マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

空き家活用は”楽しくやること”が大事(首都大学東京饗庭伸先生のお話)

前回の記事で、空き家・空き地をカフェ、工房、ガーデン、オフィスといった複合的なコミュニティスペースにリノベーションしている「やぼろじ」という取組について書きました。その「やぼろじ」の誕生に当たって大きなバックアップをされているのが首都大学東京准教授の饗庭伸さんです。ちょうど今日、東京自治研究センターというところで饗庭さんのフォーラムがあるということで行ってきました。

 

テーマは「人口減少・都市縮小時代の都市計画・まちづくり」です。”人口減少”や”都市縮小”というとマイナスなイメージですが、そこまで悪いこと・まずいことではなく、現状を踏まえて前向きに取り組むことが大事という言葉が開口一番で印象的でした。

 

人口減少で何が起きるのか

 

まず人口減少と高齢化の現状についてです。人口減少とは具体的には出生数よりも死亡数の方が多く継続して減少していくことですが、2000年代後半から2010年代以降、「人口減少社会」に突入しています。 そして高齢化率は23.1%(2010年)、2020年には29.1%、2035年には33.4%に達すると推計されています

 

もはや人口は増えない、高齢化も止まらない、こうした前提を踏まえていかにうまく資源を分配するマネジメントをしていくか、都市を「たたむ」という発想を持って前向きに取り組むことが大事(また開くことも出来るから)と饗庭先生はおっしゃいます。

 

都市はどう縮小するか

 

都市の拡大期には、中心市街から外側にスプロール(虫食い)的に都市が拡大。さらに都市の縮小期には、スプロールの構造が際立ちスポンジ状に都市が小さくなる(低密になる)。これは要するにあらかじめ計画的に市街化するエリアを決めておかなかったので、無秩序に郊外への宅地化が進んだことで細分化された土地ごとに所有者がいる状態になり、個別バラバラの意思がはたらき、無秩序な市街化が進んだということだと思います。

 

そして管理がされていない空き家が増加するなど、都市がスカスカになってくる(スポンジ状になる)と地価の下落や景観、治安、衛生環境の悪化などを引き起こします。

 

住宅が不足していた戦後から高度成長期頃までは都市も成長していました。新築住宅がどんどん作られ、所得の多くが住宅に投資されてきました。しかし、現状は世帯数以上に住宅数が増えており、空き家が発生・増加しています。そんな社会状況の中、30数年かけて多額のローンをかけて住宅を買うというのはちょっと首をかしげます(メンテナンスをしっかりして資産価値を維持させるならまだしも)。住宅ストックを次の世代にどう受け継いで行くのか、オーナーさんの責任は大きいと思います。

 

政策をどう組み立てるか

 

都市再生特別措置法が改正され、容積率の緩和や税財政面の優遇措置を通じて病院や商業施設といいた施設を郊外から中心街への移転を促し、コンパクトシティを作ろうという流れが出ています。しかしこれはあくまでも”理想型”と饗庭先生はおっしゃいます。現実的には都市はスポンジ状に市街が散らかっているわけで、それを中心に集約するとなると、膨大なコスト(移転費用、交渉など)がかかることになります(スプロール化の結果)。権力的にコンパクトシティを進めるか、バラバラのまま持続可能な都市づくりを進めるか、どういう方向を目指すかを組み立てて行く必要があります。

 

再編への取組

 

様々な動機でスタートする、ということで、

  1. 公共施設の再編
  2. 災害への備え
  3. 自然の再生
  4. 空き家の活用

の4つが挙げられています。そして、饗庭先生が実践されている”空き家活用”の2つの事例をご紹介します。

 

鶴岡の空き家を活用したまちづくり計画

 

不動産市場は縮小、相続税や固定資産税は問題にならない。そのため、常に行政に”空き家の寄付”が持ち込まれる状況の山形県鶴岡市。約2000戸の空き家(ストック)をうまく活用しながら、豊かな都市空間を作り出せないか?ということで始まった空き家を活用したまちづくり計画。

 

まち歩きワークショップを行ったり、

 

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空き家、空き地を活用 鶴岡市神明町でワークショップ より良い町へ課題探る|2011年10月25日付け紙面より|荘内日報ニュース−山形・庄内|荘内日報社

 

模型を使って空き家活用のアイデアを練ったり、

 

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第3回 鶴岡ワークショップ開催 | Shin Aiba lab.

 

住民参加型でまちづくり計画を策定したそうです。ただし、この取組は”盛り上がらなかった”とのことです。”空き家を活用してまちづくり”というと、なかなか楽しい要素を見いだす人は少ないというのが原因ではないかということです。

 

国立市谷保「やぼろじ」の実践

 

逆に「やぼろじ」の場合は”空き家を使って楽しいことしよう”という発想で始まっているので盛り上がったそうです。

参考:空き家だった古民家をカフェ、工房、ガーデン、オフィスを持つ複合的なコミュニティスペースへ!「やぼろじ」(空き家活用事例紹介)

 

昭和30年代の空き家を地域の拠点として再生したこ取組は公的資金の投入はゼロということで、完全に民間の力です。オーナーさんの困りごとは空き家の掃除や庭木の手入れだとのことで、その要望に応え、さらに固定資産税が年間100万円かかるので、家賃として月約10万円を支払うことに。そして、5年後には空き家に戻って来るかもしれないので、定期借家という契約形態をとっているようです。

 

そして大事なポイントとして、知り合いの知り合いなど人的なネットワークと空き家を上手く柔軟に組み合わせている所が挙げられます。今風に言うと「ソーシャルキャピタル」です。空き家で何かやろうという人が現れて、それをおもしろがる人がいて、オーナーさんの理解があれば、お金をそんなにかけないでも魅力的な空き家活用事業が出来るということを教えてくれています。

 

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