2018年9月に刊行された「世界の空き家対策」の「第4章 フランス 多彩な政策と公民連携による空き家リサイクル」から、フランスの経済、人口、空き家の状況についてまとめます。著者は獨協大学法学部教授の小柳春一郎さんです。以下、黒字強調は筆者によります。
毎年20万人以上人口増加するフランス
日本とフランスとでは1人あたり名目GDPはほぼ同水準、平均寿命もOECD中で最高水準に位置しているのなどの共通点がある一方、フランスでは失業率が高いこと、移民もあり毎年20万人以上人口が増加していること、などが日本と違います。
≪1 住宅市場と空き家の現状>1 フランスの経済・人口状況≫
- フランスの人口およびドル建て名目GDPは、日本の人口およびドル建て名目GDPのほぼ半分
- 日本とフランスの1人あたり名目GDPはほぼ同一水準にある
- 相違として、フランスでは移民もあり、毎年20万人以上人口が増加しているが、日本では毎年30万人以上の人口減少が見込まれる
- 失業率は、日本に比べフランスが相当に高い
- 平均寿命は、フランスも日本もOECD中での最高水準に位置している
産業の勃興と人口移動
フランス国内では農業中心の地中海沿岸等から鉄鋼、繊維産業などが進行した北部・東部へ人口移動の流れがありました。しかし、最近では温暖な地中海沿岸等で観光産業が盛り上がり、航空機・ハイテクなどの新産業も勃興するなどにより、再び南部への人口移動が起きています。
- フランスの人口移動には、長い間、農業中心の地中海沿岸等南部・西部から産業化が早く進行した北部・東部への流れがあった
- ところが、最近では、その流れが逆転している
- というのも、北部・東部の諸都市の鉄鋼、繊維産業などは、海外との競争のため近年は衰退傾向にあるのに対し、温暖な地中海沿岸等は、観光産業が盛んであり、航空機・ハイテクなどの新産業も勃興している
- この結果、北部・東部から南部への人口移動が起こっている
- さらに、都市の中心部から郊外への人口移動もある
≪1 住宅市場と空き家の現状>2 住宅市場の進捗と空き家の状況≫
- フランス国立統計経済研究所の統計によると、2016年1月1日現在、フランスの住宅総数は、約3542万戸(前年比1%増)
フランスでも空き家が増えている
フランスの空き家率は2005年は6.3%でしたが、2016年には8.3%まで上がっています。特にパリ周辺の集合住宅は住宅価格・家賃が上昇しています。一方で300万人以上が住宅困難の状況にあるなど、格差や貧困といった課題に直面している現状も垣間見えます。また、フランス全体の持ち家率は約60パーセントと日本と同水準です。
- 内訳は、戸建て1992万戸、集合住宅1549万戸
- 空き家は293万戸(住宅総数の8.3%、前年比3.8%増)
- 空き家の内訳は、戸建て142万戸(戸建て総数の7.1%)、集合住宅150万戸(集合住宅総数の9.7%)
- この統計(フランス本土で2万7千ほどの調査)は、空き家を「売却・賃貸の広告中、買主・賃借人が未居住、相続処理待ち、事業者が将来の従業員のため留保中、特に用途なく所有者が放置(老朽化住宅など)している居住者のいない住宅」と定義している
- この定義は、別荘などの二次的住宅を別項目とし、空き家に含めない
- フランスの別荘数は、2016年には331万戸に達し、この定義によるフランス空き家総数を上回る
- フランスの住宅総数は、ほぼ年1%のペースで増加している
- 空き家率は、2005年の6.3%から2010年7.1%、2015年8.0%、2016年8.3%と増加を続けている
- 「2010年版住宅白書」(フランス)の巻頭言として、当時のセシル・デュフロー国土平等・住宅大臣は、「今日、わが国において、300万人以上の人々が住宅を保有せず*1、1000万人近くの人々が質の低い居住環境に甘んじている。170万世帯の人々が社会住宅*2。民間賃貸住宅の賃借人のうち、5人に1人が収入の40%以上を家賃に充てている」と述べた
- フランスの住宅価格・家賃について、次の指摘もある
- 2000年から2010年までの中古住宅取引価格は2倍強となり(一方、同期間に家賃は29%上昇し、これは家計の可処分所得の増加とほぼ同じ割合とされる)、特に1999年から2007年までは年5%を超える値上がりを記録し、2004年と2005年は15%強値上がりしている
- 2009年には、(アメリカを中心としたリーマンショックの影響を受けて)若干下落したものの、2010年、2011年はそれぞれ5.1%、5.9%の上昇を記録した
- 上昇率が高いのはイル・ド・フランス地域(パリ周辺)の集合住宅
- こうした住宅の値上がり傾向は、基本的には現在まで継続している
- この結果、パリの集合住宅は1㎡単価で1万ユーロ(約130万円)を超えるのが普通であり、専有部分面積80㎡の集合住宅であれば、日本円で1億円以上の価格のものが多い
- パリをはじめとする大都市周辺では住宅を所有するか否かで格差が生まれている
- なお、フランス全体の持ち家率(主たる住居の居住者が所有者である率)は約60%(日本と同水準)で、ヨーロッパで中位に属する