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空き家を活用して新しい価値をつくる

国家と個人の間にある中間的な存在と独立系メディアの役割【NewsX2018年末特番レポート】

 個性的なメディアと日替わりでコラボする多視点・多メディア連動型のニュース番組「NewsX」の2018年末特番のレポートをお届けします。初めて月火木金のMC4人が勢揃いし、2018年を象徴するキーワードや出来事を総括しました(2018年12月9日に渋谷ヒカリエにて公開収録され、27日にdTVチャンネル他にて放送されました)。

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利他的なミレニアル世代に一縷の希望

 2018年がどのような1年だったか、事前に用意していた手元の小さい黒板にキーワードを書いてもらい、それを発表しながらお話が進んでいきました。まず始めにBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子さんからは「Share」というキーワードが出ました。シェアリングエコノミーという文脈で非常に広がった年でもあるけれど、1980〜1995年生まれのミレニアル世代の中でも特に20代の価値観がとても利他的になっている、とおっしゃいます。一人勝ちしたくない、メイクマネーでは動かない、幸せや豊かさをみんなでシェアしたいと考えている20代が増えています。不安定化してあまり明るい話題がない世の中で、彼ら彼女らに一縷の希望を持っている、と浜田さんは期待を込めます。

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コト消費への本質的な理解の一方で政治的な感度の薄さ

 これに対し評論家/批評誌「PLANETS」編集長の宇野常寛さんはミレニアル世代の特徴はコト消費が基本になっている、と指摘します。ブランド物で身を固めることやわかりやすくいい車に乗ることがむしろみっともないと思う背景に、インターネットの誕生とSNSの普及があります。体験を気軽にシェアできる環境が整った結果、人はモノではなくコトで動くようになりました。もともと多分バブルの頃も、人はモノ自体に感動していたのではなくてモノの生み出すことに感動していた。当時はまだ体験そのものをシェアすることができなかったためモノの力が相対的に強かった、と宇野さんはおっしゃいます。
 コト消費の価値について本質的に理解しているミレニアル世代ですが一方で、政治的な感度の薄さを宇野さんは危うさとして指摘します。
「彼らは国民国家と民主主義なんて古いシステムなんてどうだっていいと、それはむしろ自分たちの先取性の表れなんだっていう風に思っているかもしれないけれど、僕には時々それが致命的な鈍感さと弱点に見える」

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瞬間最大風速を追求するポピュリズムに意味はない

 次にハフポスト日本版 編集長の竹下隆一郎さんのキーワードは「あっという間だった」です。トランプがTwitterで発信すると、それが瞬時に広まってすぐにデモが起きる。都度、流行りのハッシュタグやキーワードが生まれ、世界が変わるように感じるけれど、いつの間にか忘れてしまっている。すべてがスピーディに進みすぎていることに竹下さんは危惧を感じます。
 これに対し宇野さんはテレビであれインターネットであれ瞬間最大風速を追求するポピュリズムに意味はない、と指摘します。アラブの春からトランプ旋風位までの間、人類は動員の革命に酔ってしまった。マスコミのトップダウンではなく、SNSによる草の根の市民運動は成立するんだという幻想から僕らは正しく覚めるべき、と宇野さんはおっしゃいます。

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国家と個人の間の中間的な存在とは 

 インターネットやSNSを良くも悪くも活用し、瞬間最大風速でアテンションを集めていくポピュリズムの手法を受けて竹下さんは、国家と個人が過剰に結びついていることを問題視します。この視点から議論は、国家と個人の間の中間的な存在の重要性を軸とした話題に移っていきます。この「中間的な存在」として浜田さんは、面白法人カヤックが実践している「鎌倉資本主義」の可能性にふれます。鎌倉だけの地域通貨や食堂といった色々なコンテンツを作ることで実験をしています。これに対して竹下さんは、鎌倉資本主義は大変キャッチーなキーワードだけれど、GAFAから程よく離れてみんなで”森で暮らそう”みたいにはなりたくない、とおっしゃいます。

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リベラルな小さい国家論が必要

 宇野さんはリベラルな小さい国家論の必要性を指摘します。これはかつて80年代に新自由主義と言われたもののアップデート版になっている。ロシア、中国、EU的なデジタル・レーニン主義orトランプ、ブレグジット的なポピュリズムに陥ってしまっているローカルな国民国家から、本当の意味でのカリフォルニアンイデオロギーを守るための小さい国家論が台頭していくべき。この文脈において宇野さんは経済人が政治化していくことが重要、とおっしゃいます。
 ジャーナリスト、市民ニュースサイト「8bitNews」代表の堀潤さんは、具体的にどういうものをイメージすればいいのか、と質問を投げかけます。これに対し宇野さんは、自分たちの小さな経済圏や新しい価値観を守るために積極的なロビイング、そしてパブリックアフェアーズという概念に注目しています。人を動員するだけでは意味がなく、コミュニティや新しい圧力団体をつくり、集まった人たちを実際に持続可能なコミットメントに巻き込んでいくことが大事です。
「ハッシュタグで一回投稿させるだけでは意味がない。そうではなくてもっと長期的な視野に立った、自分たちで自分たちの社会をつくっていくんだという運動、それも政治の言葉ではなく経済の言葉で結びついた団体みたいなものがつくられていくべき」

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新しい酒は新しい皮袋に

 正直がっかりするなぁという場面を今年何回か見た、という堀さん。政務官も参加する経産省の若手官僚が開いた誕生会に行くと、若手起業家たちが大集合して「ははーっ!」みたいな感じでお祝いしていたエピソードが語られます。あの感じ、何の希望も無いなってやっぱり思ってしまう、と堀さんは嘆きます。このエピソードに対し、宇野さんはミレニアル世代の起業家の脆弱さと文化の無さ、美意識の無さを指摘し、正しく恥をかくための「文化空間」の必要性を説きます。浜田さんは、(誕生会に)行ってもいいけれど、ロビイングしたり言うべきことを言ったりきちんと対峙すべきとおっしゃいます。
 宇野さんの言う「文化空間」とは何かを知りたい、と堀さんは問いかけます。政治的なアプローチではなく経済的なアプローチで新しい世界をつくろうという世界中で広がる流れが日本でもやっと芽生え始めているけれど、若手起業家たちが従来のメディアでコミュニケーションしているのが問題、と宇野さんは前置きした上で、NewsXのMC4人が主宰する独立系メディアが今の10倍位頑張らないといけないとおっしゃいます。
「彼らが読むもの、彼らがチェックすべきもの、彼らが気にするべき問題設定を我々のような独立系メディアがちゃんと別の言葉で言うことなんだよ。彼らのコミュニケーションツールを僕らがつくっていかなきゃいけない。新しい酒は新しい皮袋に、だよね」

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平成最後の年に全力で昭和回帰した

 宇野さんの2018年のキーワードは「昭和」です。今回の特番の公開収録の日の朝、2018年に起きた事件などをまとめてきたという宇野さんは、平成最後の年ってよく言うけれど今年は昭和回帰の年だよ、とおっしゃいます。国会で焦点になるのは未だ憲法問題、相撲やアメフトの問題も昭和の頃から批判されていたはずの日本的なマッチョで封建的なコミュニティの問題が顕在化して話題になっているだけ。とどめに万博……平成が終わろうとしているのに、全力で昭和回帰しようとしている日本。

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安田純平さんがシリアに行った理由

 最後に堀さんのキーワードは「まだまだドメ(スティック)」です。グローバルに人々がつながり経済活動が活発に行われ、私たちの生活も国内だけではなく世界の色々な所に支えられていると言う認知が広がっていながら、その向こう側にいる人たちのことについて想像力が無さすぎるのではないか、と堀さんはおっしゃいます。
 例えばジャーナリストの安田純平さんがそもそもなぜシリアに行ったのかを聞くと、ほとんどの人は答えられない。日本記者クラブで行った会見の第一声は、「まず私がなぜシリアに行ったのかからお話ししますね」と言うところから始まっているにも関わらず、こういった情報があまり報道されていない実情があります。安田さんが拘束されたイドリブ県では最大の人道危機が起こるかもしれないこと、イドリブ県の現地に残された人たちが日本語のプラカードを使って日本に向けてSNSで発信していること、パレスチナのガザではエルサレムにアメリカ大使館が正式に移転することに決まったことに対するデモが行われていること、緊張高まるガザでは毎年3.11になると凧揚げをしたり日本に向けて東日本大震災の追悼のメッセージを出し続けていること。
 最近日本では企業研修などで「SDGs」や「持続可能な開発目標」などがよく話題になります。これに対してビッグビジネスになるからという理由で講習などが人気になる。SDGsの17の目標には人権に関わるテーマがたくさん入っているけれど、むちゃくちゃ上滑りしているんじゃないか、と堀さんは指摘します。
「こんなに豊かな国に生きているのに、国内の問題にはちょっと反応するけど、海外の問題に対して何でこんなに鈍感になっているのかなぁっていうのがすごいさみしいなっていう思いがある」

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本来のグローバル化とは都市がつながること

 この国をどうするかとか、この国ならではのものをどうにかしようと思うと視野が極端に狭くなっていまう、と宇野さんは指摘します。数千万、一億人という単位のローカルな国民国家を基準に考えると色々やりづらいけれど、70億人のワールドワイドマーケットはそれなりに機能する。そして、MAX100万人位までの都市の可能性を提示します。
「グローバル化って本来、都市が勝手につながっていくことで国境が無くなることではない。都市とか地域とか中間単位のものはグローバル化と相性がいい」

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 国家と個人の間の中間的な存在としての都市とグローバルなマーケットの親和性の高さ、ミレニアル世代の起業家たちや鎌倉資本主義などの実践、彼ら彼女らのコミュニケーションツールをつくっていかなければいけない独立系メディアの役割。2019年以降の未来に向けて今回のイベントではこういった構図が見えてきました。

構成:舟橋拓 写真:岡田久輝