正を行うことで、土地の権利関係が不明確にならないように配慮している
フランス>所有者不明土地問題への対応
かなりの土地面積で相続登記未了があるコルシカ島を除いてフランス全土では相続登記義務や、登記専門家あである公証人の活躍により、所有者不明土地は問題化していません。
- 所有者不明土地については、コルシカ島の例外を別とすると、フランス全土では大きな問題とされていない
- フランスでは、2017年に相続登記未了対策新法が制定されたが、新法はコルシカ島だけに適用されている
- コルシカ島では、土地面積の3分の1以上について、数次(複数)世代にわたる相続登記未了がある
- この結果、100年以上前に死亡した者の所有名義が登記上に残され、日本の固定資産税に相当する既建築不動産税および未建築不動産税の「死亡者課税」が行われている
- また、不動産が多数の関係者の共有になっている場合が相当数あり、そのままでは相続人が不動産を処分することも難しい
- このため、2017年相続登記未了対策新法は、共同相続人の1人が不動産を占有している場合に、その者への単独所有化を促進する制度として、政府関連機関が書類作成を支援するなどして、取得時効を容易化する制度を規定した
- また、共有不動産の処分について、全員一致でない場合でも可能になるようにしている
- フランス全土では、所有者不明土地問題が深刻ではない理由として、相続開始後10ヵ月以内の相続登記義務(ただし、登記未了でも罰則はない)および登記専門家である公証人の活躍がある
- 特に公証人は、相続人資格・相続税務申告・相続登記のワンストップ・サービスを展開している
- コルシカ島では相続税について特殊な制度が存在したことが、相続登記未了が多い原因として指摘される
イギリス>所有者不明土地問題への対応
イギリスでも土地登記所への登記は義務。しかし、それでも登記されていない土地もあり、所有者を探すのが困難なケースもあります。権利が主張されていない土地のリストがイギリス政府のホームページで公開されています。
(1)イングランドの登記制度
- イギリスでは、土地・家屋を購入、贈与、相続、交換で取得した、抵当に入れた場合には、土地登記所に登記しなければならない
- 土地登記所は、ほとんどの不動産について、所有者の氏名、不動産に支払われた価格、境界図面を含めてオンライン情報として公示する
- 価格を登記する点、登記が義務である点は日本と異なる
- 登記されている土地、家屋については、登記情報、図面、洪水リスクがオンラインでダウンロードできる(この点は日本の登記情報提供サービスと同様)
(2)登記されていない土地
- 土地登記所のブログ「登記されていない土地の所有者を捜す」(2018年2月5日)によると、イングランド、ウェールズで、土地登記所に登記された、土地・家屋の所有権は2500万件を超えており、土地・家屋の85%以上は登記されている
- 登記されていない15%の土地の所有者を捜すのは困難を極めるため、土地登記所では以下に挙げるような捜索方法を挙げている
- 近隣の人や隣接する土地所有者に所有者を聞いてみる
- 地元の住人に所有者を知っている人を聞いてみる
- 地元のパブや郵便局など人々がよく利用する施設で聞いてみる
- 登記されていない不動産に隣接する登記された不動産について調べてみる
- 自治体の記録を調べる
(3)権利が主張されていない土地
- 登記されていない土地以外にも、所有者が亡くなった遺言書がなく家族もわからない土地は、所有者のいない土地として政府に渡される
- こうした土地で前の所有者がわかるもののリストが、イギリス政府のホームページ上で公開されている
- 親族は権利をチェックしたうえで、一定の手続きに従って権利を主張できる
一方、日本は?
一方、日本では増田寛也元総務相が座長を務める「所有者不明土地問題研究会II」が2019年1月25日に最終報告を公表し、土地を放棄したい人と土地を活用したい人をマッチングしたり、当面活用が見込めない土地を所有者に代わって管理したりする2つの組織の設置を促しました。
具体的な対処は2つ。一つが土地を放棄したい所有者と、活用を望む事業者とのマッチングを通じた土地活用だ。NPOなど「公的色彩を持った機関」を業務の担い手として想定し、所有者から手数料を徴収して業務を機能させる。
(中略)
もう一つの仕組みは当面の活用が見込めない土地の管理だ。受け皿の組織が所有者から手数料を受け取り、そのお金で土地の手入れや管理をする。自治体や国との間で受け入れの調整もする。
同時並行している「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」や「国土調査のあり方に関する検討小委員会」の議論も重要です。