空き家の所有権は放棄できる?
前回の記事に引き続き、空き家の所有権についてです。国土交通政策研究所の機関誌PRI Review 61号(2016年夏季)に興味深い論文がありました。
空き家の現状とそれをとりまく制度の状況について(その2)<PDF>
こちらの論文の最後の部分に「補論 不動産財産権の放棄について」という5ページほどの考察がありまして、結論から言うと現在の法制度上、空き家の所有権放棄は現実的に考えて無理っぽいです。
不動産の所有権放棄はできないのが通説
民法239条では無主物の帰属を定めていて、その2項は「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」と定められていますが、現実的に考えて二束三文の、しかも崩落の危険があったりする老朽化した不動産(ここでは空き家ということで話を進めます)を管理するコストがかかるからという理由などで、国に面倒見てもらおうということは無理があります。「補論 不動産財産権の放棄について」の中では、
通説は、不動産の所有権を放棄できるか否かについては、民法に明文の規定がなく、はっきりしないというものだ。また、もっとも、物件の放棄により用益物権者等のその上の権利者が害される場合はできないとしている。(我妻栄、鈴木禄彌)
PRI Review 61号(2016年夏季)P.105
ということで、不動産の所有権放棄の可否ははっきりしないというのが通説となっています。
行政実例でも同じ
実際の実例もあります。崖地の維持補修の負担に耐えられなくなった神社が、土地の所有権を放棄して、国に帰属させようとして法務省に照会回答を行ったケースです。
昭和41年8月27日民事甲第1953号民事局長回答
(略)その所有権を放棄し国に帰属せしめ、国の資力によって危険防止を計る事が最善であろうと思料した様な次第でありますので、かかる件に関し次の二点について御照会致します。
一、不動産(土地)所有権の放棄は、所有権者から一方的にできるか。
二、もし所有権放棄が可能であれば、その登記上の手続方法はどのようにするか。
(回答)標記の件については、左記のとおり回答いたします。
第一項 所問の場合は、所有権の放棄はできない。
第二項 前項により了知されたい。
所問の場合、ということなので、一概に全ての不動産の所有権の放棄が不可能なわけではないという余地を感じます。しかし実際は、多額の費用を要する崖地の管理を国に押し付けて、自らの債務を逃れようとする行為は、民法90条の公序良俗に反する行為などとも見られるわけです。
参考記事:【無主の不動産→国庫帰属|不動産の所有権放棄は現実的にはできない傾向】 | 『空き家』放置問題 | 東京・埼玉の理系弁護士
国や自治体に寄付する?
では寄付という形ならどうか?ですが、これも考え方は同じで財務省のウェブサイトでは、あまり前向きではありません。
行政目的で使用する予定のない土地等の寄付を受けることには合理性がなく、これを受け入れることはできないと思われます。
しかし、ちょっとこれは寄付ではないですが、実質的に役立つ制度として、東京都文京区では2014年から空き家対策事業として、1件につき最大に200万円の解体費用を補助する制度を設けています。そして区の補助金で解体した空き家の跡地を区が10年間無性で借り上げ、地域住民のための憩いの広場や消火用器具置き場などとして役立てているのです。跡地利用はこちらから紹介されています。
文京区では同事業を始めるにあたり、「どんな跡地利用をしたら、区民のためになるか?」といった意見を庁内から募集しました。喫煙所やゴミの積替場といった意見も出ましたが、現在は地域の消火装置を設置した防災用地や、ベンチ等を設置した“憩いの広場”として活用しています。これまで、同事業で3件の空き家が除去されて、“広場”に転換されました。
築56年の老朽空き家を解体し、跡地が地域の憩いの場に生まれ変わっています。
<Before>
<After>
(画像引用元)
空き家の寄付制度が整う?
今の所、各自治体によって空き家を寄付できるかはまちまちです(概ね寄付できないほうが多い感じ)が、国土交通省では新しい動きが始まっています。
国土交通省は4日、不要になった空き家を、所有者が自治体などに寄付できる仕組み作りに乗り出す方針を固めた。相続後に管理できず放置された空き家は全国で増加しており、防災や景観への悪影響が指摘されている。国交省は空き家情報の全国一元化も併せて進め、物件の再流通や民間の利用促進を図る。
空き家の寄付の制度設計に向けた調査費用を2017年度予算の概算要求に盛り込むそうです。 NPOやソーシャルビジネス事業者の活動場所として使って欲しい、など空き家を寄付することで社会貢献や新しいビジネスの手助けになれば素晴らしいです。例えば世田谷区では一般財団法人世田谷トラストまちづくりが「地域共生のいえ」という事業を展開していて、空き家を地域活動拠点として提供してもらっている事例もあります。
(画像引用元)